複雑・ファジー小説
- Re: レイヴン【キャラクターイラスト公開】※随時調整 ( No.12 )
- 日時: 2014/12/21 10:12
- 名前: Ⅷ ◆WlOcYALNMA (ID: pHBCaraS)
「シッ」
短く息をはき、低姿勢で足をかける。男は驚いた顔で刃のことをみて、部位があるほうの腕を刃へとむけようとする。だが、一瞬刃のほうが早かった。
低姿勢のまま、刃は掌底を男の脇腹に叩き込む。横に吹き飛びかけた男の、部位のないほうの腕をつかみ、遠心力を使いその場を回転した後に、どこぞともしれない店のなかへと投げ飛ばす。
商品やらマネキンやらを巻き込みながら男は店の壁側まで吹き飛び、それと同時に人々の甲高い悲鳴が勢いをます。ただでさえ、【アビリティ】がいるというのに、すでに【レイヴン】の【アビリティ】がいて……【アビリティ】同士の戦いがはじまって、自分たちはそれに巻き込まれてしまったんだと、そんな心配ないぞと謳っているはずのこの店のなかで、ありえない出来事が起こってしまったんだと、絶望から悲鳴をあげる。
【アビリティ】同士の戦いは非常に危険だった。それが、なにかものを壊すことにためらいが無ければ無いほどに、【アビリティ】同士の戦いは周辺一帯を壊し尽くしてしまうほどに危険なのだ。
刃は、投げ飛ばした男にむかい、追い打ちをかけるように走り出す。勝負は一瞬でつけなければならない。それが、【レイヴン】としての、最大限の配慮であり、そして、それが一番被害を抑えるのに有効であるからだ突然、店の奥から炎があがる。まわりのものを焼き尽くさんばかりに、濃度の高い、灼熱の炎が男の周りにあるものすべていを焼き払う。
【力】を発動したのだ。【アビリティ】となり、【レイヴン】にはいらなかったものは、犯罪を侵さなくても、処理してもよいという国が定めたルールがある。【アビリティ】となったものに人権は適応されずに、【レイヴン】の【アビリティ】となるか、それとも、殺されるかのどちらかしか選択肢が残されていない。だから、【レイヴン】にはいるみちを拒んだ【アビリティ】は、【レイヴン】の証である首輪をつけている【アビリティ】を見た瞬間に、逃げる。そして戦う事になってしまったら・・・死力をつくして、【アビリティ】の【力】を全開にしてでも、生きるために、【力】をつかう。
「くるなああああああああああああッッ!!」
男が悲痛としかいいようがない叫びをあげる。人として生きた時間はすべて否定され、【アビリティ】となり、逃げ回るしかなくなってしまったあげくに、刃たちが現れた。逃れられない【アビリティ】としての宿命。それを目にして刃の心の中には苦い記憶が蘇るが、それでも男に拳をむけた。
刃が自身の間合いにはいったと感じた男が、右腕を床に叩きつけ、そこから熱線が地面を伝い、刃の周囲を取り囲んだかと思うと、その瞬間に炎の柱となり燃え上がる。刃はすれすれでそのなかからとびだし、さらに迫る。
濃度が高い炎は触れただけでも危険だった。どちらかといえば、燃やすというより溶かす。というほうがその炎にはふさわしい言葉だろう。そのため、一度炎に触れてしまったら消すまもなくその触れた場所は溶けてしまうだろう。そう考えた刃はゾッとするも、足をとめはしない。
男ががむしゃらに炎の塊を刃にむけて飛ばしてくる。それを避けながら、一瞬なにかに気がついたかのように刃は後ろを向く。流れ弾が、未だ逃げ惑う人たちにあたっていないか、それが心配になったのだ。
その心配は杞憂だった。
店の外に飛んでいこうとする炎の玉は、左目のカラーコンタクトをはずし、赤い瞳……【アビリティ】としての部位が露出した蓮が、【力】を使ってすべての炎を『吸引』していた。
重力操作能力。
あまりにも膨大な情報や、あまりにも難解な数式をもってしてもいまだすべてが解明されているとはいえない、重力。だが、【アビリティ】は、理論や計算などすべて無意味であるかのように、ただ、なんとなく、【力】として扱うことができてしまう。
それは、炎とか水とか、そういった【力】をもった【アビリティ】だったとしても例外ではないが、個人の能力と、そして、その【力】との相性、そして…個人の天才的な感覚が強ければ強いほどに、ありえないとまで言われる強力な【力】を扱うことができるよになる。
そして蓮は、刃がしっているなかで、もっとも強力な部類の【アビリティ】としての【力】と能力をもっていた。
蓮の左目が炎を捉えた瞬間に、その炎の中心から黒い塊のようなものが生まれ、圧倒的な熱量をもつそれを吸収し、それは虚空へと消え、黒い塊も消える。蓮自体はただ炎と目の焦点を合わせただけ。たったそれだけで、蓮の【力】は発動し、対象の中心に『マイクロブラックホール』を生み出し、自由に消すことが出来てしまうのだ。対象物を失ったそれは自然消滅し、元ある姿へと戻る。
だが蓮のこの【力】も万能ではない。かなり【アビリティ】としては優秀な【力】ではあるが、この『マイクロブラックホール』は人や、自身より大きなものにたいしては発動すらできない。
理由はよくわからないが、蓮がいうには、体力が足りない、ということらしい。【アビリティ】としての【力】は、個体の体力によって左右されるという見解は、間違いではない証明であった。
そう聞くと、蓮の【力】は【アビリティ】の【力】を封じることはできるが本体を戦闘不能に持ち込むことは不可能なのではないか、と思うだろうが……実際は———
刃は、頭のなかで少し考えていたことを振り払い、目の前の的に集中する。とにかく、後ろの人たちの心配はなさそうだなと思い、眼前までせまった男にむかって勢いをつけ、飛び蹴りを腹に叩き込む。
「グウウゥゥゥ!!」
衝撃に涎を撒き散らし、男は再び壁に叩き込まれる。その壁は、刃の蹴りの威力で、男の形にすこしめり込んでいた。
男が壁から剥がれ落ち、床に倒れ込んだとき、刃は勝ったと思った。
早期決着。建物の被害はすこしでてしまったが、人的被害は零。あっけないものだったが、【アビリティ】同士の戦いにしては上出来な方ではないかと、一人で勝手に満足して、頭の片隅に置いておいたであろうなにかを、その時だけ、忘れてしまっていた。
ふと、一瞬、刃の目の前に黒い、布のようなものが横切ったかと思えば、視界が暗転する。何が起こったか分からず、店の入口近くまで吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた瞬間に視界が戻り、なにが起こったのか、刃は察して、そして、驚愕した。