複雑・ファジー小説
- Re: 聖なる化け物の祝杯 ( No.25 )
- 日時: 2015/01/08 20:22
- 名前: 星ノ砂 (ID: H6fMjRQF)
「ひさしぶりだね。スクルファーズ」
大歓声にもまれて、ここで発せられる声は、普通聞こえないはずだ。
しかし、俺にははっきりと聞こえた。まるでまわりの音が聞こえなくなってしまったように。
「肩に怪我をしてるようだけど・・・。なぜフェニックスを使わないんだい? それじゃあ、僕に倒されちゃうよ?」
ああ。
お前は。
なつかしい。
ふわ、とただよってきた影の匂いに、俺は目を閉じかける。
変わって、ない。
あいつだ。やっぱり・・・。
「スクルファーズ。なあ、戦おう。君の実力は、あんなのじゃないだろう?」
怪我した肩が燃えるように、訴えるように、惑わすように、癒されていった。
フェニ、お前も覚えてるのか。
———マレスト、を・・・。
◇第十三話
試合は午後になっても続いていた。
戦闘ゲームは予想以上の反響で、皆、飽きる気配がない。応援やしゃべる声はとどろくようにうずまいている。
そんななか、その渦が届いていない場所があった。
「マレスト・・・元気か?」
「ああ、すくなくとも、生傷のたえないスクルファーズよりは元気だよ!」
マレストは軽口をたたいて笑った。
マレスト。
蜂蜜色の前髪をかきあげていて、どこかの不良を思い出させる髪型だったが、何本かたれているせいで優しげな印象を受ける。
オレンジ色の目を嬉しそうに輝かせていた。
そして、なにより記憶に残るのが・・・黒い鼠だ。
「ラード」
名前を呼ぶと、マレストの影から這い出てくる。
それは、まさに兎くらいの大きさの影の塊いっていい。
光を反射しない魔法生物で、そこだけ暗闇に包まれているように見える。
「ラードも喜んでる。っていうか、気配がすごく穏やか」
ラードは鳴かない。突然変異の生物なのか仲間がおらず、気持ちを伝えることを知らないのだ。
主であるマレストにすら、その心を伝えなかった。もはや生き物と呼んでいいかも怪しい物体だったが、マレストはそれを読み取ることが出来る。
俺はラードを抱き上げた。
目も鼻も口も見えない。光を反射しないのだから当然だ。
ひゅん。
風を割く音が耳元で聞こえた。
俺はすかさず飛び退き、ラードをほっぽった。スタン、という音が耳に届いたので、無事着地したんだろう。
俺がさきほどまで居た地面を確認すると、えぐられたような傷が残っていた。
「・・・ひどいなぁ、人のファミリエを」
マレストは鉄でできた偽爪から土をはらう。そこの肩へ、ラードが飛び乗った。
———記憶通りだ。
握るようにして持つ、鉄の爪。どこかナックルにも見えなくはない。違いは、指の間から突き出た刃、だ。
俺は使い慣れたナイフを取り出すと、珍しいと言われたことのある構え方をした。
突然始まった戦闘に生徒達が興奮し始める。
「ひさしぶりの、だな」
ふっと笑みがこぼれた。
マレストがこちらを見る。目は穏やかだ。
「久しぶりだね、スクルファーズ」
大歓声にもまれて、ここで発せられる声は、普通聞こえないはずだ。
しかし、俺にははっきりと聞こえた。まるでまわりの音が聞こえなくなってしまったように。
===以下作者文===
ま だ 続 く 。
グダグダ展開すみません。