複雑・ファジー小説
- Re: 聖なる化け物の祝杯 ( No.1 )
- 日時: 2014/12/14 12:38
- 名前: 星ノ砂 (ID: H6fMjRQF)
フェニックスは死んだのだ。
永遠の命を終えたのだ。
———化け物と崇められ死んだのだ。
◆第一話
サンドイッチをほおばる人間を前に、その場にいる者はぽかんと口を開けるしかなかった。もちろん、ドアをくぐって中に入ろうとした僕こと王 黒雲も、だ。
野菜とマヨネーズが挟まれた白いパンはおいしそうだが、そういう問題ではない。
——場所を間違えたか?
そう思ってドアの横を見るが、そこには想像した通りの言葉が、白い紙に書かれて貼ってあった。
【アルマーシュ魔法学園筆記試験会場】
・・・・・・うん、間違ってないよな。そりゃそうだ、緊張しまくって地図で何回も確認したもの。
てことは、このサンドイッチ男が間違っているのだ。僕の常識はあっていた。
ここはアルマーシュ。
外観はどこにでもあるような、協会のような木造の二階建てだが、実は世界有数の魔法学園である。
筆記試験会場で、試験前に物を食べるような非常識な奴がくるようなところではない。
とりあえずは安心し、ドアをしめて指定の席へ向かう。インクやその他筆記用具を出し終えたところで、担当教師なのだろう、一人の三角帽をかぶった男が顔を出した。
ガタガタと受験生が椅子を引く。
「えー、では筆記用具以外の物をしまいなさい。筆記試験をはじめます」
前から問題用紙が配られる。サンドイッチの男があわてて手にもっている物を口に押し込むのが見えた。
まあ、あいつはこの筆記試験で落とされるだろう。あんな変な奴、魔法が使えるかどうかも疑わしい。
ともかく、倍率が下がるのならうれしいことだ。
僕はそう一人で納得し、はじめの合図でペンを持った。
・*・*・*・
———なんでいるんだよ!
面接の待合室で、蜜柑をむいている人物を見つけたとき、僕は心の中でそう叫んでしまった。
ていうか今度は蜜柑かよ! 果物かよ! いくつ食べ物持ってきてんだよ!
受かると思うが、仮に受かったとして、あんな奴と学園生活を共にするなんて僕はいやだ。同じ学年だから友達同士、なんていう道徳的な性格は自慢じゃないがしていない。
しかし、アルマーシュはれっきとした魔法学園だ。
あんな奴は合格させないだろう——。
すこし前に入っていった三人の子供が、前方にある大きな扉をあけて出てきた。
落ち込んでいる人、晴れやかな人。表情は様々だ。
「えーと・・・五六番と五七番、五八番は入ってください」
しまった扉の向こうから声が聞こえた。五七番は僕のことだ。五六番と五八番は誰だ、と見回すと、蜜柑の男とその隣に座る女の子が席を立った。
え、あいつとやるのか。
「それでは面接をはじめます。簡単な物なのでリラックスしてくださいね」
若い女性教師が言った。
「自分のファミリエは出せますか? 五六番から順番に、名前を名乗ってから右側に召喚しなさい」
ファミリエか。
先ほどの筆記試験にも出てきた言葉だ。自分と心を通わせた動物のことで、魔法の基本中の基本だ。
「五六番のハピニムです」
五六番の女の子がすっくと立ち上がった。
僕の目には慌てているように見えたが、少女は胸の前で手を組み、召喚呪文を唱えはじめた。
「森林と従順のニンフ、我が前に姿を現し、その大いなる力を示したまえ・・・いでよ、アルセイデス!」
まるで練習したかのように(実際、何度もしたのだろう)すらすらと唱えられた呪文と一緒に出てきたのは、森のニンフ、アルセイデスだった。緑の髪が美しい、女性の小さな妖精だ。
「五七番の王 黒雲です」
僕の番だ。
礼儀正しく、堂々と見えるように立ち上がり、一回礼を見せる。隣に座った女の子は、緊張で礼を忘れていたので、慌てたように顔を真っ赤にした。
「神聖と純純の幻獣、我が前に姿を現し、邪な心をはらいたまえ・・・いでよ、ユニコーン!」
ヒュルルル、と鳴き声を上げ、僕のファミリエは頭を高々とあげた。
風蘭という名前がついている。
その美しい姿に、教師達が息をのむのがわかる。風蘭を召喚すると、いつもこうだ。
美しさも実力のうち。これで教師達の印象に残ったはずだ。
一礼をして椅子に座る。
さて。
問題は、あの男。五八番に視線があつまる。
いつまでたっても立ち上がらないので、若い女性の教師がいぶがしげに問うた。
「なにをしているのですか、五八番、早く召喚をしなさい」
「あ、俺っすか!? ええと、五八番のスクルファーズだ・・・です」
どんなファミリエかと待っていた僕は、そのやり取りに拍子抜けした。
———なんて間抜けな。
五八番は慌ただしく椅子を立つが、えーと、えーととなかなか始まらない。
僕は呆れて物も言えなかった。これはおちたも同然だ。非常識な言動にすこし興味を持っていたのだが、残念だが帰ってもらうしかない・・・
「なんだったっけ・・・ああ、そうだ、あれだ。炎? 炎と鳥・・・いや、炎と永遠の霊鳥、だ。我が前に姿を現し、天高き太陽に瞳を移せ・・・だっけ?」
———・・・と、その召喚呪文を聞くまでは、僕は思っていた。
まさか、なんで、こんな奴に。
「いでよ、フェニックス!」
キュロオオオオオ!!
反響する長い鳴き声を張り上げたのは——
——炎の鳥、フェニックスだった。