複雑・ファジー小説
- Re: レイヴン【キャラクターイラスト公開】※随時調整 ( No.10 )
- 日時: 2014/12/20 17:10
- 名前: Ⅷ ◆WlOcYALNMA (ID: pHBCaraS)
「刃兄さん、失礼なこと考えてませんか?」
満足顔で頷いている刃のことをみて、蓮がすこし怒った口調でそういう。刃は、蓮のほうを振り返らず
「いや、なんも思ってねぇよ」
と、冷や汗を流しながらそう口にする。
蓮は、そんな刃の様子をみて、次に、刃がみていたファッション店のマネキンをみて、一度ため息をつく。
「どうせ、私には似合わないっていいたいんですよね」
怒ってるかと思えば、蓮の口調はどこかすねているかのようだった。その様子に刃は、冷房の効き過ぎでかいているわけではない冷や汗をぬぐい、どうしたものかと、髪をかく。
「ま、お前は可愛いから実際着てみたら案外に似合うかもな」
と、フォローだけ口にして、若干の気恥ずかしさから歩調をはやめて歩く。
歩調をはやめて歩きだした瞬間、すこし弱い衝撃が肩に当たる。前から歩いてきた人にぶつかったのだ。刃は、とっさに舌打ちしそうになり、ぶつかった人をにらもうと相手のほうをむくと———目が、あった。
まるで、ふざけているかのような、黒いマントを身体全体に巻きつけた、刃と同じような体格ででさらに身長がたかく、顔は、どこかのオペラにでもでてきそうな顔全体を覆う、白い、無表情のマスケラをつけている。空いている目の空洞の中から、黄色い、動物じみた鋭い瞳と、刃の視線が交わる。
そして耳にする。まるでなにかを楽しんでるかのような、半笑い気味につぶやかれた、その言葉を。
刃の目が見開かれる。見開かれると同時に、男がその場所から一瞬にして掻き消える。なにがおこったのか、まったく理解できず、刃は、再びかきはじめた冷や汗をぬぐい、男がいたはずであろ虚空を眺めることしかできなかった。
蓮が、不思議そうに刃のことをみつめる。その様子をみて、刃は焦る。
「……おい蓮、今のみたか?」
「……?」
「さっきのふざけたお面野郎だ!!まさかみてねぇのか!?」
蓮の肩をつかみ、ゆする。蓮は、困惑しきった顔で刃のことをみつめ、小さく首を振るだけだった。
嘘だろ・・・とつぶやきながら、刃はまだ流れ続ける冷や汗を拭う。ほんの一瞬の出来事、すぐ近くにいた相棒ですらも認知することのできなかったあの男が、まるであの一瞬だけ夢でもみてたんじゃないかと刃の思考を曇らせる。
黒いマント、ふざけているかのようなお面と、獰猛な瞳……そして、つぶやかれた、男の半笑い気味の言葉は、けして夢ではなかったと、刃の頭の中で警鐘を鳴らす。やつはきけんだと。忘れてはならない、と。
「刃兄さん……暑さでおかしくなった?」
ここは室内だからそんなことはないのだが、蓮が心配そうにそう聞いてくる。さっきまでは怒ったりなんだりと忙しかったが、こういう時はちゃんと人をみているなとつくづく思い知らされ、刃は若干引き攣りながらも笑顔をつくり
「だ、大丈夫だ」
と気丈に振る舞いながら、蓮の頭を撫でる。
「さっさと片付けて家でごろごろしようぜ」
と、さきほどの焦りが残っているのを隠しながらそうふざけていう。蓮は、そんな様子の刃をまだ心配しながらも、歩調を早めた刃に後ろからついていく。
刃の焦りは消えない。歩いても消えない、蓮に心配されても消えることはない。気を紛らわしてふざけたことを言っても消えることはなかった。
『キミは、なにも、守れないよ。中途半端な【アビリティ】君』
マスケラのなかから放たれた半笑い気味のこの言葉は、刃の頭の中で何度も何度も、反芻していた———