複雑・ファジー小説

Re: レイヴン【二話・仮面の表】※執筆開始 ( No.29 )
日時: 2015/01/30 02:45
名前: Ⅷ ◆WlOcYALNMA (ID: kniACxiR)

2、仮面の表






まずはなんにしても情報が不足している。

刃たちが仮面の男のことを探ることを決めてから一週間とたつが、それらしい情報は当然のように、刃たちのような下っ端構成員には流れてこず、肝心な結衣のほうも、上層部から仮面の男についてなかなかうまく聞き出せずにいるらしく、さっそく手詰まりのような状況となっていた。

刃は、仮面の男に負わされた傷は、【アビリティ】となったさいについでのようにもたらされた恩恵、運動能力向上、身体能力向上のおかげか、普通に動ける分には回復しきっていた。

デスクにむかい、情報収集するのも一苦労。情報に制限がかかりまくっているせいで閲覧することはできずに、さまざまな方法を試みているがうまくいかず、気分転換にと刃は、東京エリアの【レイヴン】基地……海上都市計画を中断し、のこった人工の巨大な浮島に作られたこの堅苦しい施設から外にでて、【レイヴン】の【アビリティ】に与えられている、寮の自室へと足を運んでいた。

「ねむいな……くそっ」

若干ふらふらする足を運びながら、徹夜で作業している目には強すぎる日差しを恨みながら、ポケットに潜ませていたタバコをとりだし、火をつける。
気分転換というのはただの口実で、実際はただ寝るために外にでてきたため、蓮は当然おらず、いまもきっと37部隊の連中と仮面の男に関する情報を探っているはずで、いまは完全に刃一人であった。

刃は、あまりコンピューターなどが得意なほうではない。そのために、情報の整理や書類を書く事など、一般的な知識はあるが、高度な技術は持ち得ていない。そのために、ハッキングなどといったことは正直なにをしているのかもわからないし、そばにいてなかなか終わらない作業を一緒に見続けるよりも、体力を回復するのに専念したほうがいいかなという勝手な判断を下したのである。

一週間前に、刃たちは【レイヴン】が隠している情報……仮面の男のことについて探ることをきめた。それは、結衣にとっては立場が危ういどころの問題ではなく、上層部の意に背くことである。もしバレた場合結衣にくだされるのは【レイヴン】からの追放ということもありえるかもしれない。そうなってしまった場合、刃たちは結衣にかおむけすることはできないだろう。

だが、それを承知で結衣はこの件を引き受けたんだと刃は思っている。それに、37部隊は変人の、それもどうしようもないようなやつらばかりが集まる部隊であるが……それ以上に、優れた才能を持つがゆえに手放せない人材が揃う、技術や知識にかんしては事欠かない部隊だ。そんな心配は無用といってもいいのかもしれない。
37部隊は刃と蓮、そのほかにもう一組みの【アビリティ】のペアがいる。【アビリティ】の構成はこの二組だけの少数で、さらに、37部隊に所属している人間は、8人しかいない。

そのどれもが【レイヴン】東京エリアきっての変人とうたわれる人間ばかりであり、刃と蓮が信頼をおいている人々だった。

刃たちが仮面の男の正体をつかむために【レイヴン】が隠していることを暴こうと協力を仰いだわけでもないのだが、彼らは進んで協力すると言い、今もなお結衣を筆頭に情報を洗いざらい調べているところではあり、そのことにとても感謝してはいるが、刃はやはりそういった作業には向いていないので、一人外でたばこをふかす。

夏真っ盛りだが、ここは周りが海に囲まれているためにどこか涼しい。潮風のせいで若干たばこがまずく感じるなとか思いながら、刃は帰路を歩く。
【アビリティ】を飼いならし、【アビリティ】に対抗する兵器として収容し、そして【力】の制御方法を叩き込まれ、そして力の秀でたものは戦闘技術まで叩き込まれる。そのために、【レイヴン】の【アビリティ】は、通常の野良【アビリティ】よりも【力】の面では優れているといえよう。だからこそ危険・・・といい、完全に檻のなかに捉え必要な時にのみ外にだすべきなのではないのか、と訴えるものはいる。当然、東京エリアではないべつのエリアでは、そういった境遇を敷いている【レイヴン】の施設もあると聞くし、そちらのほうが圧倒的にコストがかからなくてすむ。だが、【レイヴン】の【アビリティ】となった以上、裏切らなければ人間の最低水準以上の生活を保証する、というのが、この日本でのシステムだった。

それをかならずしも守っているかは別としても、この東京エリアでは、ただでさえ、ギガフロート計画を中止してあまりに余ってしまった土地を有効活用するかのごとく、【アビリティ】にも人並みの生活がおくれる程度の家があてがわれている。

人からみれば、なぜ【アビリティ】をそんな呑気にほっとくのか、とか、自室にこもって反逆の機会をうかがっていたらどうするんだとか、いろいろいうものもいるが、【レイヴン】の【アビリティ】は基本的に【アビリティ】となり、行き場を失ったが、それでも世界につながりを持っておきたいという者と、単純に自分の【力】を世のために使いたいという者などがいて、そういった心配はほぼ無縁といえる。

だがたしかに、【レイヴン】の【アビリティ】となることを拒む【アビリティ】は多い。それは、同じ境遇に陥ったものを殺す覚悟がないもの、それを裏切りととるもの、手に入れた【力】で押さえ込んでいた衝動を晴らすもの、自身の【力】に拒絶を示すものとその理由はさまざまとあるし、それでも死にたくない、殺されたくないと考える【アビリティ】は、どのエリアにも存在している【アビリティ】収容施設へと送られる。

その収容施設にはいった【アビリティ】はまず【レイヴン】の【アビリティ】と同じく首輪をつけられる。首輪をつけられたあと、収容施設へとおくられ、それなりに充実した生活を約束されているといわれている。

大抵の【アビリティ】は、自身が【アビリティ】となってしまったことに混乱し、絶望し、そして【レイヴン】の【アビリティ】をみた瞬間に狂い、【力】を行使して逃げ出す。刃たちが戦った炎を使う【アビリティ】もそういったタイプで、もっとも多い野良【アビリティ】だ。

【レイヴン】の【アビリティ】のシステムをすこし思い返しながら、刃は、東京エリアの【レイヴン】基地からそれなりに距離のある寮へと歩みを続ける。