複雑・ファジー小説

Re: デッドバスター  ( No.140 )
日時: 2015/04/25 10:06
名前: KING ◆zZtIjrSPi. (ID: KnTYHrOf)

【かぐやが会議室に入る1時間前】

———三城。お前に再び使命を与える。
———はい。如何なさるのですか?
———……今度こそ竜堂かぐやの首飾り——王の鍵を奪い取れ。強奪という形になっても構わない。一刻の猶予もない。
———あちらは、必ず抵抗するでしょうが———その時は?
———愚問だ。最悪……殺し合いになっても構わない………。

(——……嗚呼、残酷だ。俺が愛してる女を殺せというのか)

 俺は、目も合わせず命を出した勇魚司令官を凝視した。
 それと同時に失望した。
 王の鍵は世界を左右する。それだけは知っている。
 だけど、だけど—————……!!





                   No14        切望のフリージア






「……ったく、放っとけばいいのによぉ」
「………ダメ……。貴方の監視を梶原長官に命じられたの……。だからここにいて……」

 病室には、鬱陶しそうに頭を掻く花京院。
 そんな彼を蛆虫のような目で見るのは西園寺であった。
 西園寺は大きくため息をつくと膝の上に置いてあるDVDを撫でた。

「……あなたがいなかったらこの映画も見られたはずなのに……。怪我をしたあなたのせいよ……。モブ以下だわ……」
「だれがモブ以下だよこの陰険女」

 苛ついた様子で花京院は吐き捨てるように言い放った。
 すると、タタタタッと何か焦るように走る音が聞こえた。
 西園寺は全く気にしていない様子だったが、花京院はこの足音は歴戦の経験で誰のものだかわかっていた。
 この足音は郡司だ。
 本来ならスルーしようと思う場面だが、花京院にはやらなければならないことがあったのだ。

———頼む、空悟……。妹……かぐやに……!
(……そういや、帝さんに……)
「飛来ぃ!!!!」
「うおっ!?行き成りなんなのさ花京院さんそんな大きな声だせんだったらもう退院でいいんじゃないの!?」

 全身の力を込めて大きな声を出す花京院。
 その声に驚いた飛来は駆け足をしながら反射的に花京院のいる病室へ顔を出した。
 そんな彼らに西園寺は眉をひそめた。

「……ちょっと……。ここは一応病室よ……。大人しくするのが常識なのにそんなこともできないだなんて……虫ね」
「それは花京院さんに行ってほしいな西園寺ちゃん」
「黙れ。……おい、それより飛来。これ、持ってけ」
「?」

 ブンッと花京院は懐にしまっていたらしい白い手帳を郡司に投げつけた。
 難なくそれをキャッチするが、郡司はこのことに何の意味があるのか理解できず、首をかしげた。

「……そこに、帝さんの思いが全部書いてる。俺の話なんざ聞かなくても全部記されてる」

 そう言って花京院はごろんと郡司の顔とは逆方向へ体制を変えた。
 郡司は納得したようにあえて何も言わず、小さく「ありがとう」と呟いて再び走って行った。
 ようやくうるさいのが消える……と思った西園寺。
 だが、それとは真逆に花京院はすぐそこにあった車いすに手を伸ばしていた。
 ギョッとした西園寺は慌ててその手から車いすを遠ざける。

「……な、何をしているの……!?あなたは動けない身、安静にしている身……。それに梶原さんの命も受けているわ……。あなたはここから動かせない」
「……うるせぇんだよ。俺は行かなきゃならねえんだ」
「……どこに……?」
「———アイツがいるとこだ」

 苦しそうに脂汗を額に滲ませながら花京院は無理やり車いすに乗り移った。

「……心から愛せない俺への、投げやりのプレゼント……心を失った者への手向けだ馬鹿野郎」
「え………?」

 それは、誰に行っているのかわからなかった。
 私か、かぐやか、秀也か。あるいは郡司——この世界の人間か。
 彼の言葉は西園寺の頭では理解できなかった。

Re: デッドバスター  ( No.141 )
日時: 2015/04/26 13:03
名前: KING ◆zZtIjrSPi. (ID: KnTYHrOf)

