複雑・ファジー小説
- Re: Angel - sweet ( No.1 )
- 日時: 2014/12/03 22:32
- 名前: yesod ◆4xygyMHpNM (ID: ZKCYjob2)
目の前に外国人がいる。どこの国籍かわからない。
黄金を溶かしたような金髪に碧眼、スレンダーで長身だ。
ファンタジーから飛び出してきたかのようだ。服装は目立つがよく似合っている
しかし彼の顔色は悪く、生気がない。
長いまつげで飾られた瞳は虚ろで一点をじっと見つめている。
その視線の先にはパンがあった。この店で売れ筋のパンだった。
(お腹空いてるのかな・・・?)
手塚カレンは男の視線を見て、こう思った。
見た目はただのシンプルなパン
しかし素材にとことん拘り、口にいれればひと味違うと評判だった。
「よろしければ一口いかがですか・・・」
カレンは小さな籠を男に差し出す。篭には先程から男が凝視していたパンが一口サイズに切られているものだった。
男はカレンと籠を交互に見る。
張りつめた表情のまま、しばらく動こうとしなかった。
言葉が通じないのかと思ったカレンは思い付いた英単語で話す
「ユーキャントライイット、フリー…」
男と視線があった。カレンの顔をじっと見る。
かなり長い時間見詰められたような気がする。背後でレジを打つ音が響く。
周囲は外国人を一瞥するだけで、何も見なかったかのように立ち去る。この日本人のスルースキル、今発揮された。
見詰められると恥ずかしくなってしまい、思わず顔を逸らした
(ああ、声をかけなければよかった!!早く食べてあっちいって!)
そのとき、男はようやく手を篭に伸ばした。
ゆっくりと、少し震えながら
パンをつまむと、口のなかにいれる。
摘まんだだけでふにゃりと変形するパン。咀嚼すればするほどミルクの優しい味とバターの芳ばしさが口一杯に広がる。
男は目を見開いた。篭に再び手を伸ばしかけた。
「あ、よかったらもう1つどうぞ」
カレンは籠を差し出すと、男はパンを再び口にした。
表情を見ればわかる。よほど美味しかったのだろう。
そして、カレンの手に触れ、こう言った。
「〇〇〇〇〇、〇〇〇〇〇」
単語を聞き取ろうとするが、早口で耳に入らなかった。
ただ、英語ではないということがわかった。
「あ、ありがとうございます」
男の様子から否定の言葉ではないと判断したカレンは思わず日本語で言い、頭を下げた。
男の顔色は先程よりも少しよくなったようだ。死んだような表情もまるで生き返ったかのようだった。
そして、男は再びカレンをじっと見る。先程よりもずっと穏やかな表情だった。
(綺麗な顔。あんまり見られると恥ずかしいけど・・・)
言葉が通じない不安と仕事に支障が出るため、早くこの場から離れたいとカレンは思った。
男は懐から何かを取りだすと、カレンの手に持たせる。よくよく見ると、金貨のようだった。
「あの、いただけません。これ、タダなので…、ディスイズフリー」
金貨を返そうとするが、男は頑なに受け取ろうとしない。この状況にカレンは困ってしまった。
そこに助け船を出したのは、同じアルバイト仲間の佐野だった。
「Excuse me.May I help you?」
有名大学に通う彼は流暢な英語を話した
男は少しむっした顔をする。
それでも怯まず、佐野は英語で話続ける。勉強があまりできないカレンはほとんど理解できない。
男もなにか話すが、こちらはさらに意味を理解することができない。
気になったカレンは佐野に話しかけた。
「どう?なんかわかった?」
「わからん。店長呼んできて」
「わかった、そっちお願いね」
そう言ってカレンは一礼して店長がいる方へ向かった。
「あ…〇〇〇!」
背後で男が何か言っているのが聞こえた。佐野は男を英語でひたすら宥めていた。