複雑・ファジー小説

Re: 異能者の日常と襲撃【11/18up!】オリキャラ募集予定。 ( No.4 )
日時: 2014/11/22 21:57
名前: るみね (ID: 8hBaEaJR)


 【出会い+】


 【帝都】参区に存在する威圧感を放つ重厚な建物。
 黒煉瓦で建てられ、【帝都】のマフィアが距離を置くその場所こそが【軍警】の本部だ。

 大貫と詩音、千鶴と共に付き添われ、緊張しながらその後ろを歩く桃矢と、全く緊張感を感じさせない鷹人は取調室のような一室に連れて行かれた。

「遅い!!!」
 扉を開けたとたんにそんな怒号が響いた。

「いやぁ、ごめんね紅魅ちゃん」
 鷹人がヘラッと謝る先にはテーブルと椅子が一組ある以外には何もない簡素な部屋に拘束された人物がいた。
 両手に手錠をかけられイライラとした表情を向ける紅魅はその顔を見てさらに青筋を浮かべた。
「しかもなんでバカヒトなの?修兵先輩は?」
「修ちゃんは軍警なんて古巣、いずらくて来たくないみたいよ」
「依頼したのがこいつなんだよ。面倒な異能者相手じゃこいつの異能無効はかなり役に立つ」
 鷹人の巫山戯たような台詞に大貫が追加で説明するが紅魅はまだ納得いかないようだ。
「で。捕まえたんだね?」
「もちろん」
 鷹人が頷くと紅魅の手元からがしゃんという金属音がした。驚いてみれば紅魅の両手にあったはずの手錠が外れていた。
「!?」
 何が起きたかわからずに混乱する千鶴のよこで大貫と詩音は挑発的な態度に顔をしかめた。

「てめぇ……」
「あ、ごめんなさぁい。うっかりしてた」
 まるで悪いとも思ってない声で言うと紅魅は大きく伸びをした。

 軽く手を振って外れた手錠を詩音に渡す。
「じゃ、帰りますね 」
 鷹人はそう言うといつものヘラッとした笑みを見せたのだが、唐突に響いた甲高い声でその笑みが固まった。
「あらぁ、鷹人ちゃん!?」
 その声に驚いて桃矢と紅魅が振り返ると、きちんとした身なりのふくよかな女性がこちらを驚いたように見て立っていた。その顔をみて呼ばれた鷹人の表情が明らかに一瞬動揺したように見えたがすぐにその緊張は消え失せ、いつもの笑みを見せた。
「何を言ってるんですか、奥様。人違いですよ」
「え、だって……」
「じゃあ、大貫さん。依頼料は銀行振込でいいので」
 訳が分からない桃矢と紅魅の背中を押すとその場から逃げるように鷹人は足早に進んだ。
 後ろでは相変わらず女性の呼び止める声が聞こえたが鷹人は振り返りもしなかった。
「いいんですか、ってか。知り合いなんじゃないんですか」
「うっさい」
 どうやら訳ありらしい気がしたが、いつもと違うトーンでそう言った鷹人の圧力に負けて桃矢と紅魅は去っていった。
 女性はあっけにとられたようだが不満そうな顔をしながらも出口の方へ歩いていった。

 残された大貫達三人はその姿が見えなくなると軽くため息をついた。
「なんであんな人たちに頼んだんですか」
 非難めいた口調の千鶴に大貫も苦笑した。
「まぁ、今回は上の連中があいつらの身内に手ぇ出したからな。知り合いとしてほっとけなかっただけだ」
「ちゃっかり依頼料とられてんじゃ全くかっこつきませんよ」
 詩音の言葉で大貫は逃げるように歩き出したので千鶴たちも追った。

「相沢、このあと予定あるか?」
「八千草さんに呼ばれてます。昨日の【拾壱区】の殺人事件で」
「じゃあ、帯刀。【ゴースト】の取り調べお前やれ」
「はい……って、え!?」
 軽く言われた言葉に千鶴は頷きかけて立ち止まった。

