複雑・ファジー小説
- Re: 聖なる化け物の祝杯 ( No.13 )
- 日時: 2014/12/04 20:49
- 名前: 星ノ砂 (ID: H6fMjRQF)
■番外編
教室につくころには風で服がだいぶ乾き、すこししめっていると感じる程度だった。
風蘭の全速を出したため授業にはぎりぎり間に合った。
教室のドアを開けると、視線を受けると覚悟していた僕の考えとは裏腹に、誰とも目があわなかった。生徒はいすに座っておらず、教室の前にある教卓のまわりにあつまっていた。
【←実習】
黒板に白いチョークでそう書かれている。その文字の左側には乱暴な矢印が書かれていて、三角の一つの頂点が向いている方向は中庭だった。他にはいっさい書かれていない。
今度は黒板の下の教卓に目を向ける。長い木の枝を荒く削ったような棒が、数えてみるとちょうど20本あった。20はこのクラスの生徒の人数だ。
「・・・杖?」
誰かがぽつりとつぶやいた。しんと静まった教室にむなしく響く。誰もが浮かない顔をする。
杖・・・実は誰もが考えていたことだ。口に出さなかったのは、このゆがんだ木の棒が練習用の杖だとは思いたくなかったからだ。
杖は大型の魔法を使うときや、なにかを正しく狙いたい時につかう。指でも代用は可能だが、威力は杖よりもはるかに劣る。杖は魔物やなにかと戦うときに使う物だった。
つまり、僕がいいたいのは、
「実習って———この杖で戦うっつーこと?」
こういうこと。
別の誰かがつぶやいた。皆、いっせいに顔に影がはいる。
教室内に杖、行けとでも言うような矢印、説明する先生はいない———これらをプラスし、それとイコールでつながる物は・・・。
これは確実と言えよう。どう間違えても、誰が答えても、こう答えるに違いない。
『中庭に出たら、先生が襲ってくる』
・*・*・*・
「慈愛に満ちる大地———」
「風槍」
「ぎゃああ!」
遮られる詠唱、飛んでくる攻撃魔法、逃げ惑う生徒。
「炎に集いし精霊よ、我が敵を貫け、我が命を実行せよ!」
「速度もっとあげろよー」
「あたらねー!!」
詠唱を言い切った達成感、先生にダメージが与えられるかという期待。しかしアドバイスとともによけられる絶望感。
地獄絵図——そう言うのが正しいだろう。
20対1。それなのに、先生はダメージの一つも食らってやしない。逆に、僕たちが追い込まれている。
僕は杖に魔力をこめると、詠唱をせずに先生のいる場所へうちこんだ。白い光の玉がかなりの速度で走っていく。
それは先生の真横を駆け抜けていった。ぶつかる直前で先生が横へ飛んだのだ。
「今の打ったの誰だー・・・黒雲か。筋はいいけど、無属性魔法はやめろ。攻撃魔法の練習だからな!」
はい、と返事をする。
僕が今打ったのは無属性魔法、つまりはただの魔力の塊。威力はあまりない。
と、蔦が地面を這って僕を転ばせようとする。初級魔法で焼いた。
「スクルファーズ! 逃げてばっかいないですこしは攻撃しろ!」
「作戦です」
「お前さっきからそういってるぞ!」
先生が手のひらを九時の方向へ向け、水の槍をはなった。びしょぬれになって出てきた問題児は、走りながら杖を先生にむけて白い光を投げた。だから無属性魔法をつかうなって言っただろ! と先生が叫ぶ。
そのすきをみはからって雷魔法を放つが、簡単によけられた。・・・後頭部に目でもついてんのかあの人。
杖を持ち、教室をこわごわと出た僕たちに、遠慮容赦なく先生は攻撃魔法をぶちこんできた。ろくに準備もできていなかった僕たちを待っていたのは、現在のこの状況である。
このままじゃ、勝てない。僕はお粗末な杖を握り直す。
駄目だ、これじゃ負けるぞ。
「明瞭たる光よ、万物を拒絶せん、我を守りたまえ」
声を落として詠唱をはじめる。
光属性の防御魔法。違う言葉で言えばバリア。外部からの影響を受けず、もちろん攻撃も通さない。
僕はそれを自分でなく、中央で生徒の攻撃をなぎ払っている先生を中心にして魔力を込めた。
先生は突如現れた自分を覆う防御壁を不思議そうに眺めてから、壊そうと右手に魔力をためはじめた。
光属性で行う防御魔法は中心が移動するとそれにあわせて中の物体を守る。
———ならば、その中心が動かなければどうか?
僕は球を操り、防御壁の中心を地面に定めた。そのまま球を小さくしていく。
先生はこちらの思惑に気がついたようで、防御壁を壊そうとする。僕は慌てて防御壁を小さくする速度をあげる。防御壁の球体は見えないほどに小さくなった。
いや、実際見えないのだ。先生の足に隠れて。小さくした防御壁にひっかかり、先生の動きは制限される。
いつのまにかスクルファーズが隣にいた。目を合わせると、スクルファーズはにやりと笑い、叫んだ。
「みんな、かかれぇーーー!!」
・*・*・*・
黒雲三分クッキングー。
まず戦いになれた一人の先生を用意します。つぎに生徒達に杖を与え、適当にしごきます。
途中で魔法により動けなくなる生徒が出てきますが、その場合は転送魔法で治療室へ運びましょう。
さて、完成した品がこちら、治療室で倒れているクラス6になります。
———そうやってときどき開催する料理イベントの真似を頭の中でくりひろげたとして、この状況が変わることはない。
治療室の優しい女の先生が、順番に治療魔法をかけてくれる。
当然僕のところにもやってきて、あちこちに出来た傷が治っていく。消えていく痛みが、僕の作戦がやぶられたことを物語っていた。
とっさに思いついた、作戦とも思えない作戦。
結局、動けなくしたとしてもこちらの攻撃は魔法で打ち消され、遠隔操作魔法で操られる炎の玉においかけられ、足腰立たなくなるほど走らされたあと、こうして治療室に転送された。
「失敗したな」
「笑いながら言わないでくださいよ・・・もう・・・魔力つきるわ、全身傷だらけだわ、本当、死にそうなんですから」
にやにや笑うスクルファーズが僕をからかっているのは間違いない。しかもファミリエがフェニックスなだけに、その体についたはずの傷が全て癒えている。フェニックスには治癒の力があるのだ。
「俺、なんもしなかったからな。失敗したけど。ほんとーに、尊敬するぜ。失敗したけど」
「ところどころに『失敗したけど』はさまないでください」
「なぐさめてくれる友達もいないもんな!」
「うるさい!!」