複雑・ファジー小説
- Re: 異能探偵社の日常と襲撃【1/26up!】 ( No.34 )
- 日時: 2015/01/30 18:12
- 名前: るみね (ID: L1jL6eOs)
- 参照: ややこしくなってると思います。私も訳が変わらなくなりそうです←
【日常E】軍警と二羽の烏
【猫の目】を出た牡丹は伸びをするように手を挙げると軽く身体を捻った。
「さて、あたしらもいくかい」
徹もあくびをかみ殺しながら頷いた。
「……そういえば姐さん昨日非番なのにいませんでしたね。また買い物ですか?」
「いや、デート」
「…………え!?」
衝撃的な台詞に徹だけでなくそばにいた桃矢もおもわず聞き返した。
「……なんだい、その間と驚きは。ほら、徹さっさと行くよ」
そうそうに歩き出した牡丹に我に帰った徹も追いすがった。
「だ、だってデートって!あのデートですか!?」
しどろもどろに尋ねる徹に牡丹は頷いた。
「あんたが考えてるデートだよ」
「あ、相手は!?」
「潮見恭助って五つ下で赤毛の営業職」
「……どこで出会ったんですか、そんな人と」
「昔の友達の紹介」
「……よく姐さんの仕事でひかれませんでしたね。女性が荒事専門の探偵って 」
「女性下着の販売員って嘘ついてるもの」
言葉を濁した徹に牡丹はあっけらかんと言ってのけた。
あまりの潔さに一瞬何を言っているのか理解出来ずに戸惑うがすぐに叫んだ。
「絶対バレますよ」
「そうかい?」
不服そうに聞き返す牡丹に徹が質問した。
「その人が後ろから抱きついて来たらどうしますか」
「投げる」
「普通の女性はしません!」
即答した牡丹に噛み付くが牡丹ははいはいというように手を振ってあまり聞く耳を持たなかった。
__まぁ、あまり年下の俺が言う事でもないけど……
心の中でブツブツいいながら結局それにはあまり触れずについていくが、よそ見をしていたので通行人とぶつかってしまった。
よろけた相手を慌てて支える。
ぶつかったのはあまり”拾壱区”では見ないような綺麗な服装をした女性だった。
「すいません!」
徹が謝ったが女性はたいして気にしていないように笑顔を返した。
「いえ。大丈夫です。こちらもボーッとしていましたので」
言葉遣いからも明らかに下の地区の人間ではない。不審に思ったが女性が続けた質問で我に帰った。
「あの、この近くに”異能探偵社”という探偵事務所があると伺ったのですが……」
「探偵社?」
思いがけない質問に徹がつまると横から牡丹が助け舟を出した。
「あぁ、それならすぐそこの【猫の目】という喫茶店右側のビルに入っていただけば看板がありますよ」
牡丹が説明すると女性は笑顔を浮かべお礼を言って歩いていった。
「なんですかね。お嬢様が訳ありの依頼ってかんじですか」
「まぁ、あとで修兵に聞いてみなよ」
「…ですね。姐さんもああいう風になれば普通の女性って思われるんじゃないですか?」
「どういう意味だい」
眉をひそめる牡丹に桃矢は苦笑いで誤摩化した。
ここで案内した彼女が探偵社で騒ぎを起こす事になるとは微塵も考えていなかったが、二人はそれを知るのは大分後になる。
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「軍警の依頼って、やっぱり大貫さんかい」
軍警察庁の入り口で出迎えた男は牡丹の言葉に苦笑した。
「こっちは姉ちゃんがくるとは知らなかったよ」
「あいにく今日はあたしの当番なんでね」
「すいませんねぇ、喧嘩腰で」
挑発的な牡丹をなだめるように徹が謝った。
「もう慣れたよ」
諦めたように頭を掻くと二人を裏手に案内した。
裏口から軍警内にはいると、なにやらかなり慌ただしい様子だった。
あまり広くない廊下を書類をかかえた人間や武装した軍警官たちが足早に歩き去っていく様子を見て、ただ事ではない雰囲気を感じさすがの牡丹も真剣な表情を見せた。
「なんの騒ぎだい?」
