複雑・ファジー小説
- Re: 異能探偵社の日常と襲撃【2/13up!】 ( No.38 )
- 日時: 2015/03/14 13:55
- 名前: るみね (ID: L1jL6eOs)
- 参照: 文脈が放浪。展開が迷子。。。←
【日常B ②】
「ま、麻里子姉さん……」
突然抱きついて来た麻里子に侑斗は目を白黒させて呟いた。周りにいた大地や燐太郎達も思いがけない歓迎にあっけにとられた。
気を聞かせた清子が二人に少し離れた席を用意した。
「もう、家出なんて……!」
「あ、いや……」
「全く、あの野郎……」
姉と弟の話す姿を遠目で見ながら燐太郎は珈琲を煽った。
「まさか侑斗が四大名家の次男坊だったとはな、予想外だ」
「それはこっちの台詞だ」
のんきな燐太郎の台詞に修兵が睨んだ。
「なんでお前(大地)の依頼主が指名手配になってこの店に来てんだ」
「悪いな……」
「ごめんなさい、修平さん」
同じ煉獄の一員である隼と蓮璃が代理であやまるがあまり説得力がない。
「四大名家ねぇ……」
つめよられるようにして麻里子に話しかけられている侑斗を大地は考え込むように見つけた。
「どうかしたんすか、大地さん」
「あ、いや……」
心配そうに創平が大地の顔を覗き込んだので、大地は我に帰るとなんでもないというように手を振った。しかし、それでもなにかひっかかる事があるらしい。
「それ考え込むのもいいけど、この子もどうにかしてよね」
鷹人が言ったのはカウンター席でつる子の出したフレンチトーストを頬張っている少年、ユウマのことだ。人当たりが良く面倒見のいいつる子にユウマの緊張もほぐれ、今は笑みも浮かべている。
「もし家出じゃなかったら誘拐ですよ、誘拐」
「千鶴ちゃん、ホントのこと言うな」
「……」
千鶴と桃矢の言葉に大地は顔を引きつらせた。
「まぁ、家出ってのは本人が認めてくれたし、家も地下街じゃないってのはわかったけど。でも肝心のどこの子かとか全然話してくれないんだよね。桃矢さんはなぜか嫌われてるし」
「俺、なんもしてないんだけどな……」
こっちを見ている事に気づいたユウマが桃矢を睨んだので本人も苦笑するしかない。
「案外なんかやったんじゃねぇか?しらねぇとこで」
「適当言わないでくださいよ。燐太郎さん」
「わかんねぇだろ? あと燐太郎じゃなくて、燐な」
そこへ珈琲のおかわりをだしにつる子がカウンターから出てきたので捕まえた。小声でユウマの事がなにか分かったかを聞くがつる子は首を振った。
「あんまり話してくれない。まだ家出二日目くらいで、家は釟区らしいってのは話してくれたけど、なんで地下街なんかにいたのかも詳しく聞くと黙っちゃうし……。だいたい第拾弐区の地下街なんて子供が率先して入るような場所じゃないでしょ?」
たしかに地下街にも浮浪児はいるが、そういう少年達は生まれた場所が地下街であったか、地下街に捨てられたか。ユウマの服装から地下街うまれというわけではなさそうだし、恐いもの見たさで複数の少年が地下街の入り口あたりをうろつくぐらいならあるが、少年が一人で地下街の、それも闘技場なんて場所に入ってくるなんて、あまりあることではない。
「誰かにつれていかれたんじゃないの?」
「それこそ誘拐じゃねぇかよ」
「誘拐ってのはあそこの侑斗みたいなおぼっちゃまにする事で意味があるんだよ。帝都の下地区の子供なんか誘拐してもなんの特もないだろ?」
「燐太郎さん、もはや犯罪者の発言ですよ」
「間違ってないだろ。蓮璃。燐太郎さんは立派な犯罪者だよ」
「あぁ、そうか。軍警に指名手配中でしたね」
「人気者は辛いな」
「のんきな事言わないでよ!だいたい指名手配ってなんなの?違法闘技場以外になにやらかしたんですか?」
潤の疑問で蓮璃と隼は顔をみ合わせるとチラッと燐太郎を見た。当の燐太郎はなんでもないというように手をヒラヒラフっている。
「なぁに、ちょっと地下街連続惨殺事件の容疑者になっちゃったぽいんだよね」
その発言にどういうことかとにわかに騒がしくなる。
「始めにあの子にあったの大地さんですよね?なんか変わった様子とかありました?」
騒ぎから外れた桃矢が大地に尋ねた。が、肝心の大地はどこか上の空だ。
「なぁ、桃矢。『櫻』のことなんだけど……」
突然の質問に桃矢は動きを止めた。
「さ、『櫻』ですか?」
『櫻』とは、桃矢の中にいる別人格のことだ。
幼少期の虐待が原因で生まれた『櫻』は、死んだ桃矢の双子の兄が元になっており、長い間桃矢の記憶さえ支配し、異能さえ別のものをもっていた。人格が一人歩きをし、暴走する中で探偵社に拾われ黒尾禅十郎との対決の中で人格を桃矢が支配する事が出来たのだ。
「櫻が表にいる間は桃矢は異能を使ってる自覚はなかったんだよな?」
「……はい。そもそも櫻の存在すら分かってませんでしたから」
