複雑・ファジー小説

Re: レイヴン【第一話執筆開始】※微調整 ( No.7 )
日時: 2014/12/18 16:58
名前: Ⅷ ◆WlOcYALNMA (ID: f4MEHqWX)




人が多くいるこの場所で、人通りが少ない場所というのはかぎられてくる。
それは、あまり人気のない場所のトイレが基本で、警備員に一度聞いた限りの情報だと、トイレにはいったきり【アビリティ】がでてきた様子はない、ということだったが、どうしてか捜査を攪乱するかのように、どこのトイレか、とまでは警備員は一度も口にしていなかったな、と刃は思う。だから念のため最初に野外に設置されているトイレなども探していたのだがただ無駄に時間を過ごしただけだったらしい。

このショッピングモールの構造は、東西南北……つまり東に1、西に1、南に1、北に1エリアごとにわかれていて、エリアごとにたくさんのテナント……つまり店がたくさんある、といった形式で、かくエリアごとにはトイレが最低でも3つ以上はあるというのが、蓮がもっていた案内図を見た限りだとわかる。

十字架のような形をした建物なために、クロスショッピングモールと名付けられているこのショッピングモールは、東西南北のエリアは、連絡通路で渡り歩くことが可能だが、反対側のエリアにいこうとすれば、真ん中にある広場に一度でなければならない。

そのため、もっとも人口の密度が高いとすれば、その広場だといえる。

待ち合わせに利用するものもいれば、買い物につかれ休憩するものもいる。談笑するものもいれば、ただただ涼んでいるだけのやつもちらほらとみえるなと思いながら、刃はすっかりと冷房で冷え、まだすこし残る汗をぬぐいあらかじめ蓮から受け取っていた案内図をひろげる。

だが、案内図をみていても、人が少ないエリアというのはわからない。うんざりとした顔で案内図をしまい、あまりの人のおおさに頭をかきながら舌打ちする。

「刃兄さん。舌打ちはやめてください」

蓮に静止されるが、刃はめんどくさそうにため息をつくだけだった。

捜査、といっても、【レイヴン】に、依頼側が完全に情報を提示するケースは少ない。それは、【レイヴン】という組織を・・・いや、【レイヴン】が派遣してくる【アビリティ】たちに信頼がないからだろう。もしそいつらが目撃した【アビリティ】と手を組んだりしたら……なんていう余計な考えからか、捜査自体に協力的になれないのだ。その気持ちはわかるし、人間の、未知なる【力】への恐怖心が並外れたものではないのは、刃達も理解しているが

「情報がなきゃいつまでたってもお前らの敷地に【アビリティ】を野放しにしておくようなもんだろうが。くそ」

刃はむしゃくしゃしながらあたりを見回す。ちょうどここは中央の広場なので、どこのエリアに行こうとしてもいける場所だ。行き交う人々のなかには、次どこにいくか相談しているカップルとかもちらほらといる。

それをみた刃が、なにかを思いついたのか、蓮の耳元に顔を近づけ、耳打ちをする。その刃のあまりの突拍子もない発現に蓮のあまり感情を宿さない瞳がすこし見開かれて、驚いた顔をする。

「刃兄さんっ、あまり目立つようなことは——」

「だーいじょうぶだって。ま、見とけよ」

そういいながら刃はある一方にむかって歩きだす。刃を静止しながらも、さきほどのようにはぐれてしまってはもともこもないので蓮もしぶしぶとついていく。その二人が目指す先には、ひと組のカップルがベンチにすわって、さきほど刃が見ていたのと同じ案内図をみながら談笑している最中のところだった。

「なあ、あんたら」

「え?」

突然声をかけられたカップルが、案内図をしまい、顔をこちらにむける。好青年といった風貌の男と、遊んでそうな容姿をした女が並んでいる姿に刃は若干おもしろいな、とおもいながらも、自分の首元を、正確には、首元に巻き付いている首輪を指さして言う。

「【レイヴン】所属の【アビリティ】だ。捜査にすこし協力してくんないか?」

カップルの顔が、一瞬で恐怖にひきつる。だが、【レイヴン】の【アビリティ】なら強くでても反撃なんてしてこないだろうと男のほうがおもったのか、立ち上がり、刃の顔を睨みながら、若干震える声で言う。

「【アビリティ】がなんのよう?」

「そ、そうよ、【アビリティ】のくせに話しかけてこないでよね」

女も、それにつられるかのように強気に出る。後ろで蓮が心配そうに刃をみているのを感じとりながら、刃は髪をかき、舌打ちを一度する。

「今言わなかったか。捜査に協力してくんねえか?」

「なんで僕たちが【アビリティ】なんかに……」

「まあいいじゃねえか。な?とりあえず座れよ」

刃が男の肩に手を伸ばし、男を無理やり椅子に座らせる。男のほうは、刃にさわられたことが腹にきたのか、イライラとした口調でいう。

「だいたい【アビリティ】でなんでこんなところにいるんだよ……ここの警備員は何やってんだ」

「ちょっと!!あんた、たけくんにさわんないでよ!」

刃のほうも、自分から言い出したこと……つまり、そこらへんにいるやつらに話を聞いて回っちまおうぜ、という、本当に突拍子もなさすぎることをなんで実行しようとしたのか、とだんだんとイライラし始める。

ポケットからたばこをとりだそうとして、蓮が近くにいることを思い出しそれをやめると、座らせた、たけくんとよばれた男に目線をあわせ、思い切り睨みつける。

「そのお前がいう警備員様が、俺たちをここに呼んでんだよ……ここまで言って理解できねえか?」

男の顔が今度こそ恐怖に染まっていくのが分かる。女のほうは、刃がなにを言っているのかわかっていないふうで、まだ刃にかみつこうとしたが、男の、異常に染まった恐怖を感じ取り、黙り込んでしまう。

「別に俺だって好き好んでこんなクソみたいに人がいるところには来たくなかったし居たくもねえ。だが【獲物】がどこにいそうかも検討がつかないとおちおち帰れもしない。どっか人通りが少ない場所……その付近の便所なんかでもいい。【獲物】が潜伏できそうな場所がこのショッピングモールにあるとしたら、どこだと思う?」