複雑・ファジー小説
- Re: レイヴン【一話執筆中】※随時調整 ( No.22 )
- 日時: 2015/01/05 16:56
- 名前: Ⅷ ◆WlOcYALNMA (ID: DlcbEiJU)
「二人とも、さっさと車に乗ってくれ。本部でキミたちのみた情報と映像を事細かく分析するから」
そう完結に言い終えたかと思うと、新城結衣は、早足で蓮のそばまでより、そのカタをかりる刃などお構いなしに、手をひっぱっていく。
突然頼みのつながなくなった刃は倒れそうになるがなんとか踏ん張り、その上司の奇行をみながら、ため息をつく。
蓮は困ったように刃のほうを振り向くが、刃は呆れたような顔をするほかなく、頭をかいた。
やがて、蓮を助手席に座らせたあと、運転席のドアをあけ、振り向きざまに
「早く乗ってくれないかい木偶の棒。君はとことん私の足をひっぱるね」
と、辛辣な言葉を刃へとなげかける。
「いつにもましてひでぇな新城……」
新城結衣という人物は、【アビリティ】に対する差別意識がない、もっともこの世界では珍しい部類の人間であった。それゆえに、異質な存在として扱われることも多々あるのだが、本人はいつもどこ吹く風である。
その存在は、刃たちにとってとても頼もしい存在であった。【アビリティ】というだけで差別され、排撃されるこの世界では、もっとも信頼のおける人間であることは間違いがなかった。だがしかし、異質と呼ばれるがゆえに、欠点という欠点があるのも否めなかった。
それは、徹底的に女の子に対して甘い、というところだった。
男である刃に対しては、上司と部下、友達未満知り合い以上みたいな関係を崩そうとしないが、刃の妹である、蓮に対してだけは、徹底的に甘やかし、可愛がるのだ。そのため、刃はストレスがたまる一方なのだ。
刃がため息を付きながら後部座席に乗り込んだことを確認すると、結衣は車をUターンさせ、さきほどきた桟橋を再びわたる。
「……蓮ちゃん、けがはないかい?」
刃へとむけた言葉とは違い、とことん心配しきった声で蓮に尋ねる。蓮はいつもどおりの結衣の対応に若干戸惑いながらもなれたものなのか、
「私は大丈夫です」
と一言かえす。だが、結衣の心配は止まらないのか、
「捜査中に人に絡まれなかったかい?暴力をふられなかったかい?片桐刃とかいうやつに変なことされなかったかい?戦闘中怖くなかったかい?本当に大丈夫かい?今日も変わらず可愛いね愛してる」
矢継ぎ早に言われるその言葉に蓮はもはやなにも言えずただ無言になってしまい、刃は呆れ返ったかのように再びため息をつく。
「うるせえよ新城」
「キミは黙っていてくれないか」
ケガをおっていても露知らず、態度をかえない結衣にたいして刃はもはや呆れしかでてこなかった。すこしぐらいは心配してくれてもいいだろうがと思わなくもなかったが、これが新城結衣という存在なのだから、もはや諦めてしまっていた。
「それよりも、本部についたらまず治療させてくれよ。痛くて仕方ねえ」
これからおそらく、本部についたら刃たちには報告義務が生じる。【レイヴン】が隠し通している危険度SSSの【アビリティ】の貴重な目撃情報だから、もっとも優先される事項であることは刃も理解している。だが、それと戦闘になり、なんとか生きているのだ。
ねぎらいの意を込めてさきに治療させてほしいという刃の考えだったが
「却下だ。事態は君たちが思っているよりも深刻なことを理解してくれ」
結衣は、それを拒否する。ミラー越しでしか表情を伺えなかったが、それは結衣の本心からの言葉ではないらしく、どこか申し訳なさそうな顔をしていた。
「キミたちにSSSのことを黙っていたのは申し訳ないと思っているし、今回のような事態を招いたのも私がキミたちには関係ないと勝手な判断をしたせいだとも十分に理解しているが……【レイヴン】は一刻も早く、SSSの情報を欲しがっている」
「それでいつもは気が利かない上司さまも命令で俺たちを迎えに来たわけか」
「そういうことだ。本来なら蓮ちゃんだけ車にのせて帰るだけなのだがな」
そこで、今まで結衣の言葉攻めのせいで黙っていた蓮が口を開く。
「でも、刃兄さんはその世界を滅ぼす者……SSSと戦闘になりました。私からも、刃兄さんの治療を優先してほしいです」
その言葉を聞いた結衣は、目を見開き、少しの間考えるように唸ると、突然なにを思ったのか
「蓮ちゃんの頼みなら仕方ないね。治療しながらキミたちの話を私が聞き、それをまとめて上に報告するだけで済むように掛け合ってみる」
さきほどとは裏腹に、まるで用意していたかのようにペラペラと、本部の意向に背くようなことを口走る。
さすがのこれには蓮も驚いていたが、新城結衣とはやはりこういう人物なのだ。
「なあに、礼はいらんさ。あとで蓮ちゃんが一緒にお風呂にでも入ってくれたら私はもうそれでまんぞ」
「いいから黙ってろクソ女」
「あ?」
桟橋を渡り終えることには今後の方針はすでに、新城結衣の独断で、勝手に決まってしまっていた。