複雑・ファジー小説

Re: 変態紳士と美少年助手の愉快な毎日 ( No.63 )
日時: 2015/01/11 11:58
名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)

アップルは水槽の魚を見て大満足した後、待合いの席でお行儀よく座っていた。
スナックを食べる訳でもなく、ゲームをする訳でもなく、携帯をいじるわけでもない。彼はポ〜ッとした雰囲気の中、ただ座ってみんなが来るのを待っていた。
すると、先ほど剛力を追いかけて行ったハニーが戻ってきた。彼は彼女の名前を呼んで、空いている隣の席に座るよう勧めた。彼女は座ったのはいいが、彼と何を話していいのかサッパリ思い浮かばない。ここは取りあえず、特技はなんだろうか訊ねて見る事にした。

「僕の特技?僕は、歌が得意なんだ」
「アップル君、声透き通っていて綺麗だもんね。ねぇ、少し歌ってみてくれないかな?」
「いいよ」

彼はイスから立ち上がると、着ている赤のブレザーの腰の右ポケットからマイクを取り出し歌い始めた。彼は日本の子ども向けのアニメのファンのようで、それらのアニメソングを歌うと子どもたちが彼の元へと群がってきた。
子どもたちに釣られて大人たちもあまりの美声に聞き入っており、その澄んだ歌声は空港中に響き、博士やフレンチ、ヨハネスの耳にも入ったようで、その声に引き寄せられるように彼らはハニーたちのいる場所へとやって来た。
それを確認したアップルは彼らにウィンクをひとつする。
すると、本日三度目となる奇跡が起こった。
それはヨハネスの前にグランドピアノが現れ、フレンチの前に彼の愛用のフルート、博士の右手にはいつの間にか指揮棒が握られているというもので、これが何を意味するかをすぐに悟った博士は、早速大勢の人々に呼びかけた。

「最初で最後のステージをどうぞ皆様お楽しみください!」

それから二時間、オペラ歌手も真っ青なアップルの美声、ウィーン合奏団で鍛えたフレンチのフルートの音色に、祖父から教えられたと言うヨハネスのピアノ伴奏、博士の巧みな指揮とハニーの愛くるしいダンスがコラボレーションしたこれ以上ないステージを、飛行場にいる人たちは味わった。

そして後日——家に帰った博士たちは、自分たちの活躍が沖縄の新聞に載った事を知るのであった。