「え、と、取り調べなんて。しかも、まだ所属三ヶ月も立ってませんよ!?」
「ちょうどニヶ月と二十二日だな」
「なおさら!【ゴースト】なんて世間騒がせた人の取り調べなんて!」
「誰が一人にやらせるって言った」
 慌てる千鶴の様子をニヤニヤしてみながら大貫は言った。
「俺も一緒だ。心配するな」
「伊達に年取って定年間近なだけじゃないから」
「 一言余計だ、相沢」
 軽口を叩く二人の前で千鶴は緊張をおちつけるように深呼吸していた。
「親父さんみたいな刑事になるんだろ?」
 そう言って軽く肩を叩いた。
「……はい」
 その言葉で迷いが消えたように叫ぶと千鶴は敬礼した。

「今のセクハラですね」
「だ、黙れ!相沢!!!」
 巫山戯た詩音の言葉と応酬する大貫の姿に千鶴は思わず吹き出した。

「早く片付けて飯でも行くか」
「あ、おごりですか。俺も是非」
「お前は八千草と仲良くやってろ」
「八千草さん怖いんですよ」
「こっちは結城警視殿に報告しに行くんだ、忙しいぞ。帯刀」
「はい!」
 いつもの賑やかな光景に吹き出しながら千鶴は二人の背中を追いかけた。




  ________





  ____





  __








 翌日__

 赤煉瓦の街並が特徴の【帝都】拾区。
 美人のウエイターがいるため密かに人気がある喫茶店【猫の目】。その隣の古風なビルの三階が【異能探偵社】の事務所だ。

 訳ありのため社員はタダで借りられる部屋から事務所に向かった桃矢はいつものように事務所のドアを開けた。

「おはよう、桃矢」
「おはようございます」
 挨拶を返したのは 修兵だ。少し離れた場所のアパートを借りているらしいが、すんでる桃矢よりも来るのが速い。
「昨日はお疲れ、依頼料貰ったか?」
「鷹人さんが銀行振り込んでって催促してました」
「まぁ、大貫さんだから大丈夫だろうけど。あとで確認な」
「はい。まだ修兵さんだけですか?」
「そこで死んでる」
 修兵が指差した方を見るとお客用のソファを寝床にして創平が爆睡していた。創平もこのビルに部屋を借りているが、先週また物騒な訪問者が来て創平の部屋は今修理中なのだ。
「あぁ……」
 納得する桃矢と同時に再びドアがあいて紅魅が入って来た。
「おはよう。あと昨日までお疲れ、紅魅」
「おはようです。……全く。なんであたしが【ゴースト】だって疑われなきゃいけないんだよ」
 まだ【ゴースト】の能力も正体も分かっていなかった頃、なまじ能力が断片的に知られているせいで物理攻撃や空間を煙に変わる事ですり抜けられる紅魅は真っ先に疑われたのだ。
 今回探偵社が依頼を受けたのはそうした事情が会ったからとも言える。

「で、どんな奴だったの?」
 簡易的な台所から珈琲を持ってきながら修兵が聞いた。ついでに寝ている創平の頭を叩いて起こす。
「多分瞬間移動系の異能だと思います。ちょっと自信過剰な兄ちゃんでした」
 珈琲をありがたく受け取りながら桃矢が説明した。
「犯人が女でもないのに間違えられたとか余計にムカつく」
 さらにイライラを募らせる紅魅をなだめるように彼女にも珈琲を差し出した。

「おぉはようございます」
 あくびまじりで鷹人が入って来た。
「おはよう。報酬確認したか?」
「はい。けど入ってませんでした」
「え、逃げられたんじゃなっすか」
 驚いたような創平の声に鷹人も肩をすくめた。
「大貫さんに確認します」

「その必要はありません」
 バンというドアを叩き付ける音と一緒にそんな声が事務所内に響いた。
 驚いて桃矢たちが振り返ると小脇に封筒を抱えた少女がいた。

「あれ、君……」
 少女の顔に見覚えがあって、桃矢は不思議そうな顔をした。
 その質問には答えず少女は探偵社の面々の顔をぐるっと見渡した。

「あの、狗木さんは」
「……俺だけど」
 鷹人が手を挙げた。すると少女は歩いていって
持っていた封筒を手渡した。

「これ、大貫警部から預かりました。今回の依頼金です」
「あ、手渡しなんだ」
 受けとるが少女は立ち去ろうとしなかった。

「……?」
「それと……」
 なんとも言いづらそうな少女、千鶴はスッと顔を上げると大きく息を吸った。








「帯刀千鶴と言います。…………ここで働かせてください!!」