複雑・ファジー小説

Re: レイヴン【参照500突破・ありがとうございます】 ( No.32 )
日時: 2015/02/03 09:05
名前: Ⅷ ◆WlOcYALNMA (ID: n./ST4vL)

おそらく、捜査が終了した時、ちゃんと報告の義務を守ろうとしたが、勇気の押しに負けてさきに寮に戻って休んでしまったことを申し訳なく思っているのだろう。そんなのいつものことなのでぜんぜん気にしていないのだが、美波はそのことが気が気でないのか、謝ろうとしているのか、いつもこうやって面と向かってなにか言いたげにしては俯いて延々と時間を潰すことになる。

それが、この少女が37部隊にいる理由だった。

命令に忠実なことはいい。【レイヴン】が望む【アビリティ】の形であるはずなのだが、その性格からか、ほかの【アビリティ】を殺すこともできないし、戦闘中も、その実力に見合った力を発揮することができずに相方を危険に晒してしまい、またそのことでもうしわけなくなり、抱え込んでしまう。普通であったら。戦闘時に役に立たない【アビリティ】は即刻切り捨てるはずなのだが、【レイヴン】も、美波の【力】は相当なものだと認識していて、そして、戦闘支援もできる【力】をもっていることを知っているので、手放すことができずに、同じくいろいろと問題が多いい勇気とペアを組ませて、37部隊に面倒を押し付けて、今現在に至るのである。それがだいたい2年ぐらい前の出来事で、その時から刃はこの少女のことが苦手である。が、どこかほうっておけなかった。

刃は、蓮と同い年のその少女の頭に手を伸ばし、優しく撫でてやる。いつものように。美波は、言葉だけで説明をも組めるよりも、ちゃんと安心させてから言葉を紡がせる必要があることはこれまでの経験上わかっている。だから、いつものように刃はめんどくさいながらも、真摯に向き合うことにする。

「刃さん……」

美波も、刃の不器用ながらも自分を安心させるためにやっているその行為を素直に受け止め、上目遣いで刃のことをみつめる。

「別に俺は気にしてないからよ、結衣さんに今回のこと、ちゃんと報告するんだぞ」

刃は、似合わないと思いながらも、極めて優しくそういってやる。そういうと美波は安心したような笑顔をむける。

「でもちゃんと謝らないと……」

それでも煮え切らないのか、また顔をふせる。刃はかがんで、美波に視線を合わせる。そして、美波以外の、刃を知っている人間がみたらかなり歪な笑顔を浮かべて

「気にすんなって。ほら、あいつ行っちまうぞ」

うしろに指をむけてそういってやり、そのまま刃は立ち上がり、軽く頭を叩いてやり、追いかけることを促す。勇気はもう結構な距離をひとりで歩いて行ってしまっていて、美波をそれをみてあわてて、追いかけ始める。追いかけ始めたと思ったとたん振り返り

「じ、刃さん!」

と、弱々しいながらも声をだして

「ありがとうございます!」

頭を深々と下げて、駆け足で勇気のことをおいかけていった。

やっと嵐が過ぎ去ったといわんばかりに刃は髪をかき、二回もこらえた舌打ちを、美波が勇気に追いつくことをかくにんし終えてからする。どちらも刃にとっては苦手であるが、それ以前に仲間であり、どちらも危なっかしいところがあるからほうっておけない自分の甘さに苛立ちながらも、どこか悪い感じはしないのが片桐刃という【アビリティ】だ。

「めんどくさい二人組だな……」

そういいながら刃は寮があるほうへと振り返り、再び歩き出す。これで、仮面の男を調べあげるときめてから一週間、ようやく37部隊の全員が揃ったな、と頭のなかで思い、なにか進展があることをねがって、帰路に戻った。