複雑・ファジー小説
- Re: レイヴン【第一話執筆開始】 ( No.6 )
- 日時: 2014/12/18 14:02
- 名前: Ⅷ ◆WlOcYALNMA (ID: f4MEHqWX)
「まあそれはさっきみたいな【アビリティ】狩りみたいなのを防ぐ意味合いがでかいからな。とくにお前みたいなちっこいのは狙われやすいんだから気をつけろ」
「うん」
蓮はけして新人というわけではないのだが、どこか気が抜けているぶふんがおおい、と上司からも多々言われているため、刃は念入りのそのあたりを注意してから、一度コーヒーを口につけた後に、再び話はじめる。
「んでまあ、なんでかこんなくそみてぇなところに潜伏した【アビリティ】犯罪者……危険度Aランクの発火能力者さんを探し出さなきゃならないんだが……はぐれてる間にめぼしいやつはいたか?」
「いえ……」
申し訳なさそうに蓮が俯く。おそらく刃とはぐれてすぐにあのさわぎになってしまったのだろうなとおもい、頭を軽く叩いてやり、ポケットのなかでくしゃくしゃになっているであろう、その【アビリティ】の顔写真をとりだす。
監視カメラにバッチリとうつってはいるものの、監視カメラの荒い画質をさらに引き伸ばした写真のために、正確な特徴が掴めないが、伸びきった髪は不潔感が漂い、目元が隠れていてよく見えず、口元は無精ひげがはえているところから、典型的な変異【アビリティ】といえる。おそらく、【アビリティ】となった瞬間周囲に見捨てられ、社会に見捨てられ、路頭に迷ってしまったタイプだろう。レイヴンに入るというてもあっただろうが、レイヴンに入れば完全に自分が【アビリティ】だと認めてしまい、そして、一生その名から逃れられないんだというストレスから暴走、犯罪へ・・・まあ一般的な【アビリティ】犯罪を犯してしまうタイプと一緒だろうと刃は一人納得しながらポケットに再びしまう。
「まあこんだけ不潔そうな顔してんなら人目みりゃ一発だろ」
「刃兄さん。あまり人を悪くいうのは感心しない」
「チッ」
「舌打ちも禁止」
「……チッ」
刃はぼりぼりと頭をかき、飲み干したコーヒーの缶をゴミ箱に放る。自販機のとなりにあるベンチに腰掛け、上を見上げる。運がいいことに、この広場のベンチの上には屋根が設けられており、夏真っ盛りの直射日光をさけられてはいるが、あついことには代わりがなかった。
袖で額の汗を拭い、シャツのボタンをもうひとつあける。それをみた蓮が、感情のこもらない瞳で刃のことを睨む。
「仕事中ぐらいちゃんとしてください」
「んなこと言ったってよ……お前のカッコみてるこっちも暑くなってくんだよ。ちょっとは着崩せ。もしくは一枚脱げ」
「レディに対して失礼ですよ刃兄さん」
文句を言う刃のとなりに座った蓮は、当然というか、暑かったらしく、ポケットからセンスをとりだし、自身を仰ぐ。それを恨めしそうにみながら刃は、これからどうするか、と考える。
「こんなくそみたいに人が多くてクソみたいに広いところで探すのはかなりだるいな」
「そうですね」
「でも、そうだな。こんな人が多い場所だったら、自然と人通りの少ないような場所に潜伏するのがベストなんじゃないか?」
「それも一理あります。【アビリティ】である以上、どこかしらに目印があるはずですから、それを隠しながら人ごみに紛れることは難しいですし」
蓮は、スーツのポケットからこのショッピングモールの案内図をとりだすと、それを広げる。【レイヴン】という組織は、東京のはずれのギガフロート……つまりは海上都市計画を中止して、そこに【アビリティ】収容施設と、【レイヴン】に所属している【アビリティ】を住まわせる居住区と、それを管理する組織のお偉いさんがたが指令をだす司令塔と、【アビリティ】の研究をするための研究施設が設けられている。それは、東京湾に浮かんでおり、橋で江戸川区に隣接している。江戸川区のその橋の近くには遊園地と一体化し、とんでもないデートスポットと化したショッピングモールがある。その面積は相等広く、江戸川区の三分の一を占めていると言われている。時代が変わるにつれこういった大きな施設は、【アビリティ】の驚異にさらされやすいといった影響で減ってきたのだが、ここは、【レイヴン】がすぐ近くにあるからといった理由でとんでもなく広く、危機感が薄い場所なのだ。だからこそ、潜伏するにはもってこいで、そして、犯罪を、騒ぎを起こすのにも、もってこいだと言えるだろう。
かと言って、こういった人が多い場所では潜伏する場所が限られてくる。【アビリティ】特有の身体のどこかに変化した部分が目立てば目立つほど、騒ぎになり、【レイヴン】へと通報がはいるからだ。
【レイヴン】の調査は基本、民間人、警察、政府のどこかからの依頼が多くの割合を占めている。今回のケースも、夜中の警備の時に監視カメラに写りこんだ男の容姿が、【アビリティ】になり立てで、行き場を失い、不潔そうな見た目だったために【アビリティ】が侵入していると通報があったのだ。それだけで【アビリティ】と判断されるのもかわいそうではあるが、警備員の目撃情報もあり、ちゃんと部位も確認できていると言われれば、【レイヴン】が動かないという理由はなかった。
「にしたってよ、なんでここは臨時休業とかしねえんだろうな」
「急な臨時休業をすると【アビリティ】が不審がっていなくなってしまうからですよ」
蓮がすこしかなしげにそういう。それをみた刃は、人が【レイヴン】に求めている存在意義を思い返す。
【レイヴン】という組織は、人々にとって、たしかになければならない存在となっているのはたしかだろうが、【レイヴン】という組織が人々に歓迎されているわけではけしてなかった。性格にいうならば、【レイヴン】に所属する【アビリティ】という存在が、だが。
だからこそ、さっきのように、【レイヴン】の【アビリティ】とわかっていても、わかっているからこそ、難癖をつけてくるようなやつがいて、周囲の人間も、それをただただおもしろそうに傍観しているだけなのだ。
【レイヴン】に求められるのは、【アビリティ】の完全排除。つまり殺害……ただそれだけであって————けして、同じ世界で息を吸うことではないのだ。
刃は一度舌打ちすると、気分を紛らわそうとすこし明るげな声をだしていう。
「かといってこんな人が多いんじゃよ……捜査する気も失せるってもんだ」
「……そうですね」
すこしの風もなく、蓮が仰ぐ扇子の風邪だけでは物足りなく感じた刃は立ち上がり、額ににじみ出る汗を再び袖で拭い、ポケットに手を突っ込みながら
「ま、発火能力者様がただでさえ【力】のせいで熱いだろうにこんなくそ暑い外にいるとは思えねえ。とっととモールのなかに入っちまおうぜ」
と言うとともに、蓮も立ち上がる。悲しげな顔を拭えない。これから、自分たちが、何を求められていて、何をするのかがわかっているからこそ、蓮の普段はあまり感情が宿らない瞳は悲しげにふせられる。
刃はそんな蓮の表情が耐え切れず、歩きだす。自分たちがこれからなにをしなければいけないのか、何をするのか。どんな理由をならべたところで、どんな理屈があったとしても……やることは、
『人殺しと、何一つ変わらないから』