「お前らだって先日の事件の事は嫌でも耳に入ってるだろ」
もちろん地下街のある闘技場の襲撃事件の事だ。牡丹と徹が頷くと大貫は胸ポケットから複数の写真を見せた。
何が映っているのかを確認した徹は思わず顔をしかめた。
それは軍警が撮った現場写真だった。現場の状況や遺体の傷の状況などが納められている。凄惨な状況はすぐに見て取れる。
「これが現場か。ひどいな……」
「いくら地下街と言えど不干渉でいられる事件じゃないね」
「まぁな。ゴーストは逃げ出すし。そのうえ今朝方もどっかで強盗おこした馬鹿まで逃走中。結城の野郎はいないし、上はお冠。軍警は今大混乱の絶賛人手不足中なんだよ」
イライラした大貫の言葉。たしかにこの慌ただしさは納得出来る。
「で、あたしらへの依頼内容は?」
「これからちょっとした遠足に行くもんだから、それの補助要因だ」
「遠足?」
あまりその言葉が本来差すようなのほほんとした絵がどうしても考えられないのだが、
徹の想像の通り、大貫に連れて行かれた部屋には武装した警官がずらりと整列する部屋だった。ざっと三十人以上。みな緊張した面持ちで装備の点検を行っている。
「あまり楽しい遠足って感じじゃないね」
「だろうな」
すでに部屋で待機していた詩音が小声で言う。と部屋の前列に立っている女性に大貫が合図した。
「八千草。こいつらが補助要因だ。実力は俺が保証する」
「ありがとうございます」
八千草は軽く会釈すると牡丹と徹にも簡単に挨拶をすませ、警官達に向き直った。
「これより、拾弐区地下街【煉獄】への強制摘発を開始する!」
「ちょうど1週間前。拾区でおきた【敷島】のマフィア構成員の惨殺事件。そこからまったく同じ手口で起きた3日前の【鰐淵】傘下の闘技場惨殺事件ーー」
作戦概要を話し始める八千草の話を頭に入れつつ徹は首をかしげた。
「軍警が地下街に手ぇ出すなんて珍しいですね」
これまで地下街では敵対マフィア同士の抗争は大なり小なり存在した。探偵社がそれに巻き込まれた事も何度かある。しかし、軍警はそうした事態には率先して仲介に動くという事はなかった。殺人事件が起きれば調査はするがマフィアが絡むとなれば深入りはしてこない。
修兵曰く軍警の上層部とマフィアの上層部の裏取引や交渉が存在するらしく、そうした体制も修兵が軍警に嫌気が指した要因だと言っていた。
「一般人にまで被害がひろがってるとなればそんな日和見なこと言ってもいられまい」
「違法闘技場はマフィアの収入源なんだから、そこ叩けばマフィアの力も弱体化すると思うけどね」
「地下街で派閥を聞かせている二つの組織【鰐淵】と【敷島】。今回の事件、軍警はその一つの【鰐淵】が殺し屋を雇って敵対してる組織の闘技場を襲撃したとみてる。最初の【敷島】構成員殺しは小規模だったがな。俺が丁度担当したが遺体は全員闘技場で殺された人間達と同じように殺されてた」
「でも【鰐淵】が犯人なら闘技場襲撃は同じ【鰐淵】の傘下組織ですよ?」
「その闘技場のオーナーは自分の組織から敵対組織である【敷島】に寝返ろうとしてた」
「……なるほど」
「闘技場は組織には美味しい収入だ。そこを襲撃されれば組織の戦力を落とすどころか、人は離れいずれ内部から崩壊する」
「それで今回は襲撃を計った組織のガサ入れって訳ね」
「そうだ。拾弐区の地下街を中心に幅を利かせてる【鰐淵】の経営してる闘技場、三つに入って闘技場の人間から組織ごと潰す」
いつもの大貫に似合わない妙に力のこもった言葉に徹は少し引いた。
「なんかあったんすか」
「……いや。なんでもねぇよ」
徹に覗き込まれて大貫はあわてて否定した。首を傾げる徹はなにか知ってる風の牡丹の表情に気づく。
「姐さん。なんか知ってるんですか?」
「知ってるけど、大貫さんがいわない事はあたしは言わないよ」
ひやかしでない真面目なトーンでいわれ、徹は踏み込む機会を失ってそのまま聞きそびれた。
「さ、いくぞ。俺の現役最後の仕事だろうからな。最後までつきあってくれや」