複雑・ファジー小説

Re: 聖なる化け物の祝杯(参照200突破) ( No.12 )
日時: 2014/11/30 16:53
名前: 星ノ砂 (ID: H6fMjRQF)

◆第八話


「単体魔法というのは魔方式一つから成る魔法で———」

メヤルナの森突破から三日がたった。スクルファーズの退学も(残念ながら)なくなり、今は学園生らしい平和な生活を送っていた。
学園長はダンジョンの主と戦わなかったことを人形をとおしてしっかり見ていたらしく、あの後すこし面倒だった。
戦ってないんだからダンジョン突破を認めるのは難しいだの、おもしろくないだの、てかフェニックスの炎つかって灯りつければよかっただの、認めさせるのに苦労した。
本当にあの人学園長なんていう偉い人なんだろうか。


羊皮紙に黒板の文字を写す。ちゃんと授業を受けているか確認するために、授業が終わるごとにこの紙を提出しなければいけないのだが、なかなか面倒だ。
その時そのときで覚えておけばいいだろうに。

ごーん、という低い鐘の音が三回鳴る。ということは、今は午後三時だ。

「ではこれで終わりにします。次は複合魔法とその特徴についてやります」
「きりーつ、礼、ありがとうございました」

日直のあいさつが終わり、休み時間に突入したそのとき、僕の机を勢いよくたたくやつがいた。
しまおうとしていた教本が床におちる。バサッというかわいた音が聞こえた。

「メヤルナの森、いくぞ」

見るとスクルファーズの笑顔があった。無視して教本を拾う。

「前から思ってたんだけどさ、クロの俺に対する態度ひどくね・・・」
「では同情してあげましょう。五八番殿、手、いたくないんですか?」
「いたいよ! ちょっと自分の行動に後悔してるけど、今はなしたいのそれじゃねえんだ?」

今からメヤルナの森にいくだって?
いやなにいってんだ。

「・・・なにしに行くんです?」
「メヤルナに会いに行く」
「あっ、なるほど、ロリコンというやつですね・・・」
「違うよ!? 友達になるんだよ、あいつと」

友達って・・・仮にもあいてはダンジョンの主だぞ? それも、戦わずにダンジョン突破を認めるような、主と呼んでいいかもわからないやつじゃないか。
僕はため息をついた。またこいつはわけのわからないことを。
個性があるというのか、たんなる馬鹿ととらえればいいのか。

「んじゃ、この休み時間内に行って帰ってこられる方法を考えてくれ」
「ええ!? なんで僕が!」
「お前アタマいいんだから得意だろー」

僕はもう一度ため息をついた。

「じゃあ———」


 ・*・*・*・


挑戦者さんの二人が帰って、静かになった森を見渡した。
お話のなかみたいに、街に帰るワープ系の魔法陣なんてないから、二人は徒歩で帰って行った。
紺色の髪をした方は一回転んでいったけど。

いきなり来たからちょっとびっくりしちゃったけど、あの騒がしさからしたら、ひとりの時って静かだなー・・・。
いっつも、いっつもこう。

「メヤルナは寂しいよ」

ぽつりとつぶやいた言葉が虚空に響いた。




「うおわーーー!!」


暗闇を切り裂いたのは、叫び声だった。
あたらしい挑戦者さんかな? この森に住む生き物に追われてるのかもしれない。

「あんたね、自分のファミリエぐらい操れるようにしておきなさい! ほら、左に傾いてますよ!」
「・・・あ、やべぇ止め方わかんない」
「なにそれほんとやばい!」

しかし聞こえてきたのは聞いた事のある声で、しかもつい最近にしりあった人・・・。
明るいなにかになっているみたい。暗闇になれた目をしばたく。

・・・なに、あれは?

その質問に答えるように、それはやってきた。
———いや、突っ込んできた。

盛大に水しぶきがあがり、ふっと光が消える。またもとの暗闇にもどった。
本当ならそこに大きな物体があるはずだか、まるで消えてしまったかのように静かな水面だけがある。
実際に消えてしまったのだ。なら、あれは・・・ファミリエ?

ばしゃっと音がして、人間の頭が二つ水面に現れた。
顔をよく確認するまえに、濡れた布をかぶせられる。見てみると白いシャツだった。
正面に大きく字が書かれている。ずっとこの森にいた自分には人間の言葉は読めなかったが、とても素敵に思えた。
シャツはとても大きく、膝ぐらいまで伸びている。当然肩幅も大きくて、片方がずれおちた。

はじめてあった時のように、火が灯った。ろうそくが濡れて使い物にならないからなのか、火の玉が浮いているだけだった。

「————! ・・・五八番殿、もっとセンスのいい服選んでくださいよ」
「うっさい、これくらいしかもってなかったの!」

なにをしにきたんだろう。
二人の顔を見て、まずそう思った。しかしその答えは想像もしてなかったし、聞くこともないだろうと思っていたことだった。

「『友達になれ!』」
「五八番殿、上から目線ですよ」
「えーっと、『なってください?』」
「なんで疑問系なんですか」
「『俺を・・・支えてくれ・・・!』」
「ノリノリだなアンタ!」

思わず、ふふ、と笑いが漏れる。
楽しい人たちだ、と思う。

「———ってやっべえ、時間ないぞ! 次の授業まにあわねー!」
「はぁー!? 先行ってますね、いでよユニコーン!」

ふいに現れた美しいユニコーンに驚く。この二人は両方とも魔法使いなのか。

「あっ、まてよ・・・いでよ、フェニックス!」

火の玉なんか比にならないほど明るい鳥が現れた。
あれだ。
あの、明るい光の塊。

「おいフェニ、ちょっとまだ首までいってな・・・わっ」

首の付け根が飛ぶときの定位置らしいが、まだ乗るのになれてないようで、首までいかずにフェニックスは浮かび上がる。
帰るのだ、と気がついて、急いでかけよる。
そうだ、帰るんだ。この人達は、帰ることが出来るんだ。

「まだ!」

気がつくと叫んでいた。
頭で考えるより先に口走っていた。
名前も聞いていないただの挑戦者に。

「まだ、メヤルナは返事をしていないから!」

フェニックスの持ち主が振り返る。

「———返事をするまで、質問をしたひとは待ってなくちゃいけないんだよ!」

彼はそれを聞いて、ふ、と笑った。

「ああ、わかったよ」

フェニックスは勢いよく飛んでいった。彼は危なっかしくフェニックスの首にしがみつく。
不格好でいて、綺麗だった。