複雑・ファジー小説
- Re: レイヴン【キャラクターイラスト新規】 ( No.37 )
- 日時: 2015/02/12 23:08
- 名前: Ⅷ ◆WlOcYALNMA (ID: zsSJTM.k)
「……は?」
仮面の男が、男の叫びにも似たその声に割って入るかのように言葉を発する。ただ一言、そうつぶやいただけで、この場全体が、【アビリティ】の男がつかった氷の【力】よりも強烈に、この場を凍りつかせた。
【アビリティ】の男も、仮面の男がなにをいっているのかわからなかったのか、素っ頓狂な声をあげる。だが聞き間違いだったと思ったのか、かまわず男は叫び続ける。
「同族をあつめ、【レイヴン】に粛清するためにどうかこの【力】を役立ててみてはどうですか!!」
言い終えたところで男が笑う。世界に、社会に、友に、家族に見捨てられたその男は、怒りの対象を【レイヴン】へとぶつけるかのごとく、その言葉を発して笑う。なんどもなんども、モール内に響き渡るほどの声で笑い続ける。
【アビリティ】となり、狂ってしまった奴の末路がこれだった。あまりのストレスに気が狂い、あまりの絶望になにかにそれをぶつけなければ気が済まなくなってしまったものの末路。ああなってしまった場合……連れ帰るのは、とても困難だと思えた。
ここまできて、勇気は【アビリティ】の男をつれかえる算段をしていた……そして、次の瞬間、勇気の思いを踏みにじるように、美波の思いを踏みにじるかのように、【アビリティ】の男の絶望を踏みにじるかのように……仮面の男が、動く。
人間離れした加速。目に見えないほどの一突き。なんの前触れもなく男は、刃と同じか、それ以上の速度で【アビリティ】の男に接近し、槍でなにかを貫くがごとく、加速の力と腕の力だけで、男の腹に穴をあけた。
「なっ———」
突然のことに、【アビリティ】の男と、勇気の声が重なる。美波も目を見開き、しだいに瞳に涙がうかびあがる。
あまりの突然のことに勇気は震えが止まらなかった。それは【アビリティ】の男も同じなのか、ただただ身体を震わせ、なにがおこったのかわからないといったふうに仮面の男をみつめる。
仮面の男はどこ吹く風のように、男を軽々と、貫いた腕でそのままもちあげ、白い仮面の双眸の空洞から覗く金色の、獰猛な瞳を何が楽しいのか細めて、そのまま笑う。
「キミは実に愚かだね。脆弱な【アビリティ】」
笑いながら発せられる言葉は、この場すべてをさらに凍りつかせる。あまりに狂気じみた笑いに、勇気たちはすでに、仮面の男と戦うなんて考えはなくなってしまっていた。あの男は危険すぎると……この何年間で培ってきた経験がそう警鐘をならしていた。
刃とは違い、戦いにおいて感情的にならないことが、唯一結衣に褒められる長所だったがために、なんとか自分の思いを踏みにじられた時にも飛び出さずに済んだ……もしも飛び出していたのならば、まちがいなく、自分もああなっていただろうと、勇気は震え上がる。いくら自身の【力】があったとしても……かなわない。
それでも、【アビリティ】の男はまだ意識があるのか、それとも、突然のことすぎて頭がこんがらがり、思考をやめることができなくなったのか、身体を震え上がらせながらも、仮面の男に喋りかけ続ける。
「な……ぜですか……仮面さまっ。俺は、あなたの力になろうと———」
そこまでいったところで、仮面の男は腕を引き抜き、男は床に叩きつけられる。
痛みにうめきながらもなお、悲痛なまでに男は言葉をはっする。
「あなたは……【アビリティ】を集めて……【レイヴン】に同族殺しの罪を償わせるのではないのですかっ」
貫かれた腹から大量の血が流れ始める。その凄惨な光景をみながらも、うごけない自分にどうしようもなく腹がたちつつも、うしろで震える美波が居る状況では……なにもできなかった。
「【レイヴン】は!!ガハッ……世界はっ!俺たちを見捨てたんだ……だから……この【力】で裁きを———」
「たしかに私も、この世界は実に狂っていると思うね」
仮面の男は【アビリティ】の男の顔を踏みつけるように足をおろし、そして、見下ろしながら
「世界は実に、キミたちのような【アビリティ】をないがしろにし、そして【レイヴン】は、【アビリティ】を管理しようとする。実に、実に狂った世界だとおもうね」
「だから私の【力】を!!」
「けどねぇ……【アビリティ】になって、【力】を得て、世界に見放されて、たまたまその【力】が強いと自惚れて、悲劇の主人公を気取るのも勝手にしてほしいよね?」
「なっ……!!」
「いいかい?キミは脆弱なただの【アビリティ】だ。どこにでもいるような、それこそ、このモールに買い物にくる人間なんかとなんにもかわらない。弱く、愚かな生き物だ。それがなにを自惚れて、【レイヴン】と戦おうとなんて思ったのかなぁ?」
そこで仮面の男は、腕を伸ばし、【アビリティ】の男を再び持ち上げる。そしてそのまま、首元へと手を伸ばし———
「や……やめ」
握りつぶした。
完全に死んだのをかくにんするまでもなく、仮面の男は、【アビリティ】の男を食品売り場へとなげすて、歩き始める。そして、まるで勇気たちの存在に気が付いていると言わんばかりに、言葉を残していく———
「私はいわば……システムを破壊する者———世界を、滅ぼす者だよ。覚えておきたまえ。」
そして仮面の男…世界を滅ぼす者は、闇に紛れるように、姿を消した。