複雑・ファジー小説
- Re: 異能探偵社の日常と襲撃【2/5up!】 ( No.36 )
- 日時: 2015/02/13 15:05
- 名前: るみね (ID: L1jL6eOs)
【日常B ②】猫の目に全てが集まる。
差し込む光も傾いて徐々に気温も下がり始める時間帯。拾区の大通りは、先ほどまで散らばっていたガラスや大破した車も業者に撤去され、いつもの状態に戻っていた。
カフェ”猫の目”にはアールグレイの紅茶の香りと香ばしい甘い香りが漂い、騒動から落ち着いた探偵社の面々や常連客の創や日向が強盗の緊張から解放されて談笑していたのだが。
「美味しいです!」
嬉しそうに言ったのはカウンターの一席でつる子特性のフレンチトーストを頬張る麻里子だ。
先ほど異能探偵社にやってきて器物破損などの問題を起こした彼女だったが、修繕費が麻里子が払うと折り合いがつき、今は”猫の目”に場所を移し、諸事情で割れた卵で作ったフレンチトーストを食べている。
「良かった。お嬢様に気に入ってもらえて」
「お、お嬢様なんてやめてください!」
清子の軽い言葉に麻里子は必死に否定する。その様子にふふっと笑う。
「あそこ……天国だ」
「清子ちゃんはお母さんもリアル天使だしね〜」
女子二人の談笑に見とれる創平とつる子だがその創平の様子に潤はムスッとして睨んだ。
「創平君。私の事見えてる?」
「……え?なんか言った?」
思わず聞き返した創平の首筋に潤の爪が当てられた。
「一回切られてみる?そしたら本物の天国に行けるよ」
普段と変わらない微笑に逆に危険な空気を感じて創平はあわてて首を振り、つる子も足早に他のテーブルに歩いていった。
そんなやり取りをする二人の一方で、事務所から猫の目に移動していた修兵と鷹人はなにやら言い争いをしていた。飛び込みの依頼は少ないので今は探偵社の扉には「現在、事務所をあけております」という言葉と修兵の連絡先を書いた看板が下がっている。
「なんで俺が!」
「仕方ないだろ。こいつら連行しようにも近くの交番出払ってて誰もいないしさ。なら大貫さんに直で引き取りに来てもらうのがいいじゃん」
「それでなんで連絡するのが俺なんだ!」
口論の原因は店の隅で縛られている2人組の強盗だ。
拘束したはいいが、今しがた事務所から来た修平が交番に連れて行ったが丁度巡回中らしく警官は出払っており、結局すぐには帰ってこず、彼らを軍警に引き渡す事が出来なかったのだ。
仕方なく再び”猫の目”に戻って来て、後ろ手に縛り、グルグルに拘束している。そして、現在。強盗犯を捕まえた事を大貫に連絡しようとしているのだが——。
「頼むよ、修ちゃん!」
「人に頼みたいならまずはその呼び方をどうにかしろ」
元々探偵社に入社する前は軍警にいた修兵は大貫とも付き合いがある。が、あまり軍警時代に良い思い出がない修兵は鋭い目で鷹人を睨んだのだが、結局根負けして携帯をとった。それでもボタンを押すのをためらい、数秒の間躊躇したが結局ため息をついて大貫に電話をかけた。
「……お久しぶりです。園村です」
固い口調で挨拶する修兵に絶えきれず創平が吹き出した。その頭に拳骨を落としてから挨拶もそうそうに切り上げると本題に入った。
「今朝、強盗事件ありましたよね。2人組の。そいつら捕まえたので報告と引き取りを頼みたいんですけど」
__あ〜、犯罪者だぁ?なら近くの交番行け。こっちは今大問題発生中なんだ
「一般人のいる場所に犯罪者放置しとくほうが大問題だっての……。だいたい交番に人がいないから連絡したんですよ」
__人がいない?知らねぇよ
「知らないじゃなくて、ちゃんと引き取りに来てくださいよ!?」
その親を叱るような口調に周囲は必死に吹き出すのを堪える。その様子を視界から外すように修兵はしばらく押し問答を続けていたが、
__あ、悪いな。キャッチ入った。切るぞー
「は、ちょっと!ちゃんとこいよ!?」
とうとう敬語ですらない言葉を叫んだが結局電話は切られた。
「どうだった?……って無理だよね」
「……まぁ、夜までには来るだろ」
「今日軍警に牡丹姐さんたち行ってるんすよね。大貫さんがこっちに仕事回す時はだいたいデカい仕事がある時だからそれじゃないっすか」
創平の言葉に二人も納得する。
「あの、すいません。ごちそうにまでなってしまって」
フレンチトーストを食べ終えた麻里子がお礼を言った。なにやら言い争いをしていたので言うに言えなかったのだろう。
「いや。俺らにも丁度良かったので」
修兵の言葉に再び頭を下げてから麻里子は鷹人の隣に腰を落とした。鷹人は少し戦いたが麻里子は真剣な表情なので何も言わなかった。
「で、さきほど言っていた相談なんですけど……」
「あぁ、人探しでしたね」
営業口調に切り替えつつ修兵は尋ねた。
「そうなんです。探してほしいのは……私の弟なんです」
▲▽
「で、名前は?」
地下街から煉獄の裏通路を使って無事に抜け出した一行は拾弐区を抜けて拾区の暗い路地裏に潜んでいた。今は落ち着いて乱れた息を整える。
そこでようやく桃矢が大地がつれて来てしまった少年に声をかけた。さきほどまで気を失っていたが逃げている途中で目を覚ましなにやら分からぬうちにここにつれてこられたのだ。
