複雑・ファジー小説
- Re: 聖なる化け物の祝杯 ( No.23 )
- 日時: 2015/01/05 19:28
- 名前: 星ノ砂 (ID: H6fMjRQF)
◇第十一話
長い金髪を揺らしながら、女が剣を突き出す。その相手の、男のほうはそれをやすやすとかわし、魔法で女を突き飛ばした。
競技場の中央に浮かぶ水色の画面の数字が大幅に減った。それに反比例するように、わああ! と騒がしいほどの歓声が鳴り響く。
突き飛ばされ、壁に当たって止まった女は、小さくうめきながら動かなくなった。歓声は尻すぼみになり、かわりにざわめきが広がる。
数字は程近いものの、まだ0にはなっていない。まだ動けるはずなのだ。
男は杖を構え直し、慎重に近づいていく。ざわめきは収まり、競技場に緊迫した空気が流れた。
次の瞬間。
———男のほうの数字が0になった。
一瞬のことだった。競技をする客席より数メートル下がった場所には、倒れている男と、肩で息をする女が膝立ちしていた。
うわあああ!! 間をおいて大歓声の波がおしよせる。女はそれを浴びながら扉の向こうへ消えていき、男は先生方によって魔方陣を消された後、悔しさと恥が混じった顔で引っ込んでいった。
「わあ、あいつ卑怯なやりかたするなぁ。クロみてぇ」
「よくすぐ横にいる人の悪口が言えますね、五八番殿。僕のどこが卑怯ですか」
競技場の客席の端っこ。そこに僕とスクルファーズは座っていた。
スクルファーズの手の甲には魔方陣が描かれており、役目を待つそれはぼんやりと光っている。
ということは、スクルファーズもこの戦闘ゲームに参加するのだ。主催者なので当然と言えば当然だ。
・・・まったく、こんなゲームを開くなんて、馬鹿以外のなにものでもない。
戦闘ゲームの会場はこのばかでかいアルマーシュの競技場だ。
アルマーシュの敷地面積と、アルマーシュの所有物は実に驚くべきものである。特にアルマーシュの所有物に関しては「なんでこんな物、学園にあるんだ」というものが普通に存在する。
その中の一つが、この競技場だった。その敷地面積だからできることで、競技場の大きさは中庭の数倍ある。その中庭というのも一般敵に言えば大きいものだから、後ろの席だったら競技者が点に見えると言っても信じるほどだ。僕は前の方の席だから見えるが、それでも遠くに行かれると見えづらくなる。
「正々堂々、の反対は、卑怯、じゃなかったか? ほら、お前いろいろ小汚い手をつかうだろ」
「勝てればいいんですよ、勝てれば。あと、頭を使った、と言ってください」
「クロに関しちゃあ、勝てた事なんてないけどな」
「本当、あんたっていちいち癪にさわりますね。これでも、母国では僕に勝てる人なんていなかったんですから」
まあ、その自信も教師達によって打ち砕かれているのだけど。
数分して、向かい合った二つの扉が開く。次の参加者が入場するのだ。
しかし出てきたのは一人の女だけで、もう一つの扉からは誰も出てこない。
戸惑った声が拡声魔法道具によって響き渡る。
『えーっと、スクルファーズさん、いますか?』
「あ、俺じゃん。やべー、忘れてた」
まわりから笑いが漏れる。スクルファーズはそれに、へへ、という笑いで答える。
スクルファーズは通路を渡って、安全柵へ足をかけた。
そして———
———競技場へ飛び込んだ。
「いてぇ! 調子乗るんじゃなかった!!」
やりようのない笑いが聞こえた。これは、苦笑だ。
相手の女のほうは目を丸くしている。顔に浮かぶのはあきれと驚きで、その体から緊張が抜けるのがわかった。
スクルファーズと関わった人間に共通したリアクションだった。驚き、疑問に思い、いつのまにかスクルファーズの世界に巻き込まれる。
司会者の声が鳴り響いた。
『ハニー・レアニーズ、スクルファーズ=ローカンの戦闘が始まります。両者とも位置についてください』
嘲りと期待の入り交じった笑いが消える。スクルファーズはナイフを取り出し、ハニーは立派な装飾が付いた剣をかまえる。
『・・・開始!!』