複雑・ファジー小説

Re: 異能探偵社の日常と襲撃【12/29up!】オリキャラ募集終了。 ( No.28 )
日時: 2015/01/13 23:13
名前: るみね (ID: fYloRGSl)
参照: なんか順番間違えた気がする。

【襲撃B】


 微かに珈琲の匂いの漂う店内。
 ラジオのクラシックのBGMが流れる一方で、目の前では雰囲気に似つかわしくない拳銃を構えた男たちがつる子を人質に立っていた。

「てめぇら、通報してネェだろうなぁ!」
「し、してません!」
 泣き出しそうなつる子の言葉にも男達は安心しない。
 普通ならばただ嚇し付けて逃げれば良い者をこんな行為をしているのだから精神があきらかに正常とは言いがたい。
「あんたどこ強盗したの」
「そんなの知ってどうなるってんだ?」
 潤の言葉に苛立たし気にもう一人の男が照準をふらふらと潤達に向ける。闇市場で見るものよりもかなり大型で改造かなにかして殺傷能力を高めたもののようだ。

「こんな時に紅魅がいると楽なんだけど……」
「そっすね……」
 いっそ創平の異能で強引にでも吹き飛ばしてやりたいがつる子の影に立っているのでこのいちから攻撃すればつる子を巻き添えにしかねない。
 潤も銃でも切断してやろうかと隙をうかがうが相手の様子からして少しでも動けば撃ちかねない。また即座に制圧するにしても入り口から潤達のいる席の間にはテーブルも多くそりなりの距離があるので一瞬ではさすがの潤でも無理だ。

「とりあえず軍警に告げ口されても困るからなぁ」

 焦点の定まらない男はゆっくりと銃口をつる子の頭に向けた。
 青い顔で震えるつる子に創平は意を決して息を吸うが、その前に外から派手に響いたガラスの割れる音に邪魔された。
「あ?」
 その音に強盗の意識が完璧に つる子からそれた。
 二人はその隙を見逃さなかった。あとで謝るとしてテーブルを踏み台に男達に向かって飛び出そうとしたのだが。
「ぐあっ!」
 創平の手が届く前につる子に銃を向けていた男の悲鳴が響いた。
 驚いて見れば亜麻色で癖っ毛の男性が男の銃を蹴り上げその勢いのまま腕を捻って取り押さえるところだった。
「!?」
 突然の男の登場で創平達はもとよりつる子や店内にいた客たちも一瞬混乱した。
            、、、、、、、、、
 なにしろ彼はいままで店内にいなかった客だからだ。

 しかし、動揺している暇はない。
 相方が取り押さえられているのに気づいた男が銃を突然現れた男に向ける。が、潤の爪が一閃し銃を切り裂いた。
「ヒッ……!」
 思わず引きつった悲鳴を上げた男は武器を失ったと気づくやくるりと相方に背を向けて店の外に逃げ出した。

「あ、てめぇっ!」
 創平が叫び、潤や常連客たちも思わず後を追って通りに出た。

 通りにはガラスが散乱しており、路肩に駐車された車のボンネットには何故か木製の引き出しが突き刺さっていた。
 その光景に創平は眉をひそめたがそんな事は後だと思い出す。

 みると男は転げるように通りを逃げていたのだが何かに足を取られたのかつんのめって倒れた。
「逃げんじゃねぇよ!」
 通りならば周りの被害を(そこまで)気にする必要はない。
 今度こそ息を吸うが角から現れた見覚えのある女性に気づいて慌ててやめた。

「清子さん!そいつ強盗です!」
 潤の叫び声で清子は目の前の男に気づき足を止めた。

「どけっ」
 転んだ男は足をもつれさせながら立ち上がると隠し持っていたナイフを荒々しく突き出した。
「清子ちゃん!」
 常連客の男性が思わず叫んだがその言葉は不要だった。

 突き出されたナイフをもった腕は伸びるような手刀で弾かれた。連続でもう一方の手が男の手首を打ちナイフを落とす。
「ぐっ!」
 思いもかけない反撃に男はあっさりナイフを取り落とすと手首を抑えて立ち止まった。
 そして、創平と潤が駆けつける頃には男の身体は綺麗な放物線を描いて宙を舞っていた。

「ぐぎゃ」
 潰れた蛙のような悲鳴を上げて男は道路に伸びた。
「こいつらなんなの?」
 いつもとかわらぬ冷静な声で対処する清子に潤はおもわず拍手をおくり、彼女が元は探偵社の一員なのだという事を思い出した。
「今朝方強盗やって逃げてた犯人ですよ」
「あぁ」
 ラジオを思い出したのか納得する。
 数歩遅れた創平も追いつく。男の後ろ手を抑えて立たせる。観念したのか抵抗する気はないようだ。
「清子さん!大丈夫でした?」
 大丈夫だろうなとおもいつつ聞いたのだが予想外に清子は首を振った。

「大丈夫じゃない。重傷」
 言葉少なに言うと手から下げていた袋を見せた。
 見れば買ったばかりの卵は衝撃で見事にひびが入りいくつかは割れて白身が溢れていた。
「今度は割らない」
 それを聞いて二人は思わず吹き出した。
「もう、それぐらいなら大丈夫ですよ」
「当麻先生にスクランブルエッグでも作ったらいいんじゃないっすか?あの人なら清子さんの手料理なら喜んで食べますよ」
「……そうね」
 そう答えた清子の表情が微かに嬉しそうなのを見て余計に創平は面白くない。
 そっぽを向いた拍子に立ち去ろうとしている男に気づいた。
「あの!」
 創平の声に男は驚いたようにビクッと肩をふるわせた。
「あ、え!?はい?」
 まるで声をかけられるのを予想していなかったように男はしどろもどろに答えた。
 亜麻色のくせっ毛でかなり目つきが悪いヤンキーのような風貌だが今は創平に声をかけられて何故か動揺していた。
「さっきはありがとうございました」
「い、いや」
 どもりつつ男は首をひねった。
「あの、なんで俺に気づいたの?」
「は?」
「あ、いい。忘れてくれ」
 男に聞かれた言葉の意味が分からずに聞きかえすとあわてて否定した。

「じゃあ……」
 そう言った男は携帯を取り出すと足早に去っていった。

「なんだったんだ?」

 創平は男の言動に首をひねりながら改めて道路の状態を見渡した。
 なんでガラスが散乱し引き出しが落ちているのかも訳が分からないが……誰もいないので確認しようもない。

「はぁ、やっぱ暇じゃネェな……」
 溜息まじりに言うと動揺から回復したらしいつる子が創平の肩を叩いた。
 この地区にすんでいるだけあってこうした事態の対応も復活も早い。

「ごたごたして迷惑かけちゃったから。フレンチトースト食べない? あの卵だけど」
 清子がさきほどの重傷の卵を見せる。
 言われて気づいてみればもう昼をとっくに回っていた。そんなにのんびりしていたのかと軽い衝撃をうけたが 、その誘いを断る理由はない。
「いただきます!」
「日向さんと創さんもどうぞ」
「これはこれは」
「いただきます」
 常連の老紳士と男性もつる子の申し出を嬉しそうに受けた。

「あ、じゃあ修兵さんよんできますよ」
「バカヒトも上じゃない?ついでにつれてきなよ」
「そうっすね」
 創平はそういうと散らばったガラスを避けながら事務所のビルに入っていった。


「じゃ、ちょっと遅いお昼にしよ」

 清子はそう言うとふふっと微笑んだ。









  【日常と襲撃 B】猫の目  =完=