複雑・ファジー小説
- Re: 聖なる化け物の祝杯(参照200突破) ( No.11 )
- 日時: 2014/11/29 21:24
- 名前: 星ノ砂 (ID: H6fMjRQF)
◇第七話
×印のつけられた木の幹を見る。スクルファーズの持っているナイフを当てると、予想はしていたが傷がぴったり当てはまった。一本道が続いていたが、道に迷わないように木に印をつけていたのだ。つまり、ここは一回通ったということになる。
道は一本道。僕らが円になっている道をぐるぐるまわっているにしては、曲がってはいないし、微妙に曲がっていたとしてもこんなに早く円を一周するのは早すぎる。
「迷いましたね」
「・・・やめて、はっきりいわないで!」
現実逃避したって、迷っているのには変わりない。
はっきり言おう、僕らは迷っている。常識や原理が通用しないダンジョン内で迷うのは危険だ。
・・・いや——危険か?
僕は木の枝に止まっている鳥を見た。きょろきょろとまわりを見回し、鳥らしい動きをとっているが、おそらくあれも学園長の作った人形だ。
じっとみつめていると、バサバサと騒がしく飛び去っていった。ああいう人形に監視させ、命に関わる危険になったら助けるのだろう。
次に、僕は道の横の暗闇に目を向けた。メヤルナの森は木が密生していて、光が届かないのだ。
いちかばちか。
僕は草の生い茂る森の地面に足を下ろした。
「えっ、クロ!? そっち道じゃないけど!」
「道沿いに歩いてだめなんですから、道じゃないところを行くべきでしょう」
「・・・クロってそんな行動派だった?」
「うっさいです! こっちは早くおわらせたいんですぅ!」
「・・・・・・はい、つきあわせてすみません」
下にはシダ植物がおいしげっていて、とても歩きにくい。
なにより・・・暗い。
葉のすきまから光がおりてきている場所があるから、やっとのこと歩けるというぐあいだった。
しばらくあるくと、枝のかさなりがひどくなり、その光さえも閉ざされた場所についた。
したがぬかるんできたので、水辺らしい。川のせせらぎは聞こえないので、近くに泉があるようだ。
これ以上進むのは危険だ。光のない場所で水に濡れるのは、体温をうばいそうでこわい。
「五八番殿、前方に水があります」
「魔法であかりつけたら?」
「無駄な魔力、つかいたくありません。あなたはろうそくとか持ってきてそうですけど、ないんですか?」
「ろうそく?あるけど」
「本当にあったんですか! はやくだせよ!」
本当にうっすらとしか見えないスクルファーズが、ポケットをさぐりろうそくを差し出す。もう一方の手にはろうそくを立てて持つろうそく置きがにぎられていた。用意いいな! ホント、もっと早くだしてほしかった。
「炎に集いし精霊よ、その手に持ちし火をはなて」
ぼっ、とろうそくに火が灯る。スクルファーズの顔がオレンジ色に照らされた。
下を見ると想像したとおり湖があった。僕たちが暗い水にうつる。
しん・・・と静まりかえる森でのその光景は、美しい。
———いや、静かすぎる。
「どうしたんです、五八番殿」
返事がかえってこない。不思議に思って横を見ると、スクルファーズは目を手でふさいでいた。
「五八番殿?」
スクルファーズは目を伏せ、右手で湖のむこうをさした。ろうそくを持ち直し、上に上げる。
すると、今まで見えなかった湖の中心が照らし出された。
当然、そこにあったものも見えるようになる。
————裸の少女だった。
・*・*・*・
「っわーーーー!!」
「きゃああ!」
・・・10歳程度だろうか。白い髪が水の中まで垂れていて、切ったこともないと言われても信じるほど長いことがわかる。肌は褐色だから、南のほうから来たのかもしれない。
僕と少女の叫び声が重なる。しかし、少女の叫びは単なる恥ずかしさではないようだった。
「あっ、えと、ダンジョン挑戦者の人だよね! ごめんね、ここ初級ダンジョンで、ダンジョンに挑戦できるつよい人は全員上級ダンジョンにいっちゃったの。それでね、最近ずっと人が来てなかったから、メヤルナ驚いちゃって————・・・あれ、挑戦者さん? どうしてお顔を伏せてるの?」
どうしてもなにも。
「・・・どうぞ、話を続けてください」
「いいの? ・・・ええと、それで、メヤルナはこのダンジョンのぼすなんだよね」
「「ボスぅ!?」」
この小さな子がボスだって?
驚いて顔を上げる。そして急いで手を目に当てる。
結果的に言うと、男二人が湖の中にたたずむ少女の前で、手を目に当てていることになる。
「あの、すっごいシュールな光景になってるけどいいの?」
「いいんです」
名前はメヤルナというらしい。ダンジョン名と同じ名前なのも、ボスというのなら納得できる。
「続けるね。あの・・・そういうわけなんだけど、メヤルナは挑戦者さんと戦うのはいやなの。だから、帰ってくれない? ダンジョン攻略者の証はあげるから」
僕とスクルファーズはあっけにとられた。でも目の手は忘れない。
挑戦者と戦わずにダンジョン攻略者の証を与えるだって? そんな馬鹿な話があるか?
そもそもダンジョンのボスは最後の砦と言われる存在じゃないか。
「帰って・・・ね?」
これは——・・・どうすればいいのだろう?