複雑・ファジー小説

Re: 異能者の日常と襲撃【11/30up!】オリキャラ募集中。 ( No.16 )
日時: 2014/12/07 12:49
名前: るみね (ID: kzWZEwhS)

 【日常A】=猫の目=



【異能探偵社】

 アンティーク調の板にそう刻印されている事務所の扉を見て少女、千鶴は大きく息を吸った。
 そうして少し躊躇してからバッとドアを開けた。

「おはようございます、今日から……」

 うわずった声で叫んだが事務所の中に誰もいない事に気づいて戸惑った。
 十一人の社員を抱えているはずの事務所は誰もおらず閑散としていた。
「あれ……」
 戸惑っていると事務所の奥まった簡易キッチンから微かな物音がしてフッと男が顔をのぞかせた。
「あ、お、おはようございます」
 つっかえつつ千鶴が言うと男、修兵も挨拶を返した。

「あの、皆さんは……?」
「今日は週に一回の報告会」
「報告会?」
「各自が受けた依頼報告とか情報交換もかねて朝飯一緒に食うんだよ」
「それって…冬月さんとかも?」
「あぁ、長期任務のない社員は基本全員。あ、店教えるからちょっと待ってな」
 修兵はそう言うと手に持っていた書類を簡単に片付けた。




「おっーす」
 喫茶【猫の目】のドアを開けると朝食の時間帯で席はそこそこ埋まっていた。常連の若い男性客や老紳士、貴族風の若い女性がモーニングを食べている中、 探偵社の面々はカフォの角のいつもの席に集まっていて、気づいた創平が手を振る。
「あ、修兵さん。ちーちゃんも。珍しいっすね、修兵さんが一番じゃないの」

「 書類整理してたんだよ。お前の部屋の修理経費も含めて」
「あぁ……」
「ってか、ちーちゃんって言ってんのか」
「千鶴ちゃんでしょ。ちーちゃんでいいっすよね」
「え、あ。はい!」
 突然そう言われて千鶴は弾けるように頷いた。
「とまどってるじゃん、嫌だったら否定していいのよ」
 潤が微笑んでいった。
「い、いえ!とんでもないです!」
「潤。新人虐めるなよ?」
「やですねぇ、修平先輩。虐めるのは男の子だけですよぉ」
「いや、それも駄目だろ」
 太一がぼそっと言ったが潤は聞こえない振りをした。
「あと来てないのは……桃矢と、バカヒトか」
 そう言った修兵の眉間に青筋が浮かんだ。
「バカヒトさんは寝坊だと思いますよ」
「桃矢は今来たよ」
 牡丹が扉の方を見て言った。
 たしかに桃矢がなぜか青い顔で慌ただしく店に入って来た。
「おはよう桃矢。どうした?」
 大地が聞くと桃矢は誰かに聞いてほしかったのか弾けるように話し始めた。
「き、聞いてくださいよ。探偵社のビルでてからここに来る途中で上から石膏像が落ちて来たんです!!石膏像ですよ!?当たったら俺死んでましたよ!?」
「石膏像?」
 あまりに突拍子もない事に千鶴が思わず叫んだが周囲の反応はあまりなかった。
「え、当たったの!?」
「当たったらココにいませんよ。ってかなんで潤さん嬉しそうなんですか」
「いや、当たったら桃矢の脳砕け散っちゃうのかなって思って」
「潤さん、それかなりグロいっすよ」
「それってマルス?ヘルメス、モリエール?ジョルジュ?……」
「名前なんて知りませんよ!」
 まるで心配の素振りを見せない探偵社の面々のぼけのような台詞に桃矢も突っ込むのみで、千鶴はその暢気な調子に呆気にとられていた。
 同じような応酬は大貫や詩音が良く行っているが、やはりソレとは空気が違う。

__なんで私入れたんだろう……





 昨日。
 突然依頼料を渡しただけの千鶴の突拍子もない願いに探偵社はざわついた。
「あんた。……軍警よね?」
 紅魅が呆気にとられたように聞いた。
「…………いえ。……クビになりました」
「はぁ!?」
「なんでまた?」
 桃矢の疑問は至極当然だ。なにしろ世間を騒がせていた【ゴースト】を(桃矢たちが手伝ったとはいえ)逮捕したのだ。褒められる事はあってもクビになる理由が見当たらない。
 少し迷うようなためらうような間があってから千鶴は覚悟を決めて口を開いた。

「……【ゴースト】は……取り逃がしました」

 一瞬の沈黙ののち。

「はぁっ?!!」

 驚いたのは確保に携わった桃矢や鷹人、紅魅だ。
「ちゃんと逮捕しただろ?」
「取り調べて逃げられたんです!ちょっと私が油断したから……大貫さんが庇ってくれようとしたんだけど注目度が高いから上層部もそう簡単に納得しなくて……!」
 やけくそのように叫ぶ千鶴に桃矢たちもなんと声をかけるべきか戸惑うしかない。
「でもそれでなんでうちに」

「上司に勧められて……」

(大貫さんか……)
 桃矢たちの脳裏に煙草をふかす大貫のイメージが浮かんだ。

 いまにも泣きそうな千鶴を黙ってみていた修兵がおもむろに口を開いた。
「軍警の入隊席番は?」
「は、八番です」
 それを聞くと牡丹は感心したように軽く口笛を吹いた。他の探偵社員も少し表情が変わる。

