複雑・ファジー小説

Re: レイヴン【キャラクターイラスト公開】※随時調整 ( No.11 )
日時: 2014/12/21 10:01
名前: Ⅷ ◆WlOcYALNMA (ID: pHBCaraS)


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結果的に言うと、北エリアにある3つのトイレのうち、2つははずれにおわった。相手が男だからといって、女性用トイレにかくれていないともかぎらなかったために、蓮にも協力を仰いでちゃんと見て回ったが、その2つのトイレには、【アビリティ】は潜伏していなかった。

さきほどのことは頭の片隅にまだひっかかっているが、今はこの捜査を進めなければなにも始まらないと思った刃は、気持ちを切り替えて、最後のトイレにむかって、蓮とともに歩き始める。

「結局、一番怪しいと思ってたここのトイレがあたりかよ」

「そうみたいですね」

どこか、蓮の口調は緊張しているようだった。

けして、これが初めての捜査、というわけではない。ただ、いつまでたっても、相手を追い詰めるときというのは緊張するものだ、と刃は思う。
極めて平成を装っている刃ですらも、手には、冷房が聞いていて涼しいはずなのに、汗が滲んできている。

これからやることは簡単だ。【レイヴン】の【アビリティ】として、同じ【アビリティ】を社会のため、世界のために———殺す。

蓮には、それができない。

【アビリティ】を、人を、殺すことができないのだ。

蓮の頭に手をおくと、刃は笑う、いつものように、少し不格好な笑顔で、蓮を安心させるために、兄としての努めを果たすかのように。

「俺にまかせとけよ」

そういうと、蓮は安心したような顔をみせる。安心した顔を見せるが、それでも緊張はとけることはない。だが、刃の覚悟は、それで決まる。

やがて、最後のトイレのある場所へたどり着く、蓮の瞳にはやはり緊張がやどっているが、幾分か落ち着いているのが分かる。それをみた刃は、スーツ
のそでをまくり、気合をいれる。

「さっきまでの通り、俺が男、お前が女用だ。……もしも遭遇しても、けして交戦するな。俺を呼べ」

「はい」

蓮が頷くのがわかると、刃は静かに男性用トイレの入口を伺う。中からはなにもきこえてこない。一層集中し、ショッピングモールの雑音を遮断し、トイレの中だけに集中すると、少しだけ、ほんの少しだけ……何者かが、息を潜めているものの、漏れ出す息の音が、聞こえてきた。

このトイレにいる。そう確信した刃は、静かに、足を殺してトイレにはいる。そのトイレは、どこか西洋の雰囲気を醸し出しているのか、薄い黄土色が基調の色となっていて、洗面台の鏡も丸く、電球の代わりにシャンデリアを模したものがとりつけられている。

全体的に細長い雰囲気はどこのトイレもかわらないが、ひとつだけ、ひとつだけ、個室のドアが、しまっていることが、いまのいままでと違うところだった。

静かに、音を立てず、足を忍ばせ、気配を殺し、その個室のドアの目の前までくる。中にいる者の気配が極端に殺されるのが分かる。それで確信した刃は、ドアノブに手をかけ……ようとしたところで、いきなり、ドアが開いた。

「ぐおっ!?」

刃は、いきなりのことに顔面をおもいきり強打し、地面にひっくりかえる。その瞬間を見逃さず、なかから何者かがとびだしてきて、その一瞬だけ、目があった。

(まちがいないっ、やつだ!)

なかから飛び出してきた男は一目散にトイレの外へとかけだしていく。数日風呂にはいっていないためか、かなりひどいにおいが男のかけた後からただよってきてむせかえりそうになりながら、刃は舌打ちして立ち上がり、駆け出す。

「騒ぎにはしたくなかったんだけどよ!!蓮!!」

「はいっ」

蓮が反対側のトイレから飛び出してくるのを確認して、人ごみのほうにかけていく男を目視して、走る速度をあげる。

人々は、何事かとおもいこちらに振り返り……そして、その男の【アビリティ】としての部位。手の甲に炎のような模様が浮かび上がっていて、そして、そこから火が漏れ出ていることに気がついた人々が、叫びだす。

緊急のアナウンスが流れる音がきこえる。おそらくどこかに待機していた警備員が連絡をいれたんだろう。だが、そんなことにかまっている余裕がないと判断した刃は、蓮と一度視線を合わせて、頷き、そして———

一瞬で、男との間合いを詰める。