複雑・ファジー小説
- Re: 虹至宝【キャラ募集一時終了】 ( No.14 )
- 日時: 2015/01/01 10:27
- 名前: kiryu (ID: nWEjYf1F)
遺跡の最深部まで足を運んだ2人は、そこにあるものを見て、ただ呆然と口を半開きにするしかなかった。
「え……何、これ……」
「さ、さ、秋刀魚だぁ?」
今までの景色と全く代わり映えのない最深部には、如何にも怪しげな台座が1つ中央に置いてあった。
そこに乗っている物が何かと言えば、それはそれは美味そうに身の張った、かなり上質な1匹の秋刀魚。
未開の遺跡にて苦労してここまで足を運び、得た結果がこれである。
2人は暫く呆然とした後、気が抜けたように溜息をついた。
「……はぁ」
「……じゅるり」
「涎垂れてるよ」
「にゃはは、つい」
しかし溜息をついたのはアレンだけで、ジェシカは代わりに涎を垂らしていた。
元来猫である為だろうか。猫又族は総じて、魚介類の類が好物とされている。
無論、ジェシカもその例にもれなく当てはまっている。
「食べたいにゃ〜……」
「やめとけ。腹壊すぞ。今日の夕飯が丁度魚だから、一緒に食べよう」
「やったぁ!」
がしっと飛びつくジェシカを受け止めたアレンは、そのあまりの軽さに少し驚いた。
『初めてこの子の身体に触れたけど……こんなに軽くていいのか?』
盗賊といえど、やはり貧しいものは貧しいのだろうか。
そう思いながらジェシカの柔らかな身体を堪能していると、不意に彼女が彼の腕から離れた。
かと思えば今度は、台座の上にあった秋刀魚を引っ掴む。
「おい、何を——」
アレンの言葉の最後「するつもりだ?」の辺りが言葉になる前に、ジェシカは彼の背後へと回りこんだ。
よもや悪戯ではあるまいな。そう思ったアレンが休息に背後を振り返ったが、彼女の姿は既に遠くにあった。
一体何をしているのか——近付きながら見てみれば、ジェシカは秋刀魚を遺跡の壁にある型に嵌め込んでいた。
「な、何してるんだ?」
「えへへ、凄いでしょ。なんかピッタリ」
「……ほんとだ」
壁の型に収まった秋刀魚は、見事にピッタリと嵌っている。
しかし、何故秋刀魚なのだろうか。
ぐるぐると脳内で思考を巡らすアレンだが、一向に答えは出てこない。出てくる気配さえない。
1つ思いつくとなれば、罠。
魚好きの何かをおびき寄せるための罠だろうが、流石に考えすぎかと思い、アレンはその思考を止めた。
「変なのー。こんなところに秋刀魚だなんて」
「まあ、とりあえずここで行き止まりみたいだし、引き返そう」
「そだね。あの道を戻るのはちょっときついケド」
「あのなぁ、俺は人間だぞ? 猫のお前よか、身体能力は遥かに下だ」
踵を返した2人が、他愛もない会話を重ねながら来た道を戻ろうとしたときである。
遺跡全体が、唐突に激しく揺れ始めた。
「うわ!」
「ニャ!」
2人は思わずバランスを崩し、転びそうになった。つまりは地震である。
小規模な落盤が起きているところを見ると、もう長くは持ちそうにない。このままでは危険だ。
そう危惧したアレンは、ジェシカに早く遺跡を脱出するように促した。