複雑・ファジー小説

Re: 【第3章突入】Angel - Sweet side ( No.21 )
日時: 2014/12/19 22:19
名前: yesod ◆4xygyMHpNM (ID: ZKCYjob2)

「はいこれ。いってらっしゃい、アンリ」
カレンはアンリに小さな箱を渡す。そのなかにはクッキーが2、3枚入っている。
おそらく昼食をほとんど手をつけていないであろうアンリのために日持ちのする菓子を間食としてカレンは用意したのだった。
本当は菓子だけでなく、ちゃんとした食事をとってほしいのだが・・・
そのため野菜をクッキーに入れるなど工夫している
「ありがとう。行ってくるよ、早く帰ってくる」
そういってアンリはカレンをきつく抱き締める。
まるで永遠の別れかのように
いつもその日のうちに帰ってくるのだが、少しでも離れているのが不安なようだ。
「うん、おいしいの、作って、待って、るから…」
熱烈なキスの間に話す。
キスの回数も濃度も増えているような気がする。
なんとかアンリを引き剥がし、送り出すのが朝の恒例行事になりつつあった。

アンリが出ていってしばらくすると、扉がノックされる。
「失礼いたします。カレン様、勉強を始めましょうか」
ソーニャが勉強を教えにきた。
彼女とは友達のように思える。悩みを打ち明けられるぐらいの仲だ。
お茶を飲んで、談笑するときもある。彼女が先生でよかったと思っている。
カレンはずっと気にしていることがあった。
「ねえ、ソーニャ。私、あなたのが先生でよかったわ。まるで友達のように思っているの」
「カレン様にそうおっしゃっていただけるのはそれは大変光栄でございます。わが一族の名誉ですわ。カレン様のお優しい言葉を胸に精進いたします」
ソーニャがカレンに対して敬ったような振る舞いをしていることだ。カレンはアンリと一緒に暮らしているが、身分はただの日本人だ。
「できれば敬語もやめてほしいんだけど、せめて名前を…」
「申し訳ございませんが、それはいたしかねます」
「どうして?」
「カレン様は○○○の○○ですから」
この単語をよく聞く。カレンも名前を呼ばれない代わりにこの単語で呼ばれていた。
ソーニャだけではない。メイドもカレンのことを【カレン様】と呼ぶ。
「ねえ、○○○って何?」
すると、ソーニャはキョトンとした顔をする。そして、顔が青ざめてくる。
「まさか○○○から何も聞かされておりませんか…?」
「○○○って誰?アンリのこと?」
ソーニャは「そんな…」と呟く。カレンはなにかまずいことでもいってしまったのではないかと不安になる。

少しの間だけ沈黙が続く。
やがてソーニャは1枚の紙に何かを書きはじめた。
ペンを走らせる音がやけに聞こえた。
人名を書いているらしく、読み書きをならいはじめたばかりのカレンは【アンリ】と名前が書かれた部分だけを理解した。
全体を見ると、家系図を書いているようだ。カレンは今までアンリの家族を知らない。
彼からも聞いたことはなかった
ソーニャは1つ1つ指を指して説明する。
「このかたは国王陛下でございます。陛下には二人の奥様方いらっしゃいます。一人はナターシャ王妃、マアト王国の王女で陛下の正妻です。ナターシャ様には二人の子がいらっしゃいます。そして、もう一人はフィーネ様。陛下の…愛人です。フィーネ様には・・・」
ソーニャは言葉を詰まらせた。
国王陛下とフィーネの間に伸びる線を辿っていくと、アンリの名前があった。
カレンは呆然とした。
「アンリが・・・王子?」
何度もアンリの名前を確認する。
アンリはフェンリル王国の第三王子だった。
カレンは自分の勘の鈍さを呪った。身分が高いかもしれないと薄々わかっていたことだが、知ろうとしない自分が恥ずかしかった。
本人から少しでも聞けばわかることではないか。
「ソーニャ…。私、アンリ…ううん、殿下のことについていくつか聞いていい?」
「いえ、しかし…」
「いつかは知ることだから」
カレンはまるで夢の中で会話をしているような錯覚にとらわれた
しかし、知らなければならないとソーニャの言葉を僅かでも聞き逃さないよう、真剣に聞いた。