複雑・ファジー小説

Re: レイヴン【参照500突破・ありがとうございます】 ( No.35 )
日時: 2015/02/12 12:17
名前: Ⅷ ◆WlOcYALNMA (ID: zsSJTM.k)




——————約11時間前


刃たちがむかった先とは別の捜査により、東京エリアから1時間程度電車を乗り継いだところにあるそのショッピングモールの中は、静寂に包まれていた。

昼の喧騒はなりを潜め、各ショップの店員たちも仕事をあがり、警備員も念の為にここ一週間は、深夜の巡回をしないようにと結衣が連絡してくれたらしく、ここ一週間、勇気たちは、警備員のすがたさえもみていなかった。
勇気は、正直にいうと、この一週間、近くのホテルをかり、昼は仮眠、夜は、【アビリティ】が潜んでいるであろうトイレの近くの店の影にかくれてはりこみをするという捜査に、そろそろ我慢ができなくなっていた。
だが、めずらしく自分がいったことと、美波が提案した内容が同じだったために、どうしても自分からことをうごかそうとは思えずに、ただただ無言で過ごす時間をひたすらに我慢していた。

「……これで仮面の男ってやつが現れなかったら恨んでやるからな結衣っち」

仮面の男がどんなやつなのかを聞かされたときは驚いたというよりもさきに興味がわいた。そして、【力】を使っていないとはいえ、刃と、勇気たちがしっているなかでもっとも莫大な【力】を秘めている蓮を相手に、刃を退け、いとも簡単に標的をつれさってしまったことに感嘆していた。単純に興味があったからこそ、ここまで捜査を引き伸ばしてまで、仮面の男が現れるそのときをまっていた。

仮面の男が現れたらどうこうしようとするつもりはないが、もしも仮面の男が標的の【アビリティ】を連れ去るというのなら全力をもって阻止し、【アビリティ】を【レイヴン】に連行する。それが、美波と勇気が仮面の男が現れたときに行うと決めたことだった。

殺してしまえば早い、というものはたくさんいる。だが、勇気も、美波に属されたのか、殺す、という行為自体賛成できなくなっていた。だからこそ、連れ帰らなければならない。自分の考え方を曲げないために。

男の行動パターンはもうすでにだいたい把握していた。モール内から人気が消えたとみるや、トイレから顔をだし、食品売り場へとむかう。そこで、菓子やパンなどをとり、そして再びトイレへとこもる。跡がのこすようなことをやっていれば、普通簡単にバレ、【レイヴン】が動くと知ってはいるが、まるでなにかを待ちわびているかのようなその動きに、勇気たちは確信をもっていた。

なにかを待っている。それが仮面の男なのかはなんなのかわからなかったが、ここで張り込んでいれば、いずれなにかが動きがあるはず、と。

男がこもり始めたのは約二週間ぐらい前だったらしい、そのときの監視カメラの映像をたしかにみせてもらったし、それは間違いなかった。

やがて、男がトイレから顔をだす。ひと気がなくなり、静まり返ったモールないに、男の息遣いと、足音が聞こえてくる。勇気たちは一層息をひそめて、男の様子をうかがいつつ、店のなかを移動し始める。

男はまっすぐに、トイレがある、普段からあまり人気がないエリアから離れたところにある食品売り場へ足をむける。

勇気と美波は、足音を殺して、なるべく男の歩く音をたよりに歩調をあわせ、自分たちが発する僅かな音を、男の無遠慮な足音に重ねるかのようにしてかき消しながら、店と店の合間を縫いつつ追いかける。

そして、男が食品売り場へと到達その寸前に、ことは動いた。

まるで、男がそこにくるのがわかっていたかのように、男の眼前に、長身の男が現れる。なんの予兆もなし、突然、どこからともなくあらわれる。
夜の闇に溶け込もむような長いマントで身体を纏、白い無表情のマスクだけが、不気味にその男の存在を示していた。

仮面の男……危険度SSSの化物。

勇気たちは、仮面の男がいつかあらわれるということをこの一週間想定して動いていたために、なんとか食品売り場近くにある子供用品店のレジの裏へとしゃがみこみかくれる。普段ならここからだと話し声は聞こえてこないはずだが、静寂に包まれたこのモールのなかなら、もう少し距離をとったとしても充分聞こえる距離だった。

まさか、こんなに突然現れるとおもわなかったことから、勇気は美波と顔を合わせると、互いに緊張していることが伝わってきた。やっとことが動いて帰れるなという安心感と、もしかしたら、あの怪しすぎる男と戦わなければいけないという緊張が交差してぶつかりあうも、唯希はなんとかして、その男たちの言葉を一言一句聞き逃さないようにする。

最初に口を開いたのは、やはりというか、必然というか、仮面の男ではなく、標的の【アビリティ】のほうだった。

「あなたは……仮面様、ですか?」

まるで、仮面の男の存在を最初から知っていたような口ぶりに勇気は疑問を抱く。だが、仮面の男の出現を待っていたのならば、当然存在をしっていたとしてもおかしくはないと判断する。

だが仮面の男はなにも答えなかった。ただただ不気味な、無表情の仮面はなにを想うのか、言葉を発さない。

その間にも、【アビリティ】の男は口をひらき続ける。

「ああ、間違いない、仮面様!!あなたをまっていました!!あの憎たらしい、同族殺しの【レイヴン】に一泡吹かせるためにつよい【力】をもつ【アビリティ】をあつめていらっしゃるんですよね!!」

【アビリティ】をあつめている。それは、結衣たちが考えた結果一番もっともらしい答えで、もっとも危険なことだったが、どうやら、野良【アビリティ】の間では、そのことが噂になっているらしい。

「【レイヴン】に狙われた同族を助け、そして同族を傷つけた【レイヴン】に報いるために組織を作っていらっしゃるんですよね!!是非、この俺の【力】も役立ててください!!」

いうやいなや、男が右腕の服の袖を肘あたりまでまくり、その部位を晒す。その部位は、手の甲から肘までにかけて、表面が凍りつき、透明に輝く氷が男の腕と同化していた。その部位と左手を天井へとむけて、自らの【力】の強さを誇示するかのように、両手のひらから氷を生み出し、天井へとのばす。天井へとたっした氷は、まるて天井を覆わんばかりに広がっていき、勇気たちがいる子供用品売り場のすぐそこの天井までせまったところで停止する。

勇気は、さすがは危険度Aと判定されるだけはある【力】だなと思う。あれだけの距離を凍らせることができる【力】をもっているのならば、まちがいなく人体を凍らせることもできるであろう。そんなやつと戦いになって、生きて連れ帰ることができるのかと言われると、若干の不安があるが、それでも美波との二人ならばのりきれないことはないと勇気は思う。

だが、【力】をみせたところでどうするのだろうか、【力】を示すことによって、仮面の男に気に入られるのが目的なのだろうか、それはわからないがと、勇気はいつでもうごけるように腰をもちあげ、すぐにでも飛び出せるような体制になり、美波もそれにつられるかのように腰をもちあげる。

「どうですか!!この【力】を【レイヴン】を!!同族殺しの愚かな【アビリティ】を殺すために役立てて———」

「キミは愚かだね」