複雑・ファジー小説

Re: レイヴン ( No.1 )
日時: 2014/12/23 02:53
名前: Ⅷ ◆WlOcYALNMA (ID: pHBCaraS)

プロローグ

【アビリティ】

異能力、魔法、様々な呼び方で呼ばれるそれは、科学では証明できない【異能】を持った人間のことを指す。

その力は、何もない空間から炎や水、電、氷などを生み出すオーソドックスなものから、物体や空間を操るなどといった、個人でひとつの軍隊に匹敵するほどの力をもったものまで、種類は様々とある。

出現も不明。発現条件も不明。なにもかもが謎に包まれる【アビリティ】という存在は、この人の世においては忌み嫌われる存在なのは、言うまでもないだろう。

力に溺れ、【力】を使い、犯罪に走るものがいれば、それを【力】を持たない警察が止めようものなら、ひとたまりもなく警察という組織は壊滅に追い込まれてしまうために手が出せず、【アビリティ】が犯罪を犯すたびに軍を動かそうものなら、その一辺は混乱に包まれ、一般人や建物にも甚大な被害が出てしまう。そのため、人々は実質的に【アビリティ】を止める手段を、持ち得てはいなかった。

それゆえに【アビリティ】は、この世界に居場所がなかった。

【アビリティ】は、生まれた瞬間から【力】を宿しているケース。ある日突然【力】に目覚めてしまうケース。【力】を与えられるケース。の三つに分かれている。

生まれた瞬間から【力】を宿しているケースで【アビリティ】になった者は、その瞬間だいたいが殺されてしまう。【力】を持つもの対する恐怖は、自らの子を産んだ瞬間に殺してしまうほどに人を狂わせる。だが極まれに、【アビリティ】になった瞬間に本能的に周囲の人間を殺し、べつの【アビリティ】に拾われる子供もいる。そのだいたいは、犯罪へと手を染めるとされていて、さらに生まれた時から【力】を宿す【アビリティ】は、かなり強力な【力】を宿しているのが大体を占めている。

ある日突然【力】に目覚めてしまうケースは、発現した瞬間にその【力】でなにかしらの問題を起こす。本人の意思とは関係なく、炎が本人の周辺に出現したり、水浸しになったり、電で周囲の人間を焼き殺したり、氷で一帯をまるごと凍りつかせてしまったりといったもので、発現した瞬間に、その人は、【アビリティ】と認知されてしまい、一般社会で生きることを拒絶される。このケースは、世界中に居る【アビリティ】の中でもっとも数が多い。だが、驚異的な【力】を宿す者はあまり多くないが、それでも一人の【アビリティ】だけでひとつの街を壊滅させることは容易にできてしまう。

そして最後に、もっとも【アビリティ】として数が少なく、【力】を人のため、秩序のため、正義のために振るうことを望んだ、【力】を与えられて【アビリティ】になるケース。

人々が、【アビリティ】という驚異に晒され始めてから数十年、人は【アビリティ】の【力】を研究し、何度も実験を繰り返し、ほんの数%の確率で人に【アビリティ】と同じ力を宿らせることに成功した。

【アビリティ】の力の発現条件は不明なことは変わらなかったが、【アビリティ】となったものには、必ず体のどこかに異常に変化した部位が現れる。
異常、というには小さすぎる変化だが、たとえば、手の甲に炎の様な模様が浮かび上がっていたり、常に身体から微弱な電磁波が生まれていたり、身体のどこかから必ず水が滴り落ちていたり、常にその【アビリティ】の周囲が冷気に包まれていたりと、必ずどこかしらに異常が生まれていて、それこそが、その異常に変化している部位こそが、【アビリティ】の【力】を【発動】するのに必要なところなのだと、人々は気がついた。

それから、捉えた【アビリティ】達の部位をまず身体から引き離し、本体から離れた場合どうなるのか研究した。その結果【力】というのは、【アビリティ】の脳・・・意識がつながっていなければ、発動することができないということがわかった。次に、【アビリティ】の腕と足を切り離した状態で、心臓部分に部位がある【アビリティ】は【力】を発動できるかどうかを研究した。その結果、発動はできるがその力はとても弱く、【力】は、【アビリティ】本体の体力の変化で威力が変わるということがわかった。

それから様々な研究を重ねたが、どれも人為的に【アビリティ】を生み出すことに繋がる成果はなかった。

だが最後の研究で、人々は、【アビリティ】を作り出すことに成功してしまった。

【アビリティ】の部位の一部を【力】をもたない人に移植した場合どうなるか。

結果—————血液型、体格、性別……まったく異なる個体同士で……確率として、ほんの5%という絶望的な数字をたたき出して、【アビリティ】を人為的に作り出すことに成功した。

【力】を与えられた【アビリティ】は、移植前に必ず、黒い首輪を付けられる。その首輪には、小さなチップが入っており、その【アビリティ】が【力】を使うのを随時チェックし、【力】を発動した際に、前にとりつけられた小型のカメラが起動する仕組みになっていて、【力】を使ってもしも犯罪を犯そうものなら、遠隔でそのチップを爆発させ首を飛ばすことができるようにされる。

人々が【アビリティ】に唯一対抗できる人工【アビリティ】。その実態は、政府の忠実な【アビリティ】を狩る猟犬。

なれる可能性は絶望的に低く、なれたとしても、【アビリティ】になってしまったことで周囲には忌み嫌われ、手綱を握られ、いざとなれば簡単に死んでしまうというのに、志願するものは後を立たず、少し前には社会問題になるほどの死者がでたが……人々は、自分たちの世界を守るために、正義となるために、【アビリティ】となることを望んだ。

政府は人工【アビリティ】達による、【アビリティ】犯罪に対処するための組織、【レイヴン】を結成し、人工【アビリティ】のすべてはそこに所属し、【アビリティ】犯罪が起こるたびに、人のため、秩序のため、正義のために【力】を振るうことを望んだ。

そして———【レイヴン】により【アビリティ】犯罪に対する恐怖が薄れ始めてきた2053年の東京で……左目が髪の色と同じ灰色、右目が全く異なる赤色をした人工【アビリティ】の青年と、その妹、右目が髪の色と同じ灰色で、左目が全く異なる赤色をした『純粋』な【アビリティ】が、鳴り響くサイレン、燃え上がる建物、逃げ惑う人々、そしてその中心にいる【アビリティ】の男にむかって、叫ぶ

「「レイヴン所属、片桐兄妹。これよりターゲットを排除する!」」

それは……【アビリティ】によって秩序が崩壊しかけた世界で、【アビリティ】の【力】によって正義を貫き、戦う、ひとつの兄妹の物語———————