複雑・ファジー小説

Re: レイヴン ( No.4 )
日時: 2014/12/18 13:51
名前: Ⅷ ◆WlOcYALNMA (ID: f4MEHqWX)

第一話
正義とは




人は、【アビリティ】という存在を、例外なく忌み嫌う。

それがたとえ自分たちを守ってくれる存在であったとしても、たとえそれが、古い親友であったとしても、恋人であったとしても、自らの子供であったとしても、親であったとしても……【アビリティ】という存在になった瞬間から、その人の世界は、簡単に崩れ去る。

【アビリティ】となり、忌み嫌われ、信じていた人に裏切られ、世界に拒絶され、どうしてその【アビリティ】となった人が、理性を保っていられるだろうか、どうして精神に異常を来さないと思うだろうか。

【力】を持ってしまったものは、自信を否定した者を憎む。自信を拒絶した社会を憎む。なにもかもを手に入れてしまった【力】で、秩序を簡単に崩壊させる。

誰だって、自分は【アビリティ】にはなりたくないだろうと思うだろう。【アビリティ】になった瞬間に、周囲の人間。家族、友達、恋人。なにもかもに忌み嫌われ、恐怖を覚えられてしまうのだから。

だから人は、【アビリティ】となった人間をみて、自分は絶対にこうならない。自分は【アビリティ】となってしまった人間と関わりなど一切なかったことにしようと、拒絶してしまうのだ。それが、【アビリティ】となった人間を苦しめ、犯罪に走らせてしまう原因だとわかっていながらも、それを繰り返してしまうのだ。

犯罪に走った【アビリティ】を止めることは、警察にも、軍隊でも、止めることはできない。【アビリティ】の【力】が強ければ強いほどなすすべはなくなり、ただただ破壊を待つだけとなってしまう。

そこで、人々は、【アビリティ】を自らで生み出し、自らの手で管理することを計画する。

レイヴンプロジェクト、と言われ。【アビリティ】になった人間に必ず現れる、変化した身体のどこかの皮膚、筋肉、骨、その変化したもの自体を移植することによって、人工てきに【アビリティ】を作る計画だった。

その計画は、成功に終わった。たった5%という成功率という名の絶望的な数値を残して。

そして、【アビリティ】の中にも、犯罪に手を染めず、ただひたすらに居場所を求めている【アビリティ】がいることがいることに気がついた人々は、その【アビリティ】を、首輪という装置で拘束し、居場所を与えるというもののかわりに、犯罪を犯し続ける【アビリティ】を殺せという条件を突きつけ……数千の【アビリティ】が、それに賛同し、居場所を獲得した。

それがほんの十年前に完成した『レイヴン』という組織の実態だった。
【レイヴン】は、対【アビリティ】犯罪専門組織として世界に存在を示し、居場所を失っても、人を傷つけることを、犯罪に走ることを嫌った【アビリティ】が集う場所となった。そこには当然……レイヴン計画により作り出された、自ら人々の忌み嫌われる存在となった【アビリティ】も、存在している。

「【アビリティ】という存在は、人々の畏怖の対象となって数十年、今まで散々あばれまわってきた【アビリティ】たちは【レイヴン】の存在でようやく少しずつ落ち着いてきて、我々人類が、安堵の息を付ける日も近くなってきている———」

巨大なショッピングモールの外の中央モニターに映し出された、小太りの福そうな顔をした中年の男が、うれしそうに、そんなことを語っているのを、灰色の髪をした青年がふと見上げる。

東京の【レイヴン】基地の近くにある、大きなそのショッピングモールは、各地から人が集まるほどにものが充実していて、その隣には遊園地があり、人工の池があり、夜景も綺麗だとかいった、とんでもないデートスポットの昼を過ぎたこの時間帯、人々が行き交う野外の通路の中心で、青年は一人でだるそうに口に銜えたタバコを、周りの迷惑をまったく気にすることなくふかしながら歩いていた。

身長は175センチほどで、中肉中背といった印象をうける身体つきと、若干歳より若く見える顔立ちと、それに似合わない鋭い目つきが特徴で、夏まっさかりだというのに、その青年は黒いスーツを身にまとい、やはり暑いのかシャツのボタンは第二ボタンまで外されている。

その青年の周りには人がいなかった。違う。人が、意図的にその少年をひと目みて、避けているのだ。それは、タバコを道のど真ん中でふかしていることもあるだろうが、中には恐怖を感じているもの、中には怒りを覚えているものもいた。

青年の首には、【レイヴン】に所属している【アビリティ】である証明・・・黒い、生地の薄い首輪が付けられていた。

青年はまるでそんな人々の目になれているかのように髪をごりごりとかき、一度舌打ちだけすると、キョロキョロと周囲を見回す。

「ったく、どこにいきやがった」

乱暴な口調でそうつぶやくが、その口調にはどこか優しげな雰囲気が宿っていることは、近しい者でしかしらない事実だが、青年は極めて不機嫌そうな顔をしていた。

単純に、はぐれたのだ。こんな人のおおい場所で、こんなカップルや家族連ればかりがいるよりにもよってこんな場所で、青年は、自身の仕事のパートナーとはぐれてしまっていた。

周囲を見回すように首を回すと、青年の首元に気が付いた人たちが皆顔を背ける。我関せずと言わんばかりに。青年はそれをさもどうでもいいかのように無視しつつ、また、同じく自分と同じように避けて通られている、または集団に囲まれているかのどちらかの状態に陥っているであろうところを探す。すると、それは意外と近い場所で騒ぎになっていることにきがついた。

「チッ」

青年は、モニターのでかい音のせいで気がつかなかったと言わんばかりにモニターの中でしゃべる小太りの中年男を睨みつけると、その騒ぎの場所に走る。

人は自然と青年から距離を取るために邪魔になるものはなく、すぐにその場所にたどり着くと、その場所には、見慣れた仕事のパートナー、兼妹であるその少女が、男たちに囲まれてなにやら因縁をつけられている最中だった。

青年と同じ髪の色をしていて、目元まである前髪と、背中に届くほどの長さがあり、後ろ髪は綺麗に整えられているがところどころ寝癖のような跡が付いているのが残念だといえる。眠たげにしている灰色の瞳はあまり感情を宿しておらず、口元は無表情に引き締められている。身なりは青年と同じようなスーツと黒のタイトスカート、黒いタイツに包まれた足は細く、黒のパンプスは少女の小柄な身体にはあまりにあっていなく、若干不自然な身なりをしていたが、顔立ちが整っているので、愛嬌があるといえばそう見えるだろう。

身長だいたい140程度の小柄の少女は、青年よりも体格のいい男たち数人に囲まれていて、誰も、それをかわいそうだといった目で見ているものは一人もいなかった。そう、人々がその少女に向けている目は

(ざまあみろ)

だろう、と青年は一人で考えながらも、めんどくさいことになったなとまた舌打ちをする。