複雑・ファジー小説

Re: 聖なる化け物の祝杯(第三話に追加しました&参照100突破感) ( No.8 )
日時: 2014/11/27 21:26
名前: 星ノ砂 (ID: H6fMjRQF)

◇第五話


【一年 スクルファーズ=ローカン
 上記の者は教師に相談をせず危険な行動をとったとして、罰を与える。初級ダンジョン『メヤルナの森』を突破すること。
 突破出来なかった場合、退学処分を課す】

そんな文字が連ねられた紙を見つけたのは、ホームルームが終わり帰ろうとした時だった。
掲示板の前には生徒の人だかりができていた。皆、退学処分という言葉に驚きをかくせないようだ。

「うわぁ・・・まじかよ」

罰を課せられた張本人、スクルファーズは僕のとなりで息を飲んだ。それもそのはず、まだ魔法をならってすらいないのに、ダンジョンへ行けと命令されているのだ。

———ダンジョン。
世界のあちこちに存在する謎の多い場所で、攻撃性の高い魔法生物が多く生息する。それは洞窟であったり、深海であったり、島であったり、今回の問題になっている森だったり、とにかく地形は問われない。
突然消えたり出現したりするので、ダンジョンの調査専門の冒険者までいる。そういったダンジョン調査団、もしくは個人が、ダンジョンを調べ、挑戦者に難易度をしめしている。紙に書かれているのは初級ダンジョン。つまり、初心者用のダンジョンだ。

「森ですし、フェニックスの炎でなぎはらっていけばすぐゴールにつきそうですけど」
「・・・クロって結構アクティブだな。フェニックスは治癒に優れてるから、攻撃力はあんまりないんだよ」

ダンジョンが罰として与えられるのは普通だそうで、掲示板の前に集まって不安そうな顔をしているのは、全員一年生だった。
まあ、初っぱなから罰をうけるというのも珍しいのだろうけど。

後方にいきなり引っ張られて驚いた。見るとやっぱりスクルファーズで、そのまま人混みの中から僕を引っ張り出された。

「どうしたんです?用事はないんですから、ゆっくりしていっても・・・」
「校長室にいく。ついてこい」
「・・・は?」

しばらく思考停止。
その間にもスクルファーズは僕の腕をつかみ直し、無理矢理ひきずっていく。言葉がうまく出ずに、待って、どうして、などつぶやいてみるが、止まってくれるはずもなく。

「待ってください!」

校長室に続く螺旋階段の側についたとき、ようやく体に力がはいるようになった。
つかまれた腕をふりはらう。

「校長室に行って何するつもりですか?罰を取り消してもらおうとでも?ダンジョンが怖いんですか?」
「はあ?お前なに言ってるの?」

・・・あれ?

「お前、防具持ってないだろ。攻撃は魔法しかないし・・・校長に適当にみつうろってもらおうとおもって」
「・・・。・・・ちょーっと待ってください?あたかも僕が一緒にダンジョンへ行くような口ぶりですね?」
「え、行かないの?」

教室のほうへ走り出す。——逃げるとも言う。
しかしくんっとつんのめったので、えりをつかまれたのだろう。

「行きませんよ!?第一、それじゃあんたの罰にならんだろ!」
「だから今から校長へ許可を得にいくんじゃん。いーじゃないか、お前、他に友達いないんだから用事ないだろ?」
「まだ一日めですし!これからつくりますし!!」

そりゃね?母国でもあんまし友達いなかったけどね!?アルマーシュでは友達つくるって決めてるんですよこっちは!
あんたじゃなくてできれば常人がいいんですけどね!

否定しない僕に気がついたのか、急にスクルファーズの勢いがなくなった。からかうような笑みから哀れむようなそれに変わる。
やめろ哀れむな。泣くぞ。

「・・・え?ホントにいないの・・・?いや、出身国遠いんだろ。試験前からここに滞在してるんじゃねーの・・・・・・?」
「ほっとけ!」
「・・・・・・大丈夫?」
「大丈夫ですよバーカ!!」


———ガチャン。


天井の高いここでは、扉のひらくその音でも大きく響く。
再び逃げだそうとしたが、一歩踏み出したところで金縛りにあったように体が動かせなくなる。——拘束魔法だ。

スクルファーズが魔法を使えるはずがないし、
ここは校長室前。
決定的なのは扉の音。

逃げ出そうとする力をとくと、拘束魔法はあっさりとけた。どうやらそういう魔方式で構成された魔法のようだ。
僕は螺旋階段の上を見上げる。

————校長だ。

「あ、校長!すいません、ダンジョン挑戦者、もうひとり増やしてもらっていいですか?」
「はい、話は聞いてました。黒雲君もいくんですね?」
「え、ちょっと待ってくださ——」
「おもしろそうです。いいでしょう。ね?黒雲君」

いやいきませんよ!?
おもしろいってなんですか!あなた校長ですよね!?

そう言おうとした僕の口は、校長の言葉でふさがれた。

「校長命令です」

————職権乱用。

そんな言葉が僕の頭に浮かび上がった。