複雑・ファジー小説

Re: レイヴン【第一話執筆開始】 ( No.5 )
日時: 2014/12/18 13:52
名前: Ⅷ ◆WlOcYALNMA (ID: f4MEHqWX)

「【アビリティ】のくせになまいきに外なんて歩いてんじゃねぇよくそが!!」

男たちのうち一人がそう叫んで、少女の体格に似合わないスーツ、その中に着ているシャツの胸ぐらを思い切り掴み上げ、持ち上げる。それでも少女は無表情を崩さず、怯えた表情ひとつ見せない。

それを見てもやはり周囲の人間は誰も助けようとしない。それはまあ、少女の首元に巻きついているもの……青年と同じ黒い首輪。【アビリティ】である証明。【レイヴン】の対【アビリティ】犯罪専門組織に所属している証がそうさせているからだ。

青年は、口元に加えていたタバコをとり、少女の胸ぐらをつかんでいる男の後頭部にむかって燃えている方が当たるように投げる。髪がこげる音とともに男が驚いたように少女を離し、後ろに振り向く。周囲にいた人々も、騒ぎに見入っていたせいでまさか助けに入る奴なんていないだろうと思い込んでいたからこそ、驚いた顔をして青年をみた。

まさか、もう一人【アビリティ】がいるなんておもわなかった。といわんばかりの顔をしている人々をみて青年は吹き出しそうになりながら、男の胸ぐらを少女にしていたかのように持ち上げる。

「なにすんだてめぇ!!」

ほかの男たちが突然現れた青年にむかって拳を振り上げる。青年は、持ち上げた男を力を込めて向かってくる男たちに投げつける。どこにそんな力があるのか、男は簡単に飛んでいき、男たちをなぎ倒していく。その光景をみながら、青年はズボンのポケットから四角い箱をとりだし、そのなかから再びたばこを銜え、もう片方のポケットからライターをとりだし火をつける。それとどうじに、今まで我関せずだった周囲の人たちが悲鳴を上げて始めた。

「【アビリティ】の分際で……調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」

男たちのグループの一人が、ポケットからナイフを取り出したことに気が付いた人々が悲鳴をあげるなか、男が青年にむかって一直線に近づいていく。青年はたばこを一度ふかし、そちらを一度だけ見ると、舌打ちを一度して、自身の間合いに男がはいったと思った瞬間、片足を思い切り跳ね上げ、男の下半身を蹴り上げた。

「ッッッッッッ!!!」

男は突然の激痛に顔を醜く歪め、ナイフを振り落とし、地面に白目を向いて倒れる。青年はボリボリと後頭部を一度かくと、たばこをもう一度ふかし、めんどくさそうに少女のほうに歩み寄る。

「おう、大丈夫かよ、蓮」

蓮と呼ばれた少女は、青年のことを感情のあまりこもらない瞳で睨むと、加えているタバコをジャンプして奪い取ると地面に叩きつけ、やはり少女には似合わない黒のパンプスの踵でごりごりと火を消してしまった。

「刃兄さん・・・タバコはやめるって前にもいってましたよね」

「そうだったか?」

刃と呼ばれた青年……片桐刃は、すっとぼけたようにそういうと、さっき火つけたばっかだろうがと、舌打ちをするが、片桐蓮。刃の妹であり、仕事のパートナーである少女に再び睨みつけられ、なにもいえなくなってしまった。

「まったく……」

蓮は、乱れた衣服を整えると、勝手に一人で歩いて行ってしまう。刃は、そのあとを追いかけるようについていきつつも、周囲の人間と、倒れた男たちを見回す。

周囲の人間は、刃の人間離れした怪力に驚いて声がでなくなっていた。それはまあしかたがないことだといえる。【アビリティ】とはいっても、一般人の運動能力を超越することはほぼないといえる。これは個人差が出ることが多く、【アビリティ】となった瞬間に運動神経なども比較的向上するものもいれば、そうでないものもいるのだ。

その事実は公表されていないので、人々はそのことをしらない。知らないからこそ、【レイヴン】の首輪に拘束されている【アビリティ】に手をだしてくる輩も絶えないのだが、余計な不安を人々に与えるわけにはいかないので、【レイヴン】本部のほうも少し混乱している、というのがこの怪力の正体だ。

もちろん運動能力が向上した【アビリティ】たちには厳重にその力を抑えろと、有事の際でしか使うことを認めないと言われているが、さっきのはまあ有事っちゃ有事だろ、と一人頷いて、またポケットからタバコをとりだそうとして、蓮が立ち止まっていることに気が付いた。

少しあるいてでたそこは、広場というか、休憩スペースというか、あまり人のいない場所だった。どちらかといえぱ若者より老夫婦のような人たちが好んで居座りそうな場所の入口近くで、蓮は刃に向き直る。

「ごめんなさい」

と、一言呟いて頭を下げる。刃は、ポケットで今まさにタバコをとりだそうとしていた手をぬき、蓮の頭に手をおいて、撫でる。

「あんまし心配させんなよ」

「……うん」

刃の一言には、重みがある。

その言葉の意味は、妹に対しての意味、仕事のパートナーとしての意味、そして……【アビリティ】に対しての意味も込められていることを、蓮は知っている。だから、なにも言わずに、素直に刃のいうことを聞き入れるのだ。

刃がてきとうに近くの自販機から甘めのコーヒーを二本買い、それを蓮に渡す。蓮はなにもいわずにそれをうけとり、プルタブをあけ、少しだけ口につけ、それを確認した刃が、プルタブをあげて、話はじめる。

「【レイヴン】としての捜査はまあ二人から四人でのチーム制で行うってことは知ってるよな?」

蓮がなにも言わずに頷くと、刃は続ける。