複雑・ファジー小説

Re: レイヴン【第二話・仮面の表】 ( No.42 )
日時: 2015/02/18 11:21
名前: Ⅷ ◆WlOcYALNMA (ID: 3TttADoD)

刃は、できることならば、標的の【アビリティ】を殺したくはない。だが、【レイヴン】に連行することが無理な精神状態に陥ってしまった【アビリティ】は、殺さなかったとしてもロクなことがない。【レイヴン】に連れて変えれば研究の材料とされ、自由はない。そうなってしまった場合は死ぬ以上に苦しむこととなる。自身のおこないを正当化する気はないが、殺してやるほうがかなりましだといえるだろう。だから、刃は【アビリティ】を殺すことにためらいはあるが、迷いはしない。

だが、どんな理由があったにしろ、【アビリティ】……人を殺すことは断じて許されない。ましてや、殺さずつれかえることを誇りにしている勇気と美波の心をへし折るかのように標的を殺した仮面の男が許せなかったのだ。だから、刃は、結衣の弱気な態度も気に入らないし、ましてや見捨てろという判断は、これ以上なく気に入らなかった。

それに、

「仮面の男が絡んでるっつうなら、おれも今度は【力】を使ってやるからよ」

そういって、刃は自分の右目に触れる。

結衣もその言葉で決心したのか顔をあげ、まっすぐに刃をみつめる。結衣の綺麗な瞳にまっすぐみられ若干の気恥ずかしさを覚えながらも、刃は、結衣の言葉をまつ。

だが、結衣は次の瞬間笑っていた。

「……おい」

あまりの突然のことに一瞬言葉を失ったが、なんか絞り出して抗議する。だが結衣はなにがおかしいのか笑い続ける。

「プッ……ハハハ!まさか君に諭されるなんてっ!それに君、ぜんぜんらしくないし!!」

「うるせぇ殺すぞ」

「いやっ、すまんすまん……君があんまりにもおかしくって……プッ……ふふふ」

あまりに笑い続けていることに刃はだんだんと苛立ち初めてついには舌打ちする寸前まできたところで、結衣は笑うのをやめ、一度ため息をつく。

「たしかに……私もらしくなかったな。仮面の男はやばい、関わらないほうがいい……勇気にいわれてからずっと、どうすればいいか考えていたよ」

ため息をついたあと、一度首をふると、もう一度刃のことをまっすぐに見据えて、気丈でいて、まっすぐな、意思の宿った瞳で、口にする。

「一度言ったことを途中で諦めるなんてことは私らしくなかったな。……刃、改めて君に命令する」

「おう」

「……人質は命懸けで助けろ。そして、【アビリティ】は連行、及び処分し、仮面の男があらわれた場合、倒せとは言わない。だが、人質の安全が確立されるそのときまで、足止めせよ」

いつものように、そう命令するその姿をみて、刃は、力強く、ひとつ頷く。

「第37部隊所属【アビリティ】片桐刃。了解した」

そこまできて、刃はいままで結衣の肩に手を置いていたことが気恥ずかしくなりポケットに手を突っ込む。その様子をみながら、結衣はなにかを思い出したように、再び自身の机へとむかい、目的のものをさがす。

「何探してんだよ」

話は終わったと思ったが、まだなにかあるのかと不信に思った刃がそう尋ねる。結衣はそれに答えることなく、ただ黙々となにかを探し、ようやくそれを見つけたのか、刃にそれを投げ渡す。

「あん?」

それは小型の無線機だった。【レイヴン】の全部隊に支給されるものだが、37部隊は、結衣があまりこの存在を好んでいないために、普段から使うことは今までに一度もなかった。