複雑・ファジー小説
- Re: 聖なる化け物の祝杯 ( No.2 )
- 日時: 2014/12/14 12:45
- 名前: 星ノ砂 (ID: H6fMjRQF)
◆第二話
どうして、どうしてこうなった。
考えろ考えろ黒雲。
手足を縛られ、ガムテープで口をふさがれた状態で頭を動かす。あたりには僕と同じような格好をしたアルマーシュの生徒が転がっていた。これが世で言う拘束姿なのだ、と半ば投げ出すように笑う。
ここはアルマ—シュの広大な敷地の一部、これまた広い中庭だった。しかし、現在は黒ずくめのライフルを持った数人の男が支配する生徒の監禁場所と化している。生徒の習得途中の未熟な魔法がライフルという高度な科学力に対抗できるはずがなく、従うしかない惨めな選択を選んでいた。
腰が痛い。一時的に背筋を伸ばす。
それを、みいつけた、と言わんばかりにこちらを向くのは、ライフルの銃口。
小石ほどの真っ暗な穴が僕をしばらく見つめ、にらめっこの末、目をそらしていく。
どうして、どうしてこうなった。
考えろ考えろ黒雲。
——この状況を人に説明するには、およそ数時間前に戻らねばならないだろう・・・
・—・—・—・
「クロ、クロ、次はペガサスの厩に行こうぜー。南だって」
僕、黒雲はその言葉にげっそりとうなずいた。
犬みたいなそのあだ名にも、自分勝手な言葉にも、うなずくしか体力が残っていない。
——なんでこの男は走り回ってひとつの息も上がっていないんだ!一日でこの学園をまわる気か!?
アルマ—ジュ魔法学園。今は、新入生が学園内を自由に見学できる時間になっている。
僕は見事ここの入学試験を突破した。学力、体力、魔力、ファミリエ、全てに申し分なく、教師全員一致で合格したらしい。
しかし、そこを体力とファミリエのみで合格した非常識人がいる。
・・・それがこの、一歩先を走るスクルファーズという男である。
この男はなにを思ったか、見学時間始まりから僕につきまとっていて、僕を学園内でひっぱりまわしていた。
「あ、あの、スクルファーズ殿。自分のファミリエに、乗って、行っては、いかがでしょ、うか?」
「なんだー、クロ。もう息きれてんのか? 別に風蘭に乗ってもいいけど、俺フェニに負担かけたくないから、走るわ」
答えるときに止まってくれたので、肩で息をしながら今までの事を一気に叫ぶ。
なんだその体力!どんなトレーニングしてるんだチクショウ教えろや!
クロってなんだ!つけるならちゃんと考えろ!
ついでにいうとフェニックスのフェニって名前もなんとかしろ!
口調は強くないし、疲れでよく覚えていないが、内容はこんなものだ。
するとスクルファーズには、
たぶん常人は体こわす運動だからやめといたほうがいいぞ、
クロっていいだろ、
ついでに返すけど風蘭もおなじようなもんじゃねーの、
と余裕顔でかえされた。
「風蘭といっしょにしないでください・・・あとクロっていうのは認めませんから」
「えー、いーじゃんかよー。・・・あ、クロもなんか俺にあだなつける?」
「は!? いやですよ、付けたことなんてないですし!」
「いいじゃん! いーじゃん!」
なるほど、いいじゃん攻撃ときたか・・・。
「・・・・・・うるさいです! つけりゃーいいんでしょう、つけりゃ・・・そうですね、五八番なんてどうです」
「それ面接番号! 全然友達ってかんじしねーなおい!」
キィィィイイン、という甲高いマイク音が放送されたのは、それからさらに十分後のことだった。
僕と五八番の不毛な言い合いが一瞬止まる。
なぜなら、この学園は全て魔法支配で、当然放送も魔法。こんな不快音はしないはずだからだ。
しかし今回の放送はそれが鳴った。理由はただ一つ——魔法に不慣れな者が放送者だということ。
僕の警戒は正しかった。
平穏な学園への入学が、こんな不穏な始まり方になるなど新入生は思いもよらなかったはずだ。
『あー、あー、マイクのテスト中ー。・・・よし、あれ、これでいいのー?・・・・・・・・・うん、じゃあ発表するねえ。じゃんじゃんじゃん、じゃじゃじゃじゃーん・・・』
あくまで軽い放送の声。
しかし、それはアルマ—ジュの厳格なイメージと真逆で、逆に恐ろしさが漂っていた。
『えーとォ、簡単に言いますとねぇー・・・この学園、占領されてまーす!こっちは銃を持っているので、無駄な抵抗はやめましょーう』
そこでぶつんと放送は途絶えた。
「・・・!? やばい、クロ、口を押さえろ!」
「——え?」
視界がぐらりと傾く。
学園、占領、銃———。頭の中でぐるぐる単語がまわる。
口、押さえる、なぜ——。
眠い。
ああ、そうか。思った。
睡眠ガス、だ——————。
・—・—・—・
たしかこうだった。愉快犯だろうか?
睡眠ガスで眠らされた後、中庭に運ばれたようだ。しかしこの場にいる人数を考えると、共犯者はもっとたくさんいるのか・・・。
そうだ、五八番・・・。
あたりを見回すが、それらしい姿はどこにもない。そういえばあいつは催眠ガスに気がついていた。無事逃げ出したんだろうか。
—————静かだ。
ああ、そういえばこの騒動でペガサスの厩行ってないな。・・・あいつなら、今そこにいてもなんらおかしくない。
だってあいつはスクルファーズだから。
うるさく騒ぐだけ騒いで、すぐに逃げるなんて卑怯じゃないか。
最後まで、騒いでろよ——。
だってお前は、スクルファーズなんだろ。