複雑・ファジー小説
- Re: レイヴン【三話・因果】※作者トリップ変更 ( No.48 )
- 日時: 2015/07/11 07:38
- 名前: Ⅷ ◆S0/yc2bLaI (ID: 9oy0/Hp9)
『おい、刃。あと30分もすれば救援がくる。それまで無茶は———』
「———おい」
イヤフォンから、結衣の声が聞こえてきたが、もうすでに刃には届いていなかった。ただただ刃は、ひどく冷たい声が、仮面の男に問いかける。
「……これはテメェがやったのか」
仮面の男はその質問に愉快そうにわらうと。
「ああ。すべて、私がやった」
その言葉を聞いた瞬間、刃の身体が掻き消える。消えたと思ったときにはすでに仮面の男の眼前まで迫り
「そうかよ」
と一言小さく漏らすのと同時に、渾身の力を込めた拳を振り上げ、無表情の仮面にむかってふりおろす。
「ククッッ!!」
だがそれにいち早く反応した仮面の男は、【力】をつかってその場から距離をとるのは間に合わないとふんで、腕を交差して防御をとる。だが、それでも刃の一撃をこらえきれずに、後ろに控えていた【アビリティ】ごと吹き飛ぶ。
それでも、仮面の男は余裕そうに着地を決めると、まるで芝居がかったように、片手を胸にあて、もう片方の腕を広げ、その状態でお辞儀をする。
「その拳……その【力】!!やはり君は!!」
そしてそう叫んだのと同時に、その姿勢のまま仮面の男の姿が掻き消える。刃は瞬時に身を反転させ、そこにあらわれた仮面の男の拳を片手で受け止め、受け止めたてで仮面の男の腕をつかみ自分のほうに引き寄せると、顔面にむかって頭突きを仕掛ける。
だが、頭突きは逆の腕に掴まれ勢いを殺される。刃は掴んでいた方の腕をはなし、瞬時に腹部にむけて下段からふりあげるようにして拳を放つが、それは仮面の男がバックステップを決めるように背後に飛びのきかわされる。
『刃!!これ以上無謀な戦闘は私が許可しない!!』
イヤフォンから、結衣の鋭い静止を促す声が聞こえる。刃の首に巻き付けらにれた首輪の小型カメラが起動する音が聞こえ。いまこの状況がすべて、結衣に筒抜けになるのがわかる。だが、刃はもうすでに、そんなことはどうでもよくなってしまっていた。
ただただ、全身を怒りが駆け抜けていくのがわかる。それは、嫌な感覚ではなく、むしろ、心地いいぐらいに刃は感じていた。
そう、このくらいでちょうどいい。この狂った男をたたきつぶすのには、このくらいが……
「体術、反射神経、判断力……そして【力】ッ!そのなにをとっても君はすばらしい!!」
仮面の男は刃から距離を取ったあと、大仰に両腕を天にかざし、身体を震わせる。その仮面の男の言葉が、行動が、すべて気に食わない。そのなにもかもを否定し、仮面の男が行った悪を、刃はいまここで、裁く権利がある。【レイヴン】の【アビリティ】として、理不尽な力を振りかざすこの男を、いま、すぐにでも。
刃は、拳を仮面の男にむかって突きつける。なにを悩むことがあった。なにを恐怖することがあった。いま、ここに、仮面の男が、【レイヴン】が血眼になって追う危険度SSSクラスの化物が目の前にいる。ならば、やることは一つだ。恐怖するのではなく、立ち尽くすのではなく、戸惑うのではなく、ただただ怒りと、自身の全身全霊の能力をここで発揮して、たとえ力が及ばなかったとしても、無残に敗北する未来しかなかったとしても————【レイヴン】の【アビリティ】に課せられた使命はただひとつ。
「【レイヴン】所属。片桐刃……これより目標を排除する」
刃は一言、そうつぶやくと、片手で自身の右目に触れる。【アビリティ】である象徴を覆い隠すものを取り除き、左目と全く異なる色をした・・・紅い瞳を晒す。
「来い。中途半端で美しい【アビリティ】君」