複雑・ファジー小説

Re: 虹至宝【キャラ募集一時終了】 ( No.19 )
日時: 2015/01/01 22:45
名前: kiryu (ID: nWEjYf1F)

 アレンがギルドに戻ると、ジェシカは既に目を覚ましていた。
 猫の姿でいるという約束は守っているようだが、彼女はこの時点でギルドの仲間と遊んでいる。
 それもかなり盛り上がっているようで、中にはジェシカが人間になった姿も見たいと言い出す人もいるらしく、見せる側になっている彼女は何かともったいぶりながら色んな人物の気を惹いていた。

『馴染みすぎだろ、あいつ…………あ』

 ここでアレンは、1つ忘れていたことを思い出した。
 ジェシカのための布を調達していない。

「はぁ」

 もう今日だけで何度目か分からない溜息をつくと、アレンは渋々ギルドを後にした。

「アレン? 今日はここで泊まっていくんじゃないの?」

 その寸前に話しかけてきたのは、寝巻き姿のナタリア。
 タオルを首に掛けたまま髪を拭いている。

「あ、ちょっと野暮用で」
「ふうん、そう。何でもいいけど、早く戻ってきてね」
「はい」

 そして、今度こそアレンはギルドを後にした。


    ◇   ◇   ◇


「えーっと、ここでいいのか」

 裁縫関連の店に行くのは何年ぶりだろうか。
 アレンは暫く城下町を歩き回った末、やっとの思いで見つけた店を前にしてまたしても溜息をついた。
 幸せが逃げるなんて、迷信に違いない。そう思いながら彼が店の中に入ろうとしたときである。

「——アレン・シュトラウス」

 突然響いた低い声が、彼の名を呼んだ。

「——誰だ」

 アレンはその場から微動だにせぬまま、そう言葉を発した。
 しかし、彼は既に知っていた。この独特の声を持つ人物の正体を。

「しらばくれるなシュトラウス」
「……」

 無言で振り返ればそこには、予想通りの人物——金髪黒目の海賊こと、ゼルフ・ニーグラスが立っていた。

「珍しいな、海賊が陸に上がるとは。今日は何の用事だ? 生憎金なら持ってないが」

 アレンが警戒心を強めるのには訳がある。
 彼は一昔前、ゼルフの率いる魔族で結成された海賊団と戦争を起こしたことがあった。
 その際は国民からの依頼により、近頃悪行が過ぎるとされていた彼らを懲らしめるために仕掛けたのである。
 当時はそのまま特に死傷者を出すことも無く去っていったゼルフたちだったが、此度はどのような理由でここにいるのだろうか。アレンからしてみれば、復讐以外に思い浮かぶことが無かった。

「今日はお前に、忠告をしに来た」
「忠告?」
「そうだ」

 ——沈黙が流れる。ゼルフが、忠告をしに来た現実をアレンに受け入れさせるためのものだ。
 それを知ってか知らないでか、アレンはただ1つ頷き、説明を促した。
 促されたゼルフも1つ頷くと、ゆっくりとこう告げた。

「——お前の命を狙っている刺客がいる」
「……刺客?」
「そうだ。分かりやすく言うならば、暗殺者だな。お前は現在、暗殺者に追われている」

 ——突拍子も無い話である。アレンは俄かに信じ難く、反応さえも出来ずにいた。

「この話を信じるか信じないかはお前次第だが、あくまで俺は海賊。本来ならば海の上にいるところを、こうしてここまで来て、話をつけた。お前とて錬金魔法の使い手……この意味が理解できるな?」
「……あぁ」

 確かに、改めて考えてみるとそうだ。ゼルフは海賊でもあり、同時に敵でもある。
 そんな彼が態々ここまでやってきたのだから、事の信憑性はより一層巨大なものへと変化する。

「その話、詳しく聞こうか」
「いいだろう……ならば、立ち話もなんだ。その辺の店に入るとしよう」

 そうして2人は長い話になると看破し、丁度裁縫店の隣にあったファーストフード店に足を運んだ。