複雑・ファジー小説
- Re: レイヴン【第二話・仮面の表】 ( No.40 )
- 日時: 2015/02/15 00:50
- 名前: Ⅷ ◆WlOcYALNMA (ID: zsSJTM.k)
「だからといって、疲れてる蓮を外にだすわけにはいかない、か。わかった」
「君ならそういってくれると思っていた。とりあえず簡単に今回の捜査の説明だけさせてもらう」
そういうやいなや、結衣は自分の机の上に置いてあった紙束をとり、今回の捜査の、対象の【アビリティ】の説明をし始める。
「まず最初に、【アビリティ】の特徴は……付近にある水を操る【アビリティ】だ。危険度はCだが、水がおおくある場所にいる場合は一気にAまで危険度があがる厄介なやつだ」
水を操る【アビリティ】は、そのだいたいが弱い。
周辺に水がなければなにもできない非力な【アビリティ】であり、とくに害はない。【アビリティ】に目覚めた瞬間も、あたりに水がなにもなければ、なにも被害を生み出すことなく、そのまま部位を隠して生きていけば、まちがいなく普通の人間としてくらしていけるぐらいには、何の変哲もないものだった。
だがしかし、その【力】との相性、そして、付近に水がおおくあるのなら話は別だった。
この世界には、水道管や、下水道というものが存在している。とくに東京なんかだと、それが地面に張り巡らされているせいで、まちがいなく大量の水がある。そのために、東京で目覚める水の【アビリティ】は少なからず被害を生み出してしまう。そして、次に海や湖、池なんかが近くにあった場合は、さらに危険だ。一定の場所に大量の水があるという状況は極めて危険だ。水をありとあらゆることに変化させてしまうがゆえに、カッターやハサミよりも切れ味を鋭くさせ、人を殺すことだってできる。そしてなによりも———
人体に含まれる水を操ることが出来るほどに、【力】との相性がよい【アビリティ】は危険度S判定以上がでるほどに危険だ。
触れるだけで人体を内側から破壊することもできてしまう。ようは触れられなければいいだけの話だが、人体に害を加えることができてしまうような【力】の持ち主は、自身の血ですらも触媒としてしまう。血にふれただけでその触れた部分が爆発、なんて事例もあったぐらいだ。刃はそのことをおもいだしてゾッとしつつも、今回のはそこまで強力なやつではないはずなので、ひとりでも大丈夫だろうと首をふる。
「まあ、君の身体能力ならまちがいなく突破できる相手だろうが……潜伏している場所がかなり厄介なことに……民営のプールの更衣室だそうだ」
プール、という単語に、刃は舌打ちする。モロに水が多い場所に隠れているということからすると、自身の【力】をだいたい把握しているということになる。そうすると危険度はAクラスとなり、それなりに危険が伴うのは間違いなかった。
だがふと疑問におもう。なぜ、更衣室に隠れているのかと。更衣室にいるのならば簡単に一目についてしまう。そうすれば不信に思った人が【レイヴン】に通報してもおかしくはない。なぜ、そんなわかりやすい場所に潜伏しているのだろうか
「新城。【アビリティ】がそんなわかりやすいとこに潜伏するのはおかしくねぇか?」
結衣も、刃がそういうだろうとわかっていたからか、紙を数枚めくり、ひとつのページをしめす。
「私も最初は気になったんだけど、どうやら今回の【アビリティ】は、経営者を脅して自分を匿うようにしていたらしいの」
「つうことはよ、結構前からその【アビリティ】はそこに潜伏しているってことになんのか」
「そういうことだね。経営者のほうも人質にとられてるみたいでそのプールは現在使用禁止になっているし、人の出入りもまったくないみたい。たぶん、経営者の人もその場所にいるとおもう」
「人質つきか……めんどうなこった」
「経営者の人も【アビリティ】がすこし目を離したときになんとか通報してきたみたいだね」
「けどよ、ひとつの場所に潜伏し続けるのはかなりリスクが伴うんじゃねえか?」
そういうと、結衣はすこし考える素振りをみせる。いうか言うまいか悩んでいるような仕草に疑問を覚えたが、結衣は言うことを選んだらしく、話がきりかわる。
「すこし話が変わるが、ひとつの場所に潜伏し続け、なにかをまっている……という可能性が考えられる」
「なに?」
「今回、勇気たちが捜査していた【アビリティ】も、同じように一週間も同じ場所に潜伏し続けて、ある人物をまっていた」
結衣のその話に、刃はある可能性を考えてさらにゾッとした。
もしも、野良【アビリティ】が……仮面の男の存在を知っていたとして、その仮面の男が、【アビリティ】たちの組織化を企んでいると知っていたとして、その仮面の男の迎えを待っているのだとしたら……と。
だが、結衣はかなり微妙な顔をしていた。もしかしたら、自分の考えている可能性はまったくもって見当違いなのでは、と一瞬思ったが、結衣がだす答えは違った。
「勇気たちが捜査していた【アビリティ】は、仮面の男を待ち続けていたらしい」