複雑・ファジー小説
- Re: 聖なる化け物の祝杯(第三話に追加しました&参照100突破感) ( No.6 )
- 日時: 2014/11/26 17:13
- 名前: 星ノ砂 (ID: NihAc8QE)
◇第四話
絨毯、カーテン、テーブルクロス・・・それらは深緑でまとめられ、全体的に落ち着いた雰囲気を漂わせている。窓からは朝の光がそそいでいた。
校長の机には書類が積まれていて、インクもそのままなことから、まだ仕事は終わっていないことが伺える。いや、終わることなどないだろう。
この部屋の主、アルマーシュの最高責任者である校長は、接客用の机の前に座る俺の前に、入れ立てのコーヒーを置いた。横にシュガーがあったが、それをいれずに口をつける。
「さて————」
「うまいっすね、これ。なんかコツでもあるんすかー?」
「・・・話をしたくないという理由で話をぶったぎるのはやめなさい」
それに対して俺はおどけた顔を作る。
しかし校長の顔は険しい。
「ばれましたかー」
そう付け加えるが、校長の顔は変わらなかった。ごまかすんじゃない、お前の人生から、目をそらすんじゃない————緑色の、年寄りとは思えない力強い目がそう語る。
なるほど、さすが校長を任されているだけある。こいつは他の教師とちがう・・・。
俺はもう一口コーヒーを飲んだ。
「スクルファーズ君、今回の騒動での君の行動は問題にあたります。君に罰を与えなければいけません」
「わかってますよ。掃除でもなんでもやりましょう。ま、覚悟もなくあんな行動しませんし」
そこで校長は満足そうにうなずくと、では、と切り出した。
この先の言葉は読めている。こういう性格の奴は幾度となく接してきた。おそらく今回も、ああなるはずだ。
「では、本題へ移りましょう」
「ここにクロ、友達です、がいたら、こっからが本題なのかよ!って突っ込みますよ」
コーヒーをすする。俺の冗談に校長は少し笑った。
「ここに君を呼んだのは他でもありません、君の過去のことです」
「率直に言っていいですよ」
「ええ、そうします。君は——」
そこで校長はためらいを見せた。やはり生徒とはいえ他人の過去にさぐりを入れることに罪悪感を感じているのだ。
俺はコーヒーのカップを持ち上げ、最後まで飲み干した。シュガーケースにもういちど目をやる。次に校長へ視線を移動させ、にらむように口角をあげる。校長は気圧されたようにため息をついた。
「・・・やはりやめます。別の質問をしましょう。なんで君はシュガーを入れなかったのですか?」
「俺は甘い方が好きですよ」
これ以上の会話はする必要がない。答えになっていない返答に眉間にしわを寄せる校長を残し、ドアを開ける。
去り際、ドアの隙間から顔を出し、先ほどの質問の答えを言った。
「朝には眠る必要はないですよ?」
「・・・君は・・・本当になんなんですか・・・」
「スクルファーズですがなにか?」
ドアをしめ、螺旋階段を下りる。
さて、寮に向かおうか。今ならクロも起きてるだろう。
・*・*・*・
アルマーシュは寮制だ。近い場所に実家がある生徒は別だが、大半が寮に入っている。
寮から見えるのは、上半身が馬、下半身がドラゴンの魔法生物、ヒポカンパスの生息する大きな泉。その向こうにある東のやまからは、今太陽が顔を出していた。
僕は井戸から水をくみ上げ、顔を洗った。拉致騒動で入学式はなくなったが、予定はそのまま続行で、今日から授業がはじまるはずだった。
・・・・・・。
あれ、なんかすごい充実して・・・
「おっはよぉ、クロ!」
「ない!充実してない!後ろからだきつくなー!」
振り返ると、そこにいたのは案の定スクルファーズだった。
二人でそのままもつれあい、朝露に濡れた芝生の上に転がった。いわずもがな、寝間着はびっしょりと濡れる。
「あー、もう、濡れちゃったじゃないですか!」
「いいじゃない、すぐ着替えるんだから」
するとスクルファーズは起き上がり、眠そうに寮へ入っていった。しかたないので僕もあとを追う。それにしても、朝早く先生に呼ばれいたからといって、ちょっとフラフラしすぎてないか?
