複雑・ファジー小説

Re: レイヴン【第二話・仮面の表】 ( No.43 )
日時: 2015/02/20 02:06
名前: Ⅷ ◆WlOcYALNMA (ID: 3TttADoD)

それは小型の無線機だった。【レイヴン】の全部隊に支給されるものだが、37部隊は、結衣があまりこの存在を好んでいないために、普段から使うことは今までに一度もなかった。

小型の無線機。【アビリティ】の首につけれられる首輪の内部に仕込まれた小型カメラ。【力】を使った際に反応を示し、基地内部にある所属している部隊の部署のオペレーションルームのモニターに映像を映し出し、録画するそのカメラは、あくまで、【力】を使った際にしかその映像を映し出すことができない。【力】を使ったあと五分はひらき続けるが、【力】を使うまでは、まったくもってその状況を理解できずに、いま、どこで、なにをしているのかも、情報として伝わってこず、さらにはオペレーションルームからは一切音声を【アビリティ】に届けることができないのだ。

そのことに懸念を覚えた【レイヴン】の総司令官達は、すべての部隊に無線機をくばり、所属している【アビリティ】の監視を徹底させるためにそれを義務つけた。【アビリティ】はあくまで【レイヴン】に飼われていて、下手なことができないようにと、させないようにと、拘束の意味をもってこれを支給した。

結衣はそれをめんどくさいから、とか、馬鹿げているから、とかいろいろな理由をつけては今日この時まで一度もその無線機をだしたことがなかったが、今取り出した……ということは、おそらく、

「君が前回みたいに衝動に任せて飛び込んでいってしまっては元も子もないからな。あまり心配をかけさせないでほしい」

その言葉をきいて、いかに結衣が、今回の仮面の男の件で、迷いが生まれていたのかを刃は悟る。

普段ならぱ、こんな、拘束力を高めるために作られた道具など、無視してつけないし、これが結衣の判断でなければまちがいなく刃は握りつぶしていただろう。だが刃は素直に頷いて、イヤフォンタイプのそれを耳にさし、マイクをスーツのえりの部分につける。

このタイプは、親機が起動していない場合は通信を取ることは不可能で、【アビリティ】の拘束力を高めるためという意味合いからかはわからないが、【アビリティ】側からは親機の電源を入れることはできない。だが、親機が常に起動している場合はべつで、【アビリティ】側からの通信を常にキャッチすることができる。結衣は、自身の机の上に親機の端末をセットすると、それを起動し、一度刃のことをみる。

刃は意図を察して、一度マイクをたたく。すると親機のほうから微かに音が聞こえてきて、通信ができていると判断できた。

「あと一時間後に外へでれるように準備してきてくれ」

結衣は、親機がちゃんと機能していることを確認すると、刃に自分がもっていた【アビリティ】の資料を刃へと渡す。それを刃は受け取りながら。

「ごめんな、俺たちのわがままにつきあわせちまって」

と一言、結衣へと謝罪の言葉をいれ、そのまま支度をするために、自身の寮へと向かうのだった。