複雑・ファジー小説
- Re: レイヴン【三話・因果】※作者トリップ変更 ( No.49 )
- 日時: 2015/07/13 19:51
- 名前: Ⅷ ◆S0/yc2bLaI (ID: 9oy0/Hp9)
仮面の男はまるで、刃のことを迎え入れるかのように腕を広げる。それを見た、背後に飛ばされていた【アビリティ】が、地面にむかって腕を付く。それを見た瞬間、刃は、相手の【アビリティ】が水をつかう【アビリティ】だということを思い出しゾっとする。
住宅街のど真ん中、そこはまさに、水道管が張り巡らされている最悪な場所だ。そんなところで【力】を使われたら、たとえランクがA以下だったとしても、仮面の男と退治している状態でやられるのはまずい。だが、仮面の男はなにを思ったのか、その【アビリティ】に静止をかける。
「邪魔しないではくれまいか?同士よ」
その言葉をきいて、【アビリティ】は無言で腕をもどす。そして、壁に背もたれを付いて、こちらの様子を伺うようにみつめる。
仮面の男がなにをおもってそんなことをいったのかわからないが、これは好機だ。同等とは言えないが、同じ能力を持つ者同士ならば、なんとか隙をつければ一撃与えるチャンスがくるはずだ。その一撃にすべてをかければ、倒すことはできなくとも、撤退においこむことができるはずだと刃は思う。なにか、大切なことを忘れているような気がして一瞬思考を張り巡らせようとしたが、それを、仮面の男は許してくれなかった。
仮面の男の姿が掻き消える。空間操作能力。簡単にいってしまえば、自分自身を頭の中に思い浮かべた空間……場所。または、自身の目に映る空間に、無理やり自分をねじ込むこの能力は、基本奇襲や逃げることに特化している。だが、自分自身の肉体が強化されているタイプの【アビリティ】だった場合、相手に一撃食らわせるだけで、状況が一気に有利になるといえる。だから、空間操作能力を持つ者同士のたたかいは読み合いが全てだった。
掻き消えた瞬間、目の前に対象が現れたら防御、またはカウンター。もしも現れなかったら身を転身。背後にあらわれた敵に対して高度を起こす必要がある。そしてもし、背後にも現れなかった場合は、左右のどちらかに現れている。ため、それに対処する。
仮面の男が掻き消えた瞬間、目の前の空間が揺らぐ。瞬間仮面の男が現れ、刃の腹に拳を叩き入れんばかりに拳を振るう。だが、刃は身体をよこへそらし、逆に仮面の男の背後に飛ぶ。だが、それに仮面の男は反応し、回し蹴りを放つ。便利な瞬間移動能力だろうが、飛んだ瞬間に再び別の場所に飛ぶことは個人差はあるが、刃にはできないため、刃はそれをしゃがんでかわす。しゃがんだ反動で仮面の男の軸足に蹴りをいれる。しかし、仮面の男はそれを片足で上へ飛んでかわす。そのまま勢いでかかと落としはなつが、刃はそれを前方へ転がりかわす。
だが、その前転は判断ミスだった。仮面のしたから小さな笑いが聞こえたと思った瞬間には、仮面の男の姿は掻き消え、前転の途中で視界がわるくなっていた刃の右側に現れ、思い切り腹に蹴りをいれられる。
「ガハッ!!」
刃の身体から鈍い音がなり、宙を舞う。だが、ここで行動を起こさなければ、敗北は確実になると踏んで、刃は仮面の男の背後に飛び、痛みを堪えて裏拳を叩き込む。だが、背後に回された手で、いともたやすくそれを止められ、一度動きが止まる。
「私とここまで戦える【アビリティ】実に久しぶりだよ」
「黙って死んでろくそ野郎!」
「けど、怒りに身を任せても君は私には勝てない」
その言葉に刃は再び怒りに震える。
「んなの……まだわかんねぇだろうが!!」
刃は止められた拳に力をさらにこめて、無理やり押し切ろうとするが、仮面の男の力のほうが上なのか、びくともしなかった。
仮面の男はそれのなにがおもしろいのか、小さな笑いをこぼし続ける。その様子がさらに刃の腸を煮え繰り返す。
「私は君と最初に出会った時から、なぜか君のことが気になって仕方がなかったんだ」
その状態で仮面の男は語り始める。ただ相手に押し付けるような物言いで。喜々として。
「私と同じ違和感をもつ【アビリティ】……ただそれだけだったら東京エリアが飼っている人工【アビリティ】程度にしか思わなかっただろう。けれど君は、私のその思いを覆すかのように、自らの【力】に頼らず、拳のみで私に牙をむいた。その姿は私にとってとても美しく見えたのだよ」
長々としゃべったあと、仮面の男は刃の掴んでいる腕を両腕でつかみ、背負投の要領で投げ、地面に叩きつける。鋭い衝撃が刃の体全身を貫き、一瞬呼吸する事を忘れる。だが、次の瞬間に刃は起き上がり、右足を蹴り上げるようにして仮面の男に放つ。
だがそれもいともたやすくかわされる。体術、反射神経、判断力、経験。そのすべてが刃よりも上手であることはまちがいなく。刃のほうの体はたった2度攻撃をうけただけですでにボロボロになりかけていた。
「だがけしてそれだけでは、君のことをこんなに気にかける理由にはならない……なら、なぜ?なぜなのだろうねぇ……私はその答えを、もうすでにしっている」
だが、刃のそんな状態などいざ知らず、仮面の男は一人で語り続ける。そこに隙は一切生じず。刃はどうすれば仮面の男に一撃でも与えることが出来るか思考する。