複雑・ファジー小説

Re: レイヴン【1話執筆】※随時調整 ( No.18 )
日時: 2014/12/23 02:52
名前: Ⅷ ◆WlOcYALNMA (ID: pHBCaraS)

その瞬間、男の姿は虚空へと掻き消え———あとに残ったのは、戦いの跡だけだった。

「あいつも……【アビリティ】か……」

最初に会った時から、もしかして、と思う面もあった。だが、あまりの不気味さにその可能性を意識しないようにしていた。

だがしかし、いざ拳を交えようとしてみれば、一方的に叩きのめされるだけという無様な結果が残るだけだった。

刃は、痛む身体と、仮面の男と対峙した時には意識していなかったが、身体がかなり緊張していたらしく、その場に倒れこむ。緊急避難を促す放送がまだ延々と店内に流れていて、このあたりはだいぶしずかになっていたが、まだまだ騒ぎは収まりそうにないなと、倒れざまに思う。

倒れた瞬間に、蹴られた腹の部分が痛み、刃は舌打ちする。肋骨を何本か持って行かれたんじゃないかという衝撃・・・そして、背骨までもっていかれそうになるほどの強打。悔しいが、実力差は相当なものだなと刃は歯噛みする。

「刃兄さん!!」

蓮が、駆けつけ、刃の身体を抱き起こす。カラーコンタクトがはずれていて、赤い瞳が露出した蓮の左右非対称の色をしたその瞳は、いつみても綺麗だな、と刃は思う。

これが、戦いの後とかでなければもっともいいシチュエーションだったかもなと一人で思いながら、刃は極めて厳しい顔で尋ねる。

「仮面の男……やつは、【アビリティ】でまちがいないか?」

それは、店の外から遠目で刃と仮面の男の一瞬の戦闘をみていた蓮にこそ尋ねられる質問だった。

蓮は、小さく頷くと、かなり深刻な顔でいう。

「はい。間違いなくあの男の【力】は……空間操作能力です」

「ちっ……」

やっぱりか、と刃は呻く。単純な【アビリティ】であれば、刃のスピードについていけるものは少ない。広範囲系の【力】を使うものにはあまりに無力ではあるが、炎をつかっていた、目標の【アビリティ】に刃は、圧倒的なまでの力を発揮できていた。

だがしかし、あの男にはきかなかった。それどころか、刃をも上回る速さでの移動と、そして、【アビリティ】となり、運動能力の向上している刃と同等か、あるいはそれ以上の馬鹿げた力。くやしいが、

「やつが逃げてくれて、助かった……くそっ」

蓮は、その刃の言葉に……悲しげな顔を、むけるだけだった。
その連の悲しげな表情をしっているからこそ、刃は、申し訳なさそうな顔になり、たちあがる。

このあとの騒ぎを処理するのは、このショッピングモールの従業員たちだ。そこまで、【レイヴン】はてをまわすようなお人好しではない。ましてや、【アビリティ】である刃たちが混乱の真っ只中にいってしまえばさらに混乱してしまうのは目に見えている。

刃は、スーツの胸ポケットにはいっている携帯をとりだし、東京の【レイヴン】に失敗報告をするべく、あらかじめ登録してある番号にかけようとしたところで、その番号から、いきなりコールがかかり、驚いた刃は携帯を振り落としそうになりながらもなんとかそのコールにでる。

「こちら片桐刃。ただいま戦闘———」

刃が、コールにでた瞬間にあわせて、戦闘終了報告してさっさときってしまおうとしたが、かけてきて【レイヴン】司令部の反応が、あまりにも切羽詰まったものだったために、それは許されなかった。

「戦闘報告はいい。我々もモニターしていた」

刃はその言葉に舌打ちを一度する。モニターでちゃんとみてんならべつに俺たちが電話で報告する必要ないだろと思うが、一応【レイヴン】の【アビリティ】としての義務なので、文句はいわなかった。

だが、本当の要件は、ここからだった。

「刃。キミたちが見たのは……無表情のマスクをした、空間操作能力者で間違いないか……?」

まるで、本当であってほしくないという意味がこめられているかのような言葉に、刃は頭が痛くなる。だが、隠しているわけには行かない。いずれにせよ、やつのことは報告するつもりだったのだから、今でもかまわないだろうと刃は思い、口にする。

「まちがいない。蓮もやつの能力をみてる……間違いなく、空間操作能力者だ」

そう刃がいうと、携帯の向こう側で、深刻そうなどよめきがきこえる。そして……次に放たれた言葉は、刃と……そして、のちにそのことを教えたとき、蓮の顔から間違いなく表情を消してしまった。

「報告ご苦労……君たちが遭遇した【アビリティ】は……おそらく、【レイヴン】最優先処理対象……危険度SSSクラスの、化物だ」