「・・・五八番殿、そっちは僕の部屋です。あんたは205号室でしょ」
「いーの、いーの。寝具以外は全部クロの部屋に置いてあるから・・・」
「は!?」
すいこまれるようにして、スクルファーズは僕の部屋306号室に入っていく。いや待て冗談だろ。
スクルファーズは壁際にある安っぽい棚から一本のびんを取り出した。中には錠剤がぎっしり詰まっていた。
「あー、くそ。あいつシュガーだけじゃなくコーヒーにまで眠り薬いれやがった・・・」
「なんです、それ」
「眠気覚まし」
スクルファーズは錠剤を二、三粒だし、飲んだ。
・*・*・*・
「クラス6だって!クロは?」
「・・・・・・クラス・・・6・・・」
「なんで悲しそうな顔してるんだよ。さすがの俺でも傷つくぞ」
先生方、生徒のsosを受け取ってください。
門の前に張られたクラス分けの紙には、僕とスクルファーズは同じクラスに分けられていた。なんてことだ。
クラスは、7クラスあるうちの6。
「・・・じゃあ同じ場所で勉強か・・・ハア・・・んじゃ、案内していただけますか?僕、場所しらないんで」
「あれっ、クロって方向音痴系男子?モテないぞ!」
「いでよユニコーン!——風蘭、頭突きしなさい。角でつらぬいても大丈夫です。始末は僕が——」
「すいませんでした調子のりましたあ!」
教室は日の当たるあたたかな南側で、中庭に面した二階だった。
席は自由に使っていいようで、先に来ていた生徒達は皆おもいおもいの場所に座っていた。
僕とスクルファーズが教室に入ると、主にスクルファーズの方が尊敬の意をこめられた視線を送られた。本人はと言うとそんなの関係無いようで、後ろの窓側の席に座った。
僕はあいていた、真ん中の列の後ろ側へ座った。
適当に時間をつぶしていると、ホームルームの時間になり、クラス6の担任であろう男性教師が入ってきた。
ざわついていた生徒のおしゃべりがとまり、静かになる。
「やあこんにちは。わたしはクラス6の担任、バルジャド。ではまず皆さんの自己紹介からおねがいしようかな。じゃあ——廊下側の列から」
「はい、マイアンといいます。パトラムナ王国から来ました。趣味は・・・」
「王 黒雲です。信帝国からきました。ここから西にいった国です。えっと、趣味は・・・」
どのくらいたっただろう。
何人かの生徒の自己紹介が終わり、僕の番になっていた。
そこでふと疑問に思う。趣味?そんなもの・・・。
「・・・よろしくおねがいします」
結局、趣味は言わずに挨拶を終える。
何人かがいぶかしげにこちらを見たが、気にしないことにした。
「スクルファーズ=ローカンです。趣味はたくさんあります!よろしく」
ひときわ元気のある声が響いた。
いつのまにかスクルファーズの番になっていたようだ。おお、とざわめきがひろがる。拉致騒動の件で有名人になっているらしい。
バルシャドが手をならし、教室を静かにさせる。
「終わったかな?・・・先ほどもいったんだけどね、わたしはバルシャドというんだ。魔法式の授業を担当している」
バルシャドは若い男だった。黒い髪を短めに切りそろえていて、清潔感がある。それを見て僕は少し驚いた。・・・ここで僕と同じ黒髪を目にするとは。
アルマーシュのあるクバヌ大陸には、紺色の髪を持つスクルファーズのように鮮やかな髪色が普通だった。アルマーシュにはいろいろな人種が集まってくるのだと実感した。