「用は異能がコントロール出来ないってことだろ?一種の異能の暴走だな」
「そうですけど……、それがどうかしたんですか?」
しかし、大地は桃矢の疑問には答えずにまた黙り込んでしまった。
「そういえば、襲撃の時に最初に襲われ始めたのって大地さんがいた付近ですよね、犯人みてないんですか!?」
燐太郎の指名手配の件を話していた蓮璃が思い出したように聞いた。突然話を降られた大地は驚きながらも肩をすくめた。
「……俺も突然でわけわかんなくてな。すまん」
「お前が気づかないなんて、実戦経験にぶってんじゃねぇか?」
からかう燐太郎の言葉に一緒に笑う大地の顔をみた桃矢の脳裏になにかがひっかかった。
どんなに強者だろうと殺意を持って大地のそばで異能を発動させれば、彼が気づかないはずがない。
大地が襲撃者に気づかない可能性として高いのはなにか。
、、、、、、、、、、、、、
もし、相手が子供だったなら————————
「異能の暴走……」
さきほど大地が聞いて来た言葉が思い出された。
桃矢のように、身の危険を感じたりなにか条件が発動すると異能を暴走させてしまう事件は少なくない。しかし、どんな異能も使用者が気を失えば解除される。
隼が壁を破壊し、闘技場内に入った時に大地に担がれて気絶していたユウマ。
全ての情報が桃矢に一つの可能性を示していた。
「まさか……」
「どうした桃矢?」
突然動きを止めた桃矢に気づいた修兵が尋ねる。その声で鷹人や創平、燐太郎たちもどうしたのかと桃矢の方に向いた。
「も、もしかして……この襲撃事件の犯人って、ユウマなんじゃ」
「はぁ!?」
突拍子もない言葉に全員が疑いの声を上げるが、桃矢は小声で今自分が考えた事を話した。
大地は桃矢が話しだした話に何かいいたそうだったが何も言わずに聞いていた。
話し終えると皆黙ってその内容を考える。
「まぁ、筋は通ってるな」
「けどあの年齢ですよ?」
「異能の力は生まれ持った才能だ。血統もあるが年齢なんて参考にもならないよ」
闘技場組が意見をかわす。
「でも、あの子そんな事——」
「記憶にはない。自分の異能を制御出来ない人間には良くある事だ。感情で枷が外れて暴走すればもう自分の意志ではどうにもできない」
桃矢の強い言葉に千鶴はなにも言い返せなかった。
「なぁに、随分面白い話してるじゃない」
不意に耳元で囁かれて桃矢は飛び上がった。振り返ると牡丹がニヤニヤ笑いながら立っていた。その影で徹がため息をついている。
「ぼ、牡丹さん!」
「ただいま。なんか随分にぎわってるね」
常連客だけでない、ユウマや冬峰姉弟。闘技場の面々をみて牡丹は面白そうに笑った。
「仕事終わったのか?」
「ちょっと軍警のお偉いさんが暗殺されちゃったらしくてね、あたしらの仕事どころじゃなくなっちゃったから引いて来たのよ。なぜか現場から逃げた奴らの中に見慣れた顔も会ったもんだから……。そしたら随分楽しそうな事になってるね」
「面白がるもんじゃないですよ」
徹のツッコミを無視すると牡丹は少し真面目な表情に戻った。
「で、あの子だけど。家出って言ってたけどいつからなの?」
「ここ数日らしいですけど」
「家は?」
「つるこさん曰く釟区あたりだろうって」
すると牡丹は千鶴のほうに笑顔を向けた。
「安心しな。あの子は違うよ」
「え?」
驚く桃矢たちに徹が補足で説明した。軍警によると襲撃と同一犯と思われる事件が一週間前に拾区で起きている事を。
「まぁ、その時も家出してたって言われたら反論出来ませんけど、子供が自分の家からなんども遠出するなんてそうそう考えられませんけどね」
たしかに、そう考えるとユウマは違う。
その事実に千鶴は安心で息を吐き出した。一方で桃矢も混乱しつつも事実を受け止めた。
「犯人探しも大事だけど、思い込みで決めつけるのはまだ早計だよ」
牡丹にウインク付きでいわれ頷いた。
「けど、じゃあ襲撃犯は?逃げたって事ですか」
そう訴える桃矢の言葉を聞いていた千鶴はそのそばで浮かない表情の大地に気づいた。
そういえば先ほどから大地の様子がおかしい。
「?」
首を傾げる千鶴の脳内でいままでの話が走馬灯のように流れた。
襲撃が発生した際、誰が大地の近くにいたのか。
誰が大地に警戒されないのか。
誰が一週間前の襲撃に関われるのか。
さきほど、桃矢はユウマが気絶したことで異能が解除され、襲撃がやんだと言っていた。
しかし、あの時気絶していたのはユウマだけでは——
「———————ッ!!」
脳内に電流が走るような衝撃とともに一つの答えが現れた。
「だ、大地さん……」
震える声の千鶴の様子に大地は察したのか頷いた。
一週間以上前から拾壱区周辺におり、
襲撃の際、大地のそばにいて、その後気絶した人物は一人しかいない。
______冬峰 侑斗だ。