複雑・ファジー小説

Re: レイヴン【一話執筆中】※随時調整 ( No.21 )
日時: 2015/01/03 03:08
名前: Ⅷ ◆WlOcYALNMA (ID: B240tmf4)

今ある情報でいろいろと思考を重ねたところで無意味に終わると考え、刃はポケットにはいっているたばこをとりだそうとするが、蓮はそれにすぐに気がつき静止しながら

「どちらにせよ、私たちは世界を滅ぼす者の件に関わってしまいましたから、知る権利はあるはずですね」

どこか、隠していたことを糾弾するかのようなものいいに、刃も共感を覚えるが、

「知ったところでもう二度と会うことはねえさ」

と、刃は口にする。

それは、刃自身の願望であるといっても過言ではない。今回は運がよかっただけであり、次があれば……確実に、殺されることは間違いないから。

ふたりの口は次第に閉ざされ、歩みはゆったりとしているが、着実に、ショッピングモールの敷地から、人工島につながる桟橋へと向かう。

ショッピングモールのなかでおこった戦闘により、敷地ないにはあわただしい放送の音が鳴り響き、人々は悲鳴をあげて逃げ惑う。その声は今も少しだけ聞こえてきていて、刃は申し訳ない気持ちになっていた。

戦闘を可及的速やかに終えて、とっとと警備員に報告して、とっとと平穏な世界を取り戻してほしかったが、それをなせなかったのはなによりも刃の責任であった。もしも、刃が仮面の男の危険性に最初から気が付いていれば、ちゃんと上との連絡をしたうえで対処法を編み出せたかもしれないのに、それを怠ったのは、なによりも刃の責任でもあるが、それとともに……

「俺たちのように、やつのことを知らされていない【アビリティ】たちが戦闘になったらどうなるんだろうな」

という、疑問が生まれた。

「……そうなった場合、やはり」

蓮が悲しげに顔を伏せる。なにもしらない【アビリティ】がやつと出会い交戦となり、全力でぶつかり合えば…間違いなく、なにもできずに、殺されてしまうだろう。そうなってしまった場合、【レイヴン】は、どうするのだろうか。

「だいたい、今回のように、偶然やつの出現が、なにもしらない俺たちのような【アビリティ】と重なることが、初めてだったとも思えない」

そう考えると、【レイヴン】は、やつの存在をしり、実力のあるやつらに追わせながらも、実力の伴わない【アビリティ】たちの死を見過ごしてきたとも言えて……そこまで考えたところで、刃は思考を停止した。これ以上
考えることに意味を見いだせなくなったのだ。数ヶ月前からその判定がでていた仮面の男と、それを実力の伴うものだけに伝えるだけ伝えあとの【アビリティ】たちには知らん顔をする【レイヴン】の意思がわからなくなってしまったから、考えることをやめた。

それに、刃は考えるのをやめたことには、もうひとつの理由があった。

ふと顔をあげて、長ったらしい桟橋をアル菊でわたらなくてはならないという現実に引き合わされて、ため息をつこうとしたところに、その桟橋から、黒い小さな車が近づいてきていることに気がついたからだ。それは、刃たちがよく知る人物が愛用しているそれによく酷似していて、さらにそれが近づくにつれて、本人のものであることがわかったから、刃はひとまず考えを捨てたのだ。

それは、刃たちがよくしる人物。刃たちが所属している部隊の、直属の上司……【レイヴン】・対【アビリティ】第37部隊司令官、新城結衣のものだった。

刃たちは歩みをとめ、桟橋からでて、一直線にこちらに近づいてくるその車を眺めながら、まさか、混乱しているはずの【レイヴン】からわざわざ出張ってくるほどの気遣いを見せてくれるほどの人だったかという驚きにめを見開いていた。

やがて、刃たちの目の前に停車し、前のドアをあけて地におりたったのは、蓮とよく似たスーツを着る、黒髪を後ろで結うだけの落ち着いたスタイル、いわゆるポニーテールという髪型に、すこしつり目で、意志の強さを示している瞳は、大人っぽい顔立ちと相まって、幼げに見えるが、赤い眼鏡をかけているおかげで、幾分か知的な才女にも見える。まさしく、【レイヴン】・対【アビリティ】第37部隊司令官、新城結衣の姿そのものだった。

【レイヴン】の【アビリティ】が唯一かかわり合いのもてる人間といっても過言ではない存在、それは、【レイヴン】に所属している人だけなのは言うまでもない。外にでて操作をすることがあり、そこで人と話すことはあっても、人は、【レイヴン】の【アビリティ】である象徴の首輪を見るだけで関係を断絶しようと、存在を排撃しようとする。それはもちろん、【レイヴン】に所属しているにんげんたちもそうであるが、仕事として、人々を【アビリティ】の恐怖から守る使命感からか、道具として、【アビリティ】たちを使わなければならないと理解しているから、【レイヴン】に所属する人々は少しばかりの関係性を保とうとする。拒絶するわけにもいかず、それでも、好意は示さない。それが、一般的な【レイヴン】の【アビリティ】と【レイヴン】の人間の関係性である……が、その点でいえば、刃たちの上司である新城結衣は、まったくの異質ともいえる存在であった。