複雑・ファジー小説

Re: 変態紳士と美少年助手の愉快な毎日 ( No.100 )
日時: 2015/02/07 20:40
名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)

博士とフレンチとハニーは、この日都会に新しく開店したという回転寿司屋に食べに行く事にした。
博士以外のふたりは回転寿司など行った事がなく、寿司屋に着く前からニコニコ笑顔で興奮しっぱなしであった。
寿司屋に着いて席に座り、早速寿司を取ろうとするが、何から先に食べていいのかよく分からない。取りあえずここは、博士が勧める、たまごやえび、サーモンをなどを取って食べてみる事にした。
取った寿司を口に運んだふたりは、

「美味しーい♪」
「これがお寿司と言うものなのですね。僕、日本に来て初めて食べました!」

ふたりはその美味しさのあまり、瞳に涙を溜めながら感動していた。
そんなふたりをよそに、雰囲気を壊すかの如く、ハニーの背後に位置する席で寿司を食べている人物がいた。その人物は、うず高く皿を塔のように重ねており、パクパクパクパクと音をたてながら食べている。気になったハニーが、ひょいと隔てているしきりから顔を覗かせてその人物を見てみると、それは三人がよく知っている人物であった。

「ヨハネス君!?」
「ハニーさん!?」

「……」
「……」

博士が一緒に食べようと誘ったため、隣同士に座る事になったヨハネスとフレンチの間に、気まずい雰囲気が漂う。彼らは横目で睨みを効かせ、まさに一触即発と言った方がいいだろう。しばらくは何事もなく、皆無言で食べていたのだが、ここでふと、ヨハネスが提案した。

「ねぇフレンチ君、せっかくだから、大食い対決しようよ」
「いいですよ。多く食べられた方が勝ちで、博士やハニーさんの分も含めた代金を払うと言うことでどうでしょうか」
「悪くない罰ゲームだね。それじゃあ、始めようか」

ふたりのやりとりを聞いた博士達は、少し引いて彼らの様子を伺う事にした。
早速ふたりの大食い対決が始まったが、これはただ口に入れて飲み込むだけではなく、優雅に美味しく味わって職人さんに感謝して食べる、という大前提があり、これに反すると感謝しなかった分の食べた皿が引かれることになり、結果的に勝負に不利になってしまうのだ。フレンチは勝負が開始されるなり、いきなりかっぱ巻きを注文した。それを見たヨハネスは戦慄する。

『まさか、彼はあらゆる寿司ネタの中でも最も安くカロリーの低いかっぱ巻きを食べ続け、僕に勝つ気でいるのでは……?』

ヨハネスはつい先ほど、大量の寿司を平らげたばかりであり、腹五分目ぐらいになっていた。あまり食欲がありそうにないフレンチの事であるから今のままでも大丈夫であろうと他かを括っていたヨハネスであったが、ここにきて己の愚かさを嫌というほど思い知らされた。

『敵が最安ならこっちは最高級のネタで勝負してみせる!』

そう決心したヨハネスは、板前に向かって言った。

「大トロひとつください!」

こうして、かっぱ巻き派と大トロ派の熾烈な闘いが幕を開けた。

博士達はふたりの大食い対決を呆気にとられて見つめる事しかできなかった。
ふたりはどちらも負けず嫌いであるため、なかなか降参しようとしない。フレンチとヨハネスは一見するとどちらも優雅に寿司を味わっているように見えるのであるが、白鳥が水面では美しく泳いでいるように見えて、実は水中では必死で足を動かして泳いでいるのと同じように、ふたりの闘いはやせ我慢の闘いでもあった。
そんなふたりの闘いを見て食欲を刺激されたふたりも、食事を再開する事にした。
博士は主にサバやサーモン、イクラを、ハニーはたまごとえび、ネギトロをよく食べた。彼らが寿司屋に来て二時間が経ったころ、ようやくふたりの闘いに決着がついた。勝利したのは意外にもフレンチであった。

「僕の作戦勝ちですね!」

フレンチは勝ち誇って彼に得意げに言ったが、実は彼があまりにも一生懸命食べる姿に心が動かされたヨハネスが、わざと食べるのをやめて彼に勝ちを譲ってあげた事を、フレンチは知らなかった。