複雑・ファジー小説

Re: レイヴン【第二話終】次回更新第三話 ( No.45 )
日時: 2015/07/01 21:55
名前: Ⅷ ◆S0/yc2bLaI (ID: QrFqqwfB)

3話、因果




「……まじかよ」

目的先である民営のぷーる。その最寄り駅を見たときは愕然としてしまっていた。

なにかの冗談でありたいと信じて外へでてきて、電車を乗り継ぐこと一時間程度。都心とは随分と雰囲気が変わり、高層ビルなどはなく、あっても駅前に五階程度のマンションが立っているぐらいの、いわゆる田舎といわれてもいいレベルの場所だった。

茹だるような暑さでてりつける太陽を憎々しげに思いながら、刃は駅のホームへと降り立っていた。

「なんでよりにもよってここなんだかなあ」

懐かしくもあり、そして、もう二度と戻ってくるはずのなかったその場所は、かつての片桐家があった町だった。

「チッ」

思い出したくもないことを思い出しそうになってしまい、そのことに対して刃は舌打ちする。しかし一方では、この捜査に蓮がいなくてよかったと心のなかで安堵していた。

蓮がいない、ということを思い出した刃は、ポケットに忍ばせていたタバコをとりだし、まだ駅の構内だというのにそんなことお構いなしにたばこに火を点けふかし始める。幸いにも、朝や夜などは人が多くなるだろうが、今は太陽が沈み始め夕方になろうとする時間帯なので、人があまりおらず、刃のその迷惑極まりない行為は誰にもとがめられることはなかった。

一応、【レイヴン】の【アビリティ】として捜査を行う場合、電車などといった交通手段を使う場合は、限度額のないカードがわたされる。それを駅員に提示し、捜査状と【アビリティ】の証拠である首輪を見せれば、電車賃はその場で払う必要がなくなるので、いつもやっているように簡単に手続きを終え、外にでる。

正直なことを思うと、今、この瞬間でも、仮面の男が現れた際に、自分がどんな行動をとるのか、それが刃にはわからなかった。

なんの目的があるのか、それが【アビリティ】を集めている、というのは間違いがないが、その理由がわからなくなってしまった。特別ななにかをもつ【アビリティ】をあつめているのだとしても、刃たちが出会った【アビリティ】は、戦って見て分かることだが、なにひとつ普通の【アビリティ】とはかわらなかった。だからこそ、今回も、仮面の男が現れて邪魔してくる可能性がある反面、もしかしたら、現れずにことは簡単に進んでしまうのかもしれない。

もちろん、そうなってくれればありがたいのだが、そうでなかった場合は……覚悟を決めなければならない。

駅から歩くにつれ、なつかしい風景が目に焼き付く。昔……四年前、蓮を連れ出して逃げ出したあの日とはちがう……刃がまだ、普通の高校生だったときに通い、そして家に続く道を歩いた時と、かわっていない。

『刃、状況はどうだ?』

昔の風景を懐かしんでいると、耳に取り付けた無線機から、結衣の声が聞こえてくる。

結衣は、刃がこの場所にどんな思いを持っているのか知っている。刃が、この場所にターゲットが潜んでいると知ったとき、結衣が、どうして蓮を、普段ならペアで行動するはずの【アビリティ】を、単独で行動させたのか。ようやくそのすべてが理解できた。

際しよこそは、本気で刃がさぼったことに対する八つ当たりとか、蓮が疲れているからだとか、そんくらいの理由でしか考えていなかったが、どうやら結衣もいろいろ考えるところがあったらしい。その気遣いに刃はとても感謝していて、本当にここに蓮をつれてくるわけにはいかなかった。

自分たちを裏切り、見捨て、心に傷を負わせたこの町に、まだ、年の割に落ち着いているとは言え、14歳の蓮を、連れてくるわけにはいかない。

あれからたった四年たった……それでも、まだ、四年しかたっていない。そう簡単に、割り切ることなど、できるはずがない。当事者でなかった刃ですらも、未だに四年前の時から、なにも進歩してはいないから。

「最悪な気分だよ」

だが、結衣に自分の余裕のなさを伝えるわけには行かなかった。余裕がないことがわかれば刃は即時帰還、別の部隊がこの町にはいり、【アビリティ】を確保することとなるだろう。そうなれば、仮面の男との接触の可能性はなくなり、チャンスを逃すこととなる。

こんな絶好の機会で唯一動けるのが自分だけだという現状に腹が立つながらも、なんとか、仮面の男というプレッシャーと、過去の出来事を飲み込み、前に進む。

『あまり無理はしないで』