複雑・ファジー小説

Re: レイヴン【キャラクターイラスト新規】 ( No.38 )
日時: 2015/02/14 03:39
名前: Ⅷ ◆WlOcYALNMA (ID: zsSJTM.k)



「そんなことがあったのか……」

結衣は、勇気からことの一端を聞き、美波を優しく抱きしめる。目の前で【アビリティ】が、人が殺される瞬間をみてしまったのだ。いまでこそ普段どおりにしているが、優しい美波は、いまでもそのことを気に病んでいるのだろうと、やさしく抱きしめ、そして頭をなでる。

美波はそのことを思い出してか涙を流す。その姿にたまらなく心が締め付けられ、結衣は顔をあげる。

「勇気……君たち二人が、刃の馬鹿みたいに感情任せに動かなくてよかった」

「前までのおれだったらかえってこれなかったかも」

「そうだな……美波ちゃん。キミは本当に、勇気のいいパートナーだね」

「わ、わたし……それでも、あし、ひっぱってばかりで……」

泣きながらそう答える美波。けれども、勇気はそんなことを一切きにしていないし、実際に美波が足をひっぱっていないことは、二人の功績からも明らかだった。

だから、結衣は慰めよりも褒める。美波に必要なのは慰めではなく、褒めて、その美波の優しい心を殺さないように、そして、それを伸ばすようにしてやるのが、上司としての努めであった。

「キミが優しくて、人を思いやれるからこそ、勇気はそれに答えられるんだ。君がいなければ、勇気はとっくの昔に死に腐っている。もっと自分を誇ってもいいんだよ」

結衣の辛辣な言葉に勇気はため息をつくが結衣はそれを無視する。

「それでも……今回のことも、あの人のこと、助けてあげられたんじゃないかって」

「たしかに、これはよくわからないことになってきたな」

結衣は、改めて事の一端を思い出す。刃たちが仮面の男と出会ったときは、まちがいなく、【アビリティ】を連れ去っていった。そのことは、蓮が【力】を使った際に開かれていたカメラの映像をモニターしていたからわかる。だがしかし、今回のことは、どうにも腑に落ちない。

「どうして仮面の男は、標的を殺したんだ?」

【アビリティ】の組織化……その答えが、その出来事ひとつで霞んでいくような気がした。

そして仮面の男はこういったという。システムを破壊する者と。最初に刃と対峙した時には発しなかった、もうひとつの名前。それは一体何を意味しているのか……システムとは、一体何なのか。

そこまで考えたところで、結衣は、とりあえず二人にゆっくりと休息をとるようにと促す。

「とりあえず、後のことはこっちでやっておく。上への報告も君たちがちゃんと始末をつけたって適当に言っておくから、今日はゆっくり休んでくれ」

「結衣っち……」

それでも、勇気がなにか言いたげにうつむく。結衣は、普段から休みがとれるとわかった時点で喜々として寮にもどっていく勇気が今回ばかりはそうでなかったことが不思議で聞き返す。

「どうした?勇気」

ただただ俯き、結衣の質問に答えるまでもなく、勇気は結衣に背を向ける。美波もそんな勇気を不思議に思ったのか、泣き止まない顔をあげて、勇気の背をみつめる。

そして、ただ一言、勇気はつぶやいた。それは、第37部隊の誰もが思っていることで……組織に所属している以上、当然、持つことが当然とされる考えだった。

「仮面の男……あいつはやばい。おれ馬鹿だからよくわかんないけど、これだけはいえる。これ以上は正直、関わらないほうがいい」

「……」

勇気はそのままなにも言わずに部署をあとにし……その勇気の言葉に、結衣はなにもいえなかった。