複雑・ファジー小説

Re: 聖なる化け物の祝杯 ( No.4 )
日時: 2014/11/24 15:30
名前: 星ノ砂 (ID: NihAc8QE)

◆第三話


『君たちは囲まれているー、おとなしくでてきなさーい』

拡声の魔法道具を片手にベタな言葉を吐く警官。
相手はライフルを持っているため、生徒を傷つける恐れのある犯人へ刺激はできない。そんな理由で、かれこれ2時間ほどこうした地味な作業を続けていた。当然、成果は出せていない。
犯人がこもっているのは中庭、警官が張り込んでいるのは学習舎の表側。
俺——スクルファーズ——がいるのも、学習者の表側だ。まわりに生徒らしい子供はおらず、ほとんどの生徒が中庭に拉致られていることがわかる。俺は経験で催眠ガスを避け、逃げ出した。ガスのことを伝えたのでてっきりついて逃げてきているかと思っていたクロは、廊下で見事につぶれていたらしい。即効性のあるガスをつかったようだ。

ふあ、とあくびがもれる。
暇だ。


「こ、これはアルマーシュの尊厳が・・・魔法で突破はできないのですか!?」
「相手はライフルと、その他爆発物を多数持っているようで。不意打ちは難しいかと」
「困りましたねぇ、これを乗り切ったとしても、心配した親が退学させる、というのが目に見えて———」

魔法習得者の証、三角帽子をかぶった大人がひそひそと話している。教師なのは明白で、興味を持って耳をかたむけていたが、それが生徒ではなくアルマーシュの心配だと知って、俺は耳をそらした。

ま、こんなもんさ、大人なんて。



あ、そーだペガサスの厩行ってない。
そっか、行く途中で邪魔(催眠ガス)が入って———。
むう、そう考えたら無性にいらついてきた。犯人達ふざけんな。

さて、自分に質問だ。
どうしようもなくいらついて、その原因が相手にあるとしたら、どのような行動をとればいいか?ちなみに配点は10。

答え。
————無論、相手を殴る。

「っあ、スクルファーズ君!?どこへいくのですか!」
「ちょっと反撃に!」
「はあ!?」


ま、そんなもんさ、子供なんて。


 ・*・*・*・


こんなもんさ、子供なんて。

子供の力で、抵抗なんてできやしないんだ。

自分に向けられた数十本のライフルを見つめながら、ひきつった笑顔を覆面の男へむける。
リーダーのような男が口を開いた。

「だからぁ、生徒のあんたらなら知ってんだろぉ!?魔法道具の隠し場所をよお!」
「いえ、ですから僕たちはまだ入学したばかりで、まだ授業も——」
「なら上級生出せばいいだろーが!」

上級生の方を向く。目をそらされる。
同級生の方を向く。あたりまえのように目をそらされる。

「ほら、てめーが一番上なんじゃねーのか!」

もう、泥沼。
さっきからこんな会話の繰り返しだ。

犯人はどうやらこの学園の魔法道具をねらっているようだが、残念ここは魔法学園。魔法道具などという高価なものは厳重な魔法で隠されているにちがいなかった。

もう、嫌。
誰か、助けて。


『君たちは囲まれているー、おとなしくでてきなさーい』


外から警官の声が聞こえる。
拡声の魔法道具を使っているようだ。なんとべたな・・・ひねりのないその言葉に、犯人はすくなからずいらついているようだ。

「おい、お前早く教えろ!撃つぞ!」
「いえ、だから・・・」

『人質を解放しなさーい』

「早くしろぉぉお!」
「ひいいい!」

ねえ警官さん、仕事熱心なのはいいですけど、僕の命が危なさそうなんでやめてもらえませんかね!?



僕が本当になにも知らないとわかったのか、僕が役立たずだと思ったのか。どちらにしろ犯人はつかんでいた胸ぐらをはなし、他の生徒にも気を配りはじめた。ライフルを向け、ときおり脅している。

そんな中だった。
ある生徒に犯人がライフルをつきつけていた。ぼやっとするんじゃねえ、とか、どこに目向けてやがる、とか、そんな犯人の声が聞こえてくる。
その生徒が怖がらないので、犯人達が逆に怖がっていた。
まわりにも変化がおきはじめた。
まるで伝染病のように、ぽかん、と口を開けた者が増えていく。

その視線をたどった、そこに会ったものを見て、僕もその病気にかかってしまった。
ぽかん、と口をあける。

ペガサスに乗った、一人のひとかげ。
まるで伝記に出てくる英雄のように、そいつはそこにいた。

「やっぱさぁ、やるなって言われるとやりたくなって、やれって言われるとやりたくなくなんじゃん?」

キュロオオオオ、というフェニックスの鳴き声を聞いて、僕は確信した。
五八番——スクルファーズだ。


「それとおなじで、無駄な抵抗はやめろ、って言われると、その無駄なことしてみたくなるんだよね、俺って!」

そんな面倒くさいセリフを吐いて、その面倒くさい奴は、最高に面倒くさいやり方で、僕らを助けにきた。


 ・*・*・*・


アルマーシュの所持している、数十頭にのぼるペガサス。伝説の霊鳥フェニックスに続く、数百人の生徒のファミリエ。
どこの剣術ともわからない動作でナイフを操るスクルファーズに皆が続く。

相手の鼻先までに迫り、瞬時にしゃがみ、気絶するまでダメージを与える。ほとんどナイフを使わず、血をまき散らさないようにしている。五八番の剣術は見たことがなかった。

「五十八番殿!ちょっと無茶がありませんか!?」
「助けてもらったときはまずお礼を言うんだよ、っと!」

会話の途中で突っ込んできた弾丸を、人のいない場所へ剣ではじく。僕は驚く前に呆れてしまった。とことん規定外だな、この人は・・・。
周りの喧噪に負けないように、ありがとうございます!と叫ぶ。勢いで相手のあごを殴った。

「いっつ・・・」
「あ、それは斜めに手を入れないと自分が痛いぞ。力が必要だけど、腹殴るのがイチバン」
「あんた本当なんなんだよ!」

そこで、さっきの痛みが消えているのにきがついた。手を見ても傷もなにもない。
ハテナマークを浮かべる僕に、五八番がウインクをして上を指した。空をみあげると、中央になにやら赤い鳥が。

「フェニックスの炎には治癒の力がある」

五八番が、また相手を殴った。




数分もたたないうちに僕らの反撃劇は幕を閉じた。なにせ数はこちらのほうが多いのだ。それに加えてファミリエもいるもんだから、ケンカをすれば勝つのは当然だろう。
勝ったことを伝えたときの警官の顔は笑える物だった。同じように、教師のも、だ。
ひととおり調査を終えて、警察が帰る頃にはもう真っ暗になっていた。
スクルファーズは生徒達に英雄とたたえられたが、途中から先生に呼び出された。たぶん、勝手に行動したことを怒られるのだろうが、去っていくスクルファーズに年下年上関係無く女子の目がハートマークになっていた。ピンチを救ってくれたヒーローに思っているようだが、目を覚ませそいつ怒られにいくんだぞ。
スクルファーズもスクルファーズで寂しげな笑みを残していくんじゃない!
——一人で立つ僕に向けて放った、「勝った」とでも言うようなゲスい笑顔を僕は忘れない。