「……もう我慢ならん!モニター室に言って直接戦闘を制止する!麗、草薙!一緒に来てくれ」
「わかりました」
「……俺は上の言うことは……」
「いいから行くんだ」
「いっ……!わかった、放せ……!」

 バタバタと会議室から出ていく梶原。
 梶原の命を受け麗も走り出す。
——が、上層部の言うことはあまり聞かない草薙は眉をしかめた。
 いつもの彼はどこ行ったといわんばかりに麗は草薙の耳を引っ張り、無理やり会議室から出した。








「うっ……」

 ガラ……。とコンクリートの日々入った瓦礫を背もたれにするかぐや。
 その姿はあまりにも痛々しく、見ているほうが目をふさぎたくなるほどのダメージを負っていた。
 打撲や切り傷、脱臼はあるだろう。
 そんな彼女を見下ろして秀也は皮肉気に笑った。

「ボロボロだな……。さっきも言ったがなぜ攻撃しない?俺と互角——あるいはそれ以上の勝負ができただろうが。余裕の憐みか?」
「違う。わたし、秀也と戦いたくない」
「……!」

 やめろ、やめろ———……!
 そんな目で俺を見るな。昔みたいな目で俺を見るな。
 お前は“強すぎる”。
 それじゃ、ダメなんだ。だから俺は———……!

「戦う理由は、俺にある!!」
 
 ガンスタイルの銃口をかぐやの眉間に向ける。
 引き金を引こうと人差し指を動かすが、彼女には恐怖や迷いが一切見られなかった。
 だ経真っ直ぐ秀也を見上げていた。

———パァァァン!!!!

 引き金が、引かれた。
 勇魚やモニターを指導しようとする最中の梶原たちもそう思った。
———パキィィィン……。
 ガラスを砕くような、そんな音が響いた。
 かぐやはハッとガラスが砕けたようなものが下に落ちたので、それを見ると、銃弾が真っ二つに斬られていた。
 彼女の目の前には攻撃重視の三日月型の剣で威力は凄いが脆い面もあるブレイブ——サイクロンで居合切りをした雁渡が立っていた。

「……これは一方的じゃないかな?勇魚司令官殿、そして、三城君」
「雁渡さん!」

 優雅に言う彼女にかぐやは嬉しそうに雁渡の名を呼んだ。

「何の真似だ雁渡さん。これは勇魚司令官の命によってやっていることだ。なぜ邪魔をした!?」
「邪魔をしたつもりはないよ。さっきも言った通り——これはただの一方的な攻撃だ」
「………」

 唸るような秀也の言葉に雁渡は柔和な笑みを浮かべながら傷だらけのかぐやを横目で見た後、凄む様に勇魚を見た。
 勇魚はそんな彼女にも動じずただ、様子をうかがっていた。

———ピギィィィィ!!
 ギュルン、とかぐやと秀也の体がロープのようでロープではないものに拘束された。
 それは、光状でとても固い。何大抵措定校では解けそうになかった。

「な、何よこれ!動けない〜〜〜っ」
「バインド……!?」

 んー!と抵抗するかぐやとグググ……。と手を動かす秀也。
 ガチャっと音とともに頭上から梶原のアナウンスが聞こえてくる。

『かぐや。三城。悪いがこれ以上は君たちに危険が及ぶと判断して拘束させてもらった。君たちの怪我は後で———』
『ごめん梶原さんそこどいて!!!!』

 梶原を押しのけたらしい息遣いの荒い声。
 それは郡司のものであり——マイク越しにガサガサと何か髪をめくる音が聞こえてくる。

『かぐや。今から俺からいうことを聞いてくれ。さっき花京院さんからもらったんだ。帝さんの日記』
「……兄さんの……!?」

 ドクン。
 と、かぐやの心臓は高鳴った。
 兄の遺物は子の首飾りとしか思っていなかったのに。
 日記があるだなんて。

『じゃあ、今から書いてあるこというから』