複雑・ファジー小説

Re: レイヴン【参照500突破・ありがとうございます】 ( No.31 )
日時: 2015/02/02 00:29
名前: Ⅷ ◆WlOcYALNMA (ID: kniACxiR)

「お前ら帰ってたのか」

男のほう……高坂勇気は、駆け足で刃へと近づいてきて、馴れ馴れしく刃の方へと手を回してくる。それに舌打ちしそうになるのをこらえつつ、そういう。

「たったいま帰ってきたとこよ!!どうよ、例のアレ」

例のアレ、というのは、仮面の男に関する情報収集のことを指している。一応周りに誰もいないが、念のため、そういった言い回しをするようにしていて、勇気のほうも、バカっぽい面をしているが一応そのへんをわきまえているのか、ちゃんと結衣が決めた仮面の男の話をするさいの決まりごとを守る。だが、この勇気は、刃のほうが2歳年上であるはずなのだが、そういった礼節をわきまえられない人間なのか、それともただたんに馴れ馴れしいだけなのか、敬語というものを、刃はおろかほかの人に対しても使わない。そういうところが愛着をもてるのだろうが、あってそうそう肩に腕をまわしてくる馴れ馴れしさは若干刃にとっては苦手な部類だった。

「なんですぐこっちに顔ださねえんだよ」

刃はまず答えることよりも、なぜこいつらが寮のある方向から歩いてきたのか質問する。だいたい理由はわかっているが、ここはとっとと話をはぐらかせて、自室に戻って寝たいところだった。

「そんなの決まってるっしょ。基地にはいったら報告だのなんだので面倒な時間とらされんだから、その前にちょっと部屋で仮眠とらせてもらってたんだわ」

「たったいま帰ってきたとこってのはうそかよ」

「うっ」

勇気は、刃の指摘に顔をしかめながら腕をどかす。捜査終了報告は【レイヴン】での義務のはずなのだが、それよりもさきに自身の欲望をみたしてしまう勇気は、そこから察するに、37部隊におしつけられる変わり者だということがわかる。これが一度だけならばとくに問題はないのだが、毎回のように同じようなことを繰り返しているため、【レイヴン】も煙たがっていることは間違いないだろう。

「ま、べつにいいけどよ……とっとと報告してこい」

「おう、そうさせてもらうわ!!」

刃が報告を促すと、あっさりと勇気は、自分の質問のことも忘れて基地へと向かおうとする。刃も、簡単にあしらえたことに満足して歩きだそうとするが、ふと、前をみると、その勇気の相棒、霜月美波が、いつのまにか目の前までせまってきていたのか、申し訳なさそうな顔で刃のことを見上げていることに、いま気がついた。

刃は総じて、この二人が苦手である。

片方は、自分の欲望に忠実な馴れ馴れしい馬鹿。こっちのほうは単純であるがために、軽くあしらえるから楽だが、刃にとって、この美波という少女は、その勇気よりも苦手だった。

なにか言いたげに刃のことを一点にみつめる。刃も、また舌打ちしそうになりながらもそれを必死でこらえて

「なんだよ」

と、いつものように、傍から見たらかなり態度の悪い聞き方をする。
その言葉に再び美波は申し訳なさそうな顔になり、うつむく。だがやはりなにかいいたいのか、ちらちらと刃のことを見続ける。

刃も、自分の口調はどうしようもないにしても、この真面目すぎて、とても勇気の相棒とは思えないぐらいに気弱な美波にたいして申し訳ない気持ちがいっぱいになってしまい、髪をかく。

美波は、どうしようもなく真面目な【アビリティ】だ。勇気が対照的な馬鹿で単純なやつだが、この美波という少女は、気が弱く、そして、真面目で、バカ正直に言葉の意味をとらえてしまうくせがある。そして気が弱く、押しに弱い。なんでもかんでもかかえこんでしまう根暗なタイプで、刃はそういったところがとても苦手だった。