複雑・ファジー小説
- Re: レイヴン【一話執筆中】※随時調整 ( No.28 )
- 日時: 2015/01/27 05:22
- 名前: Ⅷ ◆WlOcYALNMA (ID: kniACxiR)
「仮面の男……【レイヴン】がやつについてなにも知らないってのが十分にわかった」
刃が吐き捨てるようにそういうと、結衣は申し訳なさそうな顔になる。だが、刃はべつに彼女のことを攻めているわけではなく、ただただ、【レイヴン】のいい加減さに、そして、腹立たしい仮面の男の喋り方を思い出して、ただただイライラしていた。
思い出すのは戦い終わったあとの言葉だ。仮面の男は、刃たちを殺せるのに殺さなかった。そのいい加減さに腹が立つ。そして、深追いした刃をあっけなく戦闘不能にした男は、再び、刃たちと仮面の男が出会うかのような口ぶりで話していた。その意味はなんだったのか。
「私が知っているSSSの情報はざっとこんなところだ……キミたちは、なにかあるか?」
話は以上だと言わんばかりか、結衣は立ち上がりつつ、そう聞く。その言葉に刃は考える。蓮は考える。
結衣はおそらく、刃と蓮のチーム……いや、第37部隊をこれ以上この件に関わらせたくないと考えているのだろう。話を照合してみてやっと自分自身がまったくもってこの件に関してなにもしらない……知らなすぎるということを確認し、【レイヴン】と仮面の男の間になにかあると考え、危険だと判断したのだろう。そんな結衣の考えがわからないほど、刃たちは、結衣と短い付き合いではない。
仮面の男はなぜ見逃したのか、その意味はなんだったのか。標的を連れ去った理由はなんだったのか。自分たちはこれからいったいなにをすればいいのか。この話をしっていてなお、自分たちは今までどおりの生活をおくるのか、否か。
謎ばかりがのこっていて、とても納得のいくような説明は結衣ですらもしらなかった。ならばきっとこれは、【レイヴン】の上層部と・・・そして、仮面の男しかしらない、なにかがあるのではないかと。それを知って、どうするのかと、考える。
【アビリティ】に成り下がり、【レイヴン】の駒となり、新城結衣という年下の女につき従うときめた以上、刃の選択はただひとつだった。
絶対に曲げない信念。絶対に屈することのない信念。相手がいかに強かろうが関係ない、いかに自分らしくあるか、いかに自分の背中が頼もしいのか、ちっぽけながらも、蓮に誇れるような姿で有り続けようと誓ったその時から、刃の思いは固まっていて、そして、よくわからないなにかを隠し、よわいものには情報を与えず危険な思いをさせる【レイヴン】の考え方が憎たらしい。仮面の男の謎の行動の意味もわからず、あの男に負けた自分の弱さが恨めしい。これからその男がなにをしようとしているのか、その一端をつかんだようでつかめずじまい、空振りで終わってしまったことが悔しい。そして、仮面の男の言葉の意味もわからないまま、尻尾を巻いて逃げるのだけは、絶対にしたくない。兄として、男として……刃は、負けを認めたくない。
「結衣さん……私に……私たちに、仮面の男の捜査の許可をおねがいします」
蓮が、そう口にする。
結衣は何も言わない。一度蓮のことをゆっくりと見据えて、次に刃のことをみる。お前はどうなのかと、お前はどうするのかと。お前の考えは、蓮と通じているのかと。蓮に誇れる兄貴なのかと、そう問いかけているような気がした。
だから刃ははっきりと言う。自分の中にある信念、覚悟を瞳に宿し……右目のカラーコンタクトをはずす。
それは、赤い、紅い瞳。左目と全く異なる色をした、刃の【力】の象徴。【アビリティ】である証……そして、蓮からもらった、もっとも大切な目。
四年前に使い物にならなくなった目と引き換えに、すべてを背負う覚悟を、今まで生きた世界を捨てる覚悟をしたあの日、蓮から受け継がれたその目と……そして、目とともにかわした約束こそ、絶対に忘れてはならない、心に宿る正義。
その言葉を刃は一度たりとも忘れない。蓮に約束した自身の言葉もわすれてはいない。だから、【力】を封じて戦ってきた。だが———蓮が、もう一度やつと戦うことを求めるのならば、蓮を守るために、【力】を使い———そして
「仮面の男と【レイヴン】が隠してる秘密……暴いてやろうじゃねえか」
負けを認めたくない惨めな男は、強がるように、ニヤリと口を歪ませて笑い……結衣も、同じように、口を歪ませて、笑った。