少年は桃矢の問いに脅えるように後ずさった。まぁ、突然目の前で大量殺人がおき、見知らぬ大人につれてこられればこうなるだろう。
「ったく、大地さんのせいですよ」
ジトッとした目で大地を睨む。入れ替わりで侑斗が少年に近づいて目の高さまで腰を落とした。
「ボク、名前は?」
「子供扱いするな、ひょろひょろ!」
直球で飛んで来た言葉に侑斗の頬が引きつった。同時に後ろにいた燐太郎がうひゃうひゃと妙な声で笑いだした。
「ユウマ。名前」
そう言ってそっぽ向くユウマに興味を持ったのか今度は燐太郎が近づくと大きな手をユウマの頭の上にのせた。
「ユウマか。なんで闘技場なんて入ったんだ?」
黙ってそっぽをむくユウマに燐太郎はため息をついた。
「格好的に地下街の孤児って感じはしネェんだよな」
そこで桃矢は改めてユウマの服を見た。たしかに、汚れてはいるが、大人の着ていた古着を着回しているような孤児とは違いちゃんと自分にあったサイズのものをきている。
しかし、それにもユウマは何も言わない。
「子供が来ていい場所じゃねぇよ、俺様の試合が一度でも見てみたかったってんならなにもいわネェけどな」
「燐太郎さん……」
「燐太郎さんじゃねぇ、燐さんだ!」
蓮璃のあきれた声にいつものように突っ込む燐太郎だが表通りを慌ただしく通り過ぎる軍警にさすがに声を潜めた。
ここまでかなり軍警を見かけたが、その慌ただしい様子や着ている警官の制服からさきほど地下闘技場にやってきた軍警とは別件のようだ。
「今朝の強盗の配備か?」
「それはこことは別の地区だ。あれじゃないか?」
そういった隼は空気中のにおいを嗅ぐと路地から少し顔をのぞかせちょうど見えた人だかりを指差した。
「爆薬の匂いがする。爆発事件でもあったんだろ」
それを聞くと燐太郎はニヤッと笑った。
「ともあれ通行人も軍警も今はあっちに目が向く。地下から連絡が入る前に行くか」
「猫の目ならすぐそこで少しもしたらバレそうですけど」
「灯台下暗しって言うだろ?」
「あ、ちょっと燐さん!」
そういうと侑斗の肩を抱いて先頭を歩いていった。
「お前らも大変だな」
変わらない同僚に苦笑しながら大地が蓮璃と隼をねぎらった。
▲▽
「なるほどね……」
「10日前から行方不明か」
麻里子の説明を聞き終えた探偵社の面々は腕を組んだ。
「えぇ……」
「上位地区ならまだ心配ないがふらふらここら辺まできてるとなるとかなり心配ですね」
潤が呟いた。
人身売買などはさすがにないだそれでも一人で歩くのは危険だ。
「あ、思い出した……」
考えこんでいた鷹人が手を叩いた。
「いつも麻里子の後ろにくっついてたあの子!?」
「えぇ、そうです」
頷く麻里子に鷹人は首をひねった。家を出る前。まだ許嫁という事を知らずに麻里子と遊んでいた頃、確かに小さい少年が一人くっついていたのを覚えている。麻里子の事が大好きで、一人が嫌な寂しがりだった。大人しい子であまり家出をすると言うイメージに結びつかない。まぁ、それから何年も立っているし、性格は変わるものだが。
「なにか家出するような原因でもあったのですか?」
修兵の問いに麻里子は答えるのに少し戸惑った。
「でも、それでなんで俺たちなんすか?冬峰家なんて名家のご子息なら軍警がまっさきに動きそうなもんすよね」
創平のもっともな疑問に麻里子の表情が硬くなった。
たしかに、帝都でも有数の冬峰家。もし、その家の関係者がいなくなったとなったらまっさきに疑われるのは誘拐であり、そうなったら頼むのは町の探偵ではなく軍警の特別科であるべきだ。
「実は……弟にはちょっと問題があって」
いいずらそうに言いよどむ麻里子に鷹人たちは黙ってその答えを待ったのだが、その沈黙は派手に鳴り響いた入り口のベルに壊された。
「よぉ!」
「燐太郎さん……」
珍しい訪問者を出迎えた清子は入って来た人物に驚いた。
「久しぶりだねぇ、清子ちゃん♪最後に会ったの、まだ大地が探偵社の下っ端の頃だったよな」
「そうですね」
なれなれしく回して来た手を叩く。
「ゴメンな、清子」
後から追いついた大地が手を合わせた。
「八人大丈夫か?」
「大丈夫。修兵たちもいる」
そう言ってカウンターの探偵社の面々を指差した。
「ただいま戻りました」
「おかえりー、桃矢くん。千鶴ちゃん。ってか随分増えてるね」
「いろいろあったんですよ!あの地下闘技場襲撃事件に遭遇しちゃうし、軍警には追いかけられるし」
「しょっぱなから大変な仕事だったね」
「はい……。なんか家出らしい少年まで保護しちゃうし……」
「あの、それでそちらは?」
麻里子に気づいた桃矢が尋ねた。
「あぁ、狗木さんの許嫁の……」
紹介しようとした潤は麻里子の様子に違和感を覚えて彼女の顔を覗き込んだ。
「麻里子さん?」
しかし、麻里子は入って来た大地の方を驚いて見ると席を弾けるように立ち上がった。
「え、麻里子?」
鷹人の言葉には応えず、麻里子は扉の方に歩いていく。
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そして、ユウマの横を抜けその後ろに立っていた青年__侑斗に抱きついた。
呆気にとられる一同のなかで侑斗は動揺するようにあわあわと麻里子の腕から逃れた。
「ま、麻里子姉さん……」