複雑・ファジー小説
- Re: レイヴン【第一話執筆開始】※微調整 ( No.8 )
- 日時: 2014/12/19 03:09
- 名前: Ⅷ ◆WlOcYALNMA (ID: ehSJRu10)
男は、青ざめた顔で刃の質問に応えるために案内図を広げる。目先にいる【レイヴン】の【アビリティ】よりも……おそらく潜んでいるであろう、別の【アビリティ】に対する恐怖のほうが優ったのだ。枷がある犬は怖くないが、枷のはずれている犬はなにをしでかすかわからない。【レイヴン】の【アビリティ】を否定してもしきれない現実が、そこにはあった。
やがて、男はとある場所を示す。そこは、北エリアの一角、よくみないとわからないが、ただいま新規テナント募集中とかかれた北エリアの三分の一を占めるその一角の付近には、たしかに、トイレが存在し、そして、人通りも少ないということは、容易に想像できた。それをみた刃が、男から案内図を取り上げると、蓮にもそこを示し、頷く。きっとここで間違いないだろうと、蓮も同じように頷く。それを確認した刃は、男に案内図を投げ返し。
「協力感謝する」
とだけいい、その場をあとにする。
蓮も、刃のあとをついて歩く。その後ろで、さきほどのカップルのうちの男が、はやくここをでようだの、ここはやばいんだって、と喚き散らしているのが聞こえてきて、女がなにもわかっていないのか、必死になだめているのが伝わってくる。周りの人たちが何事だとそちらのほうをみて、そのカップルはちょっとした注目の的になってしまっていた。
「……刃兄さん。趣味悪いですね」
蓮が呆れたようにそういうと、刃は、蓮に歩く速度を合わせて、横に並んだあと、髪をかきながら
「べつに狙ってなったわけじゃねーよ」
と申し訳なさそうに呟く。
だが、必要な情報はてにはいった、と刃は頷く。さきほど蓮からうけとった案内図を再びポケットからとりだし、北エリアのほうをみてみる。するとそこには、どこかしらの店のロゴだのなんだのが並んでいて、さきほどみせてもらった案内図とすこし異なっていたのに気が付く。
「なあ、なんで俺たちのこの地図にはさっきのエリアがのってねえんだ?」
蓮が不思議に思ったのか、案内図を覗き込む。それを見た後
「たしかに、のってませんね」
「あのくそ警備員……古いやつわたしやがったか?」
表紙デザインもリニューアルしていないため、さきほどのカップルが見ていたものより古いやつなんて誰が思うだろうか。刃はまた舌打ちしそうになりながらもいらいらと歩く。
「いくら【レイヴン】を信じてないにせよ本気で【アビリティ】を炙り出す気があんのかよ」
「あるとは、思いますよ」
ただ、私たちがこわいだけです、と蓮は小さくつけたした。
とにかく、と蓮がいい、さきほど示してもらった場所、刃たちがもつ案内図には聞いたことも見たこともない服屋だか靴屋だかなんだからしらない店が立ち並ぶエリアをさして
「このエリアが今一番怪しいので、早急にむかいましょう」
という。
中央の広場から、北エリアへと足を運び、案内板を目ざとく発見した蓮が先に行き、目的の場所を見つけると刃を手招きする。
そこにはやはり、さきほどのカップルがもっていた案内図と同じところに、テナント募集とかかれたエリアがあった。ついでに、案内板の横に設置されている案内図の紙を一枚引き抜き、そこに、なにを思いついたか刃が、さきほどまでつかっていた案内図を折りたたみ、かわりに差し替えて、したり顔を蓮にむける。
「……たちわるいですね」
「なんとでもいえ」
北エリアは主に、ファッション関係の店が多くならぶエリアらしく、名前だけは聞いたことがあるような店が軒を連ねており、黒いスーツ姿の二人はあまりにもこの場所では浮いた存在となっていた。
若者むけのファッション店が、ふと刃の目にはいる。ひらひらのミニスカートやら、丈の短い、ホットパンツとでもいうのか、いかにも夏に若者が着てそうな、そして買い求めそうな服をきたマネキンを、頭のなかで、となりにいる蓮の姿を重ねてみてみる。
無表情で、いつも眠たげにしていて、ボーっとしていることが多い蓮だが、兄の目から見ても、かなりの美少女であるのはまちがいない。だが、もしも蓮がああいった露出の多い服をきていたら、間違いなく刃は気が狂ったか?といいそうになるぐらいに、ひらひらしたスカートやらショートパンツやらが蓮には似合わないな、と刃は一人頷いた。