複雑・ファジー小説

Re: レイヴン【三話・因果】※作者トリップ変更 ( No.47 )
日時: 2015/07/10 11:18
名前: Ⅷ ◆S0/yc2bLaI (ID: 9oy0/Hp9)

ふざけているかのような無表情の仮面で顔を覆い、黒い、膝したほどまである長いローブで身を包んだ長身の男が、そこに立っていた。

刃は身震いした。最悪だ。なぜ仮面の男がここにいる。なぜこんなにも早く、なぜ、どうして、と頭の中で思考がぐちゃぐちゃになる。いまこの瞬間まで仮面の男が現れたらどうするか、などと考えていたことすべてが意味のないものとなり、刃はただただ、目の前の、絶望を体現したかのような男に目を奪われ、今この状況に恐怖し、動けなくなってしまっていた。

だが、そんな刃の状況など知ったことではないと言わんばかりに男は大仰に腕を広げ、愉快そうにしゃべりだす

「いやぁ……ここで待っていればきっと君がくるんじゃないかって思っていたんだよねぇ……そしたら本当に来てくれたじゃないか!ククッ……じつに私は運がいい」

愉快そうにしゃべりだす仮面の男を、刃は睨む。だんだんと落ち着いてきて、今の状況をなんとか受け止めることができてきて、それを見越してか、イヤフォンから結衣の声が聞こえる。

『仮面か?』

「最悪だ」

『できるだけ時間を稼いで。今、そこから半径50Km近辺にいる【アビリティ】に救援要請を送ってみるから』

「たのむぜ新城……!」

刃はフラフラと立ち上がりながら仮面の男を睨む。できるだけ戦うのは先延ばしにしたほうがいいと判断してからか、戦闘の姿勢はとらずに、だが、なるべく隙をつくらないように立ちながら、仮面の男の動向を探る。

だが、仮面の男は、刃が時間稼ぎをしようとしていることすらお見通しなのか、一度後ろを振り返り

「君にいいものを見せてあげよう」

という。

その言葉とともに、仮面の男の背後から、痩せこけ、薄汚れたシャツとズボンをはき、脇になにかを抱えた中年の男がでてくる。刃はその男をみた瞬間舌打ちする。おそらくだが、先を越され、民営のプールに立てこもっていた【アビリティ】を奪われたのだ。

だが、その男が抱えるようにしてもつものを見た瞬間に、刃は戦慄した。
まるで、スイカでもはいっているんじゃないかと思うほどおおきなプレゼントボックス。黄色い箱に、赤いリボンが巻かれた、祝いの席なんかでだしたら大盛り上がりしそうな物体。だが、その箱の底からは、赤黒い、まるで……血のような液体が、ぽつり、ぽつりと、地面に滴り落ちていた。

刃の顔が怒りに染まる。だが、その顔をみてさらに仮面の男は楽しそうに笑い

「後ろも見たまえッ」

その言葉に、刃は思い出す、そうさきほど刃が、人気を避けては通れないと言っていた場所……封鎖地点から少しだけ離れたこの場所で後ろを振り返ればきっと……人がいるはずだ。それなのに、【アビリティ】があらわれたことに悲鳴どころか、どよめきすらも聞こえない。足音も、喋り声も、なにひとつ、時が止まっているかのように————

刃はおそるおそる振り返ってその先には———どす黒い血の海の上にばらまかれた……かつて人だったものが、数十人分、転がっていた。