「なんですか、席番て」
 わからない桃矢が牡丹に尋ねた。
「軍警は毎年入隊のために試験があって成績が高い者から同期の中で序列がつくの。あの子は上から数えて8番目ってこと」
「へぇ……」
 あまり理解で来ていないと思ったのか徹が横から補足した。
「ちなみに毎年軍警には六十人から七十人が入ってる。女子で一桁は相当だよ」
「……」


 不安そうな千鶴に修兵は少し思案するような表情を見せたが、
「採用」
「え?」
「えっ!?」
 驚いたのは千鶴よりも桃矢や探偵社員だった。

「な、なんで!俺のとき文句言ってたのに!」
「俺の時だってなんか難癖つけてたっすよね!」
「黙れ!」
 驚いて抗議する桃矢と創平を黙らせると修兵はいつものキツい表情を和らげた。

「ようこそ、異能探偵社に」








 修兵がそう言った後はなんの問題もなくあっさりと受け入れられ、逆に千鶴が呆気にとられてしまった。大地や牡丹も特に異論は唱えず、その場でビルの空き部屋に千鶴の部屋を借りることにまでなり、こうして朝の報告会に集まっている。

「清子、モーニングセット三つ追加」
 長い黒髪の美人が大地の言葉に微かに頷くとカウンターに返っていった。

「露人さん相変わらず綺麗だ……」
「もう露人じゃないよ」
 太一の言葉で創平が落ち込んだ。
「あぁ、なんであんな人と……」
「そんな事言ってるの聞かれたら清子に嫌われるぞ」
 面白そうに大地が冷やかした。
「あのぉ、報告会なんですよね」
 いつまでたっても雑談なので千鶴が絶えきれずに口を挟んだ。
「あ、そうだった」
「新人に注意させんな」
 暢気な大地に修兵がイライラ言う。

「まぁ、俺の昨日までの護衛はなんの問題もない。依頼料もちゃんともらったよ」
 大地が言ったのを皮切りにそれぞれが自分の仕事の状況を説明していく。千鶴はその仕事内容を聞いていた。

「じゃあ、このあとは……縁さんと徹は軍警依頼の仕事。紅魅と太一は昨日からの行方不明調査依頼継続。桃矢は千鶴の教育係で今日きた依頼な」
「え!?」
「下っ端は新人のお守り。これ通例」
「俺も桃矢の初仕事のときついてったっしょ?」
 創平の言葉で桃矢の脳裏に初仕事の光景が浮かぶ。
__あぁ、喧嘩の仲裁とか言って抗争になって大地さんの始末書書いた奴ですね
 刺のある感想を思ったがカウンターでとんでもない答えが返ってきそうなので無言で頷くのに納めた。ついでに徹が面白そうな顔でこっちを見て来たが黙ってろという表情を向ける。

「大丈夫。俺も行くから」
 大地が微笑むが拳銃のトラウマを思い出してあまり頷けない。頼りにはなるが同時に怖いのは確かだ。

「俺と潤と創平とバカヒトは依頼もないし待機組な」
「へ〜い」
「つまんないのぉ」
 文句を言いつつも皆食事を終えるとそれぞれ仕事に向かう。
 待機組は修兵は先に事務所に戻り、残った潤と創平は食後ものんびりすることにする。


「今日も頑張って仕事しますか」
「行ってきまぁす」
 外に出ると太一は大きく伸びをして紅魅と一緒に通りを歩いていった。

「さて、あたしらもいくかい」
 牡丹も軽く身体を捻る。徹もあくびをかみ殺しながら頷いた。
「……そういえば姐さん昨日非番なのにいませんでしたね。また買い物ですか?」
「いや、デート」
「…………え!?」
 衝撃的な台詞に徹だけでなくそばにいた桃矢もおもわず聞き返した。
「……なんだい、その間と驚きは。ほら、徹さっさと行くよ」
 そうそうに歩き出した牡丹に我に帰った徹も追いすがった。

__だ、だってデートって!あのデートですか!?
_あんたが考えてるデートだよ
__あ、相手は!?
_潮見恭助って五つ下で赤毛の営業職
__……どこで出会ったんですか、そんな人と
_昔の友達の紹介。
__……よく姐さんの仕事でひかれませんでしたね。女性が荒事専門の探偵って
_女性下着の販売員って嘘ついてるもの
__絶対バレますよ
_そうかい?
__その人が後ろから抱きついて来たらどうしますか
_投げる。
__普通の女性はしません!


 風に乗ってかすかに聞こえる会話におもわず苦笑する。

「さってと、俺たちも行くか」
 大地の言葉で千鶴は頷いた。
「ところで、今日ってなんの依頼なんですか」
「ん〜、【拾壱区】の【地下街】」
 その言葉で桃矢の表情が変わった。
「な、なんでそんなとこ……」
「なじみの頼みなんだ。まぁ、悪い奴らじゃないから」
 帝都の下域に詳しくない千鶴は交わされる言葉についていけない。

「あの、なんですか?」
 千鶴の疑問に桃矢はとまどいながらも答えた。

「帝都には地区ごとに大なり小なり地下街があるって知ってるよね」
「まぁ、はい」
 地下街のほとんどはマフィアのシマであり軍警もおいそれとは手が出せない無法地帯だ。

「その中で拾壱区の地下街は特殊でさ……。違法闘技場がいくつかあるんだよ」
 闘技場……?
 その言葉が千鶴の脳を刺激した。


「無法者の闘技場。通称【煉獄】__」