複雑・ファジー小説

Re: レイヴン【第二話・仮面の表】 ( No.41 )
日時: 2015/02/16 17:03
名前: Ⅷ ◆WlOcYALNMA (ID: nrbjfzgl)


結衣のその話に、刃はある可能性を考えてさらにゾッとした。

もしも、野良【アビリティ】が……仮面の男の存在を知っていたとして、その仮面の男が、【アビリティ】たちの組織化を企んでいると知っていたとして、その仮面の男の迎えを待っているのだとしたら……と。
だが、結衣はかなり微妙な顔をしていた。もしかしたら、自分の考えている可能性はまったくもって見当違いなのでは、と一瞬思ったが、結衣がだす答えは違った。

「勇気たちが捜査していた【アビリティ】は、仮面の男を待ち続けていたらしい」

「……どういうことだよ」

最悪の可能性があたったことに、刃は一度小さく舌打ちをする。そうなると、勇気たちが捜査していた【アビリティ】は仮面の男に奪われたのだろう。勇気たちが無傷で帰ってきていることからそのことは容易に想像ができた。

だがしかし、再び結衣は微妙な顔をする。そのことが気に食わなかったのか刃は

「なんだよ、言いたいことがあるならはっきり言ってくれよ新城」

「う……ん、そうだな」

結衣はそこでひとつ咳払いをすると、勇気たちが捜査していた【アビリティ】がどうなったのか、仮面の男の目的がまったくわからなくなった、ということを簡潔に刃に伝えることを決めた。

「結果だけ説明する……仮面の男は、勇気たちが追っていた【アビリティ】を殺した」

「……は?」

刃が意味がわからない、といったふうに首をひねる。殺した?誰が?誰を?なぜ?と。

「理由は不明だけど……今回ももし、仮面の男が現れたら……何も言わずに逃げてくれ。目の前で標的が連れ去られようが奪われようが、人質がどうなろうが、君一人ではどうしようもない。逃げてくれ」

「なんだよそれ」

握り詰めた拳が痛いくらいに軋む。殺した?なぜ?なんのために?仮面の男は仮定ではあったが、組織化をたくらんでいる、というのが刃たちがだした答えだった。なのに、それをまるで覆すかのように、勇気たちの標的を殺した。そのときの勇気たちはなにをやっていたというのだろうか。殺さないでつれかえる。それが勇気たちのペアの頼もしいところだったはずだ。なのに、なぜ目の前で殺される瞬間をみていたはずなのに、なにもしなかったのか……なにも、できなかったのか。

なにも考えずに飛び出していたらまちがいなく勇気たちは、刃と同じか、それ以上の悲惨な状況になっていたかもしれない。それだというのに、刃は、なにもせず、傷を追わず、ノコノコと帰ってきて、そして相変わらず馴れ馴れしく話しかけている勇気の顔と、いつものように弱気な顔をする美波の顔をおもいだして、この上なくイライラしていた。

そして結衣だ。なにをいうのか、市民の安全と平穏を守るのが、【レイヴン】という組織の役割だったはずだ。そのためならば、嫌悪する【アビリティ】ですらも飼いならし、害をなす【アビリティ】を排除するために働くのが【レイヴン】のはずだ。なのにこの司令官は、目の前で人質がどうなろうが逃げろと抜かす。そんなこと、刃にはできるはずがなかった。

「いつからそんな腑抜けになりやがったくそ司令官」

だが刃はいつになく冷静だった。

仮面の男と一度戦い敗北しボロボロになってきた姿。それはよほど無様だったのか、いつもは傍若無人のように振舞う結衣が心配し、そして謝罪までするほどだった。その上、情報をいくら集めても全貌が見えてこず、さらには簡単に人を殺してしまうような心まで狂った化物が影に潜んでいるのだ。結衣が弱気になってしまうのもしかたがない。いくら大人びて見える結衣でも、まだ二十歳にもみたない子供なのだ。

勇気が仮面の男をみて、そして人が殺される瞬間をみて、結衣になにを吹き込んだのかはしらないが、そんなことで臆する刃ではなかった。

刃は一度ため息をつくと、結衣の肩に手をおき、憎たらしい笑顔をむける。

「あいつらになにいわれたかしらないが、新城らしくねえよ」

「……らしくない、か」

結衣は、顔をうつむかせ、手にもつ紙をぎっとにぎり、それでも煮え切らないのか、

「それでも、仮面の男は危険だ…その影がなりを潜めている以上、君に無茶をして欲しくない」

「余計なお世話だっつの。あー……なんだ?お前はいつもみたいにお願いじゃなくて命令すりゃいいんだよ」

そこでひとつ呼吸をおき、まっすぐに結衣をみつめ

「人質はなんとしても助けろってな。そんで、【アビリティ】は、仮面の男にどうにかされるまえにそれを阻